75.熱 ※R13
まともに話ができなくなるからと、紅児は紅夏に椅子に腰掛けることを提案した。そうは言っても長椅子に横から抱きこまれるような形で座るのでそれほど効果があるとはいえない。だがここで床に腰掛ければ、昼間のようななし崩しになることが予想できた。
紅児はもっといろんなことを話し合いたかった。もちろん真剣な話からどうでもいいような他愛ない話まで。紅夏と話をして、彼のことをよく知ることができれば共に長く生きることに抵抗は薄れるかもしれない。
「あ……そういえば」
なにから聞こうと考えて、昼に聞きそびれたことを紅児は思い出した。
「紅夏様、”熱を与える”ってどういうことなのですか?」
紅夏は一瞬目を見開いた。めったにそんな表情をしない彼に、紅児もまた目を丸くした。
何かおかしなことを聞いただろうか。
彼は前髪をかき上げた。その仕草に色を感じて紅児は目を伏せる。
「……のちほど実践しよう。エリーザは我と同じ髪色になりたいのだという理解でよいか」
「……はい」
頬を染めて、紅児は応えた。
紅夏と同じ色を纏いたい。朱雀と花嫁のように、誰が見ても一対とわかるように。
そこまで考えて紅児は少し落ち込んだ。花嫁は四神の花嫁だから当然朱雀の花嫁でもあるのだが、他の三神の花嫁でもあるというのは気にならないのだろうか。
以前畏れ多くも花嫁に尋ねた時、彼女は”納得している”と言った。
ただ罪悪感もあると言っていた。花嫁自身の倫理観に照らし合わせるならやはり普通のことではないから。
「朱雀様……四神は、花嫁様を共有されることが嫌ではないのでしょうか?」
「……それは我の知るところではない」
突き放すように言われ、紅児は戸惑った。だが四神に直接尋ねるわけにはいかないから、話はそこで終りだった。
(私……好奇心ばかりで……)
更に落ち込んでしまう。するといきなり体を持ち上げられ、紅夏の膝の上に下ろされた。
「……エリーザ、そなたはいつも花嫁様のことばかりだ。……もし体をつなげたならもう少し我を見てくれるようになるだろうか」
紅児は真っ赤になった。
「あっ、あのっ……!」
もちろん彼女にも言い分はある。あまり紅夏のことばかり考えていると体は熱くなるし、頭もぼーっとしてきてしまうのだ。そうなるとまともに思考ができなくなり、仕事どころではなくなってしまう。だからあえて花嫁のことを考えるようにしているのだが。
「は、話っ! 話をしましょう! 私たちのこれからのこととかっ!!」
紅夏は面白がっているような表情をする。
「……そうだな」
一旦は引き下がったが、紅夏がどれほど嫉妬深いかさすがの紅児もわかってきた。今日はよく背中を冷や汗が伝う日だ。
まずは長すぎる寿命の件について考えなければいけない。
紅児は花嫁の部屋で考えた、もし帰国できた場合の案をとりあえず紅夏に話してみた。
「……そうだな。我らにもし子ができたとしてもそれは第三世代の眷属に当たる。普通の人間のように暮らすことは非常に難しい。悪いがそなたの家の跡取りにはできぬ」
思った通りだった。紅児はそれに頷く。
「そなたの叔父以外に親戚はいないのか?」
「多分……もっといるはずなのですが、基本継げる者がいる場合はかかわってこないので……」
「その辺りは叔父上殿と相談するしかないだろう」
「そうですね」
あくまで仮定の話だから別段なにか進展したわけではない。
己の身に起こったことを母や叔父に話すのは正直頭が痛い。だが帰国の為に海を渡った時点で紅児は紅夏に嫁いでおり、すでに人ではなくなっているのだろう。親不孝で申し訳ないとは思うが紅夏のことを本当に愛しているのだからしかたない。
「……紅夏様、長く生きるってどんなかんじですか?」
話としてはわかっていても、まだ14年しか生きていない紅児には300年も400年も生きるということが実感できない。
「さぁ……我らはみな長命ゆえ特に何が変わるということもない。基本は朱雀様について領地にいる。ただ、伴侶がいる者は日がな一日愛し合っているようだが……」
「わーわーわーっっ!! もういいですっっ!!」
紅夏に聞いた己が馬鹿だったと紅児は後悔した。確かに回りがみな年も取らなければ変化があるはずもない。まして紅夏は人ではない。
(日がな一日、愛し合ってるって……)
聞いただけで紅児は胸がどきどきした。
(そうじゃなくてっ……!)
侍女頭の陳や延も眷属の伴侶だが別段長生きしているわけではない。花嫁も同様である。
そこで考える。黒月を除きこの四神宮には人を伴侶とする眷族が3人もいるのだ。ということは。
「紅夏様、他に眷属内で人と一緒になった方はいらっしゃいませんか?」
紅夏は少し考えるような顔をした。
「……おそらくはいるのだろうが……。領地ではあまり互いに干渉しないものでな。だが、それを聞いてなんとする?」
「……できれば眷族と一緒になる覚悟をした人に尋ねたいのです。長く生きるという意味を」
彼はしかし眉をひそめた。
「わからぬな。長く生きる意味を聞いてどうするのだ?」
「想像もできないことだから私はこわいのです。少しでも知って不安を取り除きたいと思うのです」
理解できないというのもわかるから、紅児は必死で言い募る。こんなただ漠然とした不安を抱えたまま紅夏と一緒になるのは違うと思う。ただ愛しいだけでは結婚はできないのだということが紅児にもわかる。こんなに早く知りたくはなかったけれど。
「……ふむ。ただ聞けばいいのだな?」
「はい。……だって、紅夏様と一緒にいたいから……」
誤解させたくなくて恥じらいながらも呟けば、紅夏に抱き上げられた。
「紅、紅夏さまっ!?」
「……なぜそなたはそなに愛らしいのだ」
床に下ろされ、着物をくつろげられる。
やはりこの流れなのかと紅児は体の力を抜く。逆らっても無駄だし、それに紅児も紅夏が好きだから。
けれど今夜はそれで終らなかった。
「これよりそなたに”熱を与える”」
「……え?」
そういえばそんなことを言っていたのを思い出した。
(熱って……)
紅夏は何度も角度を変えて紅児に口づけをした。
そして、紅夏の太い指先が紅児の肌を辿り臍の下の一点で止まった。
「ここに、我の熱を吹きこむ」
そう言うと紅夏は顔を下げ、指先で示した場所に口づけた。
「きゃあっ!?」
びくん、と紅児の体が震える。
まさかこんなことをするなんて思ってもみなかった。
やがて丹田と呼ばれるそこがだんだんと熱を持ち……。
全身を巡る狂おしい熱に、紅児は我を忘れた。




