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83.使者

 朱雀と一緒ということは紅夏(ホンシャー)も着いていったのだろう。動揺している己の代わりに行ってくれたのを正直ありがたいと紅児(ホンアール)は思った。

 例え国からの返書を携えてきただけだとしても謁見は一日がかりである。

 セレスト王国からの問い合わせに対する返書。それには貿易商の一人娘であるエリーザ・グッテンバーグと思しき14歳の少女を四神が保護しているという内容だった。この国に頻繁に来ている貿易商であれば唐には四神という生き神がいることを知っているはずである。よしんばグッテンバーグ家にわかる者がいなかったとしてもセレスト王家は理解している。だが四神の花嫁が降臨したことについては初耳であろう。だから本当は四神の花嫁が保護しているのだがそのことは書かれなかった。

 もちろんそれは花嫁もわかっている。だが後見人が花嫁であることに変わりはないので予定通り彼女は王城内にある謁見室に向かった。

 基本四神宮の謁見の間は使用しない。文書自体は国家間のやりとりであるからだ。

 侍女たちが気合いを入れて着飾られた花嫁はいつも以上に美しかった。化粧もいつもよりきつめに見えるようにアイラインが引かれていたのが印象的である。これは使者になめられないようにとのことなのだろう。


 朱雀に抱かれて四神宮を出て行った花嫁は、かなり時間が経ってからひどく疲れた様子で戻ってきた。


 紅児はいろいろ尋ねたい衝動を抑えながら、花嫁が寛げるように急いで支度をする。

「ただいま……ちょっと頭の中を整理したいからもう少し待ってね」

 すまなさそうに言う花嫁にとんでもないと首を振る。侍女たちが花嫁を衣裳部屋に押し込み手早く着替えさせる。この衣裳部屋はかなりの広さがある。毎日届けられる贈り物が増えているというのに一向にいっぱいになる気配がないというすごい部屋だ。紅児も仕分けをした贈り物を運ぶことがあるので足を踏み入れたことがある。

 髪型もゆったりしたものに変えられ、楽な恰好になった花嫁にお茶を入れる。本当に疲れたのか、「ごめんね」と前置きして花嫁は長椅子に寝そべった。(イエン)がそれに嘆息する。

 花嫁はそれに構わずお茶に口をつけると目を閉じた。しばらくそうしてから、

「……なんだかなぁ……」

 と呟き、朱雀を呼ぶように言いつけた。


 そう間も置かずに朱雀が訪れ、花嫁の部屋にいるのかと思ったら彼女を抱いて連れて行ってしまった。


 首を傾げたい気持ちであったが紅児は我慢する。

 もしかしたら紅児にとって悪い返事だったのかもしれない。特に何か予定があるわけでもない日だったから余計にそんなことを考えてしまうのかもしれなかった。

「……紅児、眉根が寄ってるわよ」

 延に指摘されてはっとする。もう一人の侍女が同情するような表情を浮かべていた。

「……申し訳ありません」

「花嫁様が思慮深い方なのは知っているでしょう。必ず貴女のよいように取り計らってくれるからそんな顔はするものではないわ」

「はい……ありがとうございます」

 延もきっと悪い知らせを予想しているのかもしれなかったが、気にして声をかけてくれたことが紅児は嬉しかった。

(心配かけちゃいけない……)

 そうでなくても四神宮にいる人々は紅児にとても優しくしてくれるのだから。


 しばらくもしないうちに花嫁は朱雀に抱かれて戻ってきた。今度は白雲と紅夏が一緒である。

「エリーザ、茶室に行くわよ」

「は、はい……」

 実は茶室に入るのはこれが初めてだった。お湯やお茶菓子の準備がなされると花嫁は人払いをした。

 花嫁が一番手前の席に腰かけ、その隣に朱雀が腰かける。紅児は花嫁の反対隣に腰かけるよう指示された。

 戸惑いながら腰かけると優雅な手つきで花嫁がお茶を入れてくれた。これが茶藝の道具かと繊細な器具に魅せられる。茶托に長細い筒のような湯呑みと小さい湯呑みが置かれている。その長い方に花嫁はお茶を注ぎ、「こうするのよ」と実演してくれた。

「慣れるまでは熱いから、気をつけてね」

 長い方の湯呑みに小さい湯呑みを逆さまに被せ、親指と人差し指で湯呑み同士の底をしっかりと持ちひっくり返す。長い湯呑みをゆっくりと持ち上げ、香りを嗅ぐ。なんとも爽やかな香りがして、紅児は顔を綻ばせた。それに花嫁が微笑む。

 そこでやっと紅児は己の顔が強張っていたことに気付いた。

 気遣わせてしまったことを申し訳なく思いながら小さい湯呑みに口をつける。


 熱い。

 少し啜り、口の中で転がした。

 コクリと飲み込む。

 馥郁とした香りが口の中に広がった。


「おいしい……」

「それはよかったわ。いっぱい飲んでね」

 飲み終えるとまたついでくれる。

 少しそうしてお茶を何杯か飲んだ後、花嫁は口を開いた。


「エリーザ、貴女の叔父という方が迎えに来られたわ。名が確か、ベンノ・グッテンバーグと名乗られたと思うけど、合っているかしら?」

 記憶を辿る。紅児にとって叔父は叔父である。だが確か父は……とどうにか「ベン」と呼んでいたことを思い出した。

「……あ、はい。叔父だと思います……」

 直接身内が迎えに来てくれたことに紅児は戸惑いを隠せなかった。

「そう……エリーザの叔父様が直接会って話がしたいとおっしゃられていたわ。明後日私たちも同席するけどいいかしら?」

「……もちろんです!! ありがとうございます……」

 叔父と触れ合った記憶はあまりない。なのにまさか迎えに来てくれるなんて。

 そういえば記憶の中の叔父は、いつも紅児の緑の瞳をきれいだと褒めてくれていた。


 いつのまにか頬を熱い物が伝っていく。

 その正体に、紅児はしばらく気付けなかった。

中国茶道とも言われる茶藝のやり方は↓

http://hiyorimi.pussycat.jp/chayi.html


HP全然更新してなーい(ぉぃ

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