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74.聊天

 その後、紅児(ホンアール)は改めて花嫁に席を外させてしまったことを謝罪した。けれど花嫁はきょとんとした顔をし、

「どうしてエリーザが謝るの? 貴女は謝るようなこと何もしてないわ」

 さらりと言った。

「……それよりもドルマ姫だっけ、彼女の方が気になるわね。シーザン王にどれほど怒られるのか……」

 遠くを見るような目で花嫁が呟く。

 結局のところ紅児にはシーザン王が言っていたことがよくわからなかった。後半は特に自問自答していたりした為、どういう話になったのか紅夏に教えてもらったのだ。

 シーザン王は娘を四神の眷属に嫁がせることを諦めたようだった。

「でも……女性上位の国と伺いましたから、それほど怒られていないのでは……」

「国益を損ねる者に女性も男性もないの」

 ぴしゃりと花嫁が断ずる。

 ドルマ姫は紅児と同じ14歳。同じ未成年でも立場が全然違うのはわかる。

 ではどうしてあのようなことを言い出したのか。

「まぁ……眷属との結婚をチラつかせたのは王の方からかもしれないからなんとも言えないけど。憶測で物を言ってもしょうがないわ」

 そう言って少し背筋を伸ばした花嫁だったが、次の瞬間には人の悪そうな笑みを浮かべた。

「で、紅夏(ホンシャー)とはどこまでいってるの?」

「……え」

 頼みの綱の紅夏はすでにいない。朱雀のところに戻っているはずである。

 花嫁と同じ世界の者なら「ブルータス、お前もか!」と叫んでいるところだろうがあいにく紅児はこの世界出身である。彼女はまたしても背中をだらだらと冷や汗が伝うのを感じた。


「ふぅん……触れられてはいるけどその先はまだなのね。相変わらず忍耐力の強いこと」

 そんなことをさらりと言わないでほしいと思う紅児は、すでに頭を上げるのもおっくうなほど疲れていた。

「触らせるのはいいけど、きちんと話し合ってる? 眷属の寿命と”つがい”のことだってもっと前に紅夏が話しておかなければいけないことよ?」

「あ……」

 紅児は顔を上げた。

「……寿命のことは聞いていました。ただ、あの時は……」

 眷属がどれだけ生きるのか、紅夏の寿命がどれぐらいかはまだ彼への気持ちが定まっていない時に教えてもらっていた。しかしそれは他人事のように聞いていたし、気持ちに自覚してからは己が跡取り娘であることにこだわり、寿命のことは棚上げしていた。

 反省を交えて現状を話せば花嫁は嘆息した。

「……なんだか心配になってきたわ。寿命が長いのもそうだけど、人ではなくなるから見た目は年もとらなくなるのよ?」

「……あ……」

 言われてみればそうだった。

 紅児は頭の中でいろいろ考える。一応己は跡取り娘だが、どうにかして叔父夫婦に子供を作ってもらうしかない。跡取りというのも中継ぎはできるかもしれないが、もし紅夏と子を成したにせよその子に商会を継がせるわけにはいかない。何故ならその子供も寿命の長い眷属であるからだ。

 だがこの時紅児は無意識に紅夏との未来を絶対のものとしてとらえていた。家の為に一緒にならないという選択肢はすでになかったのである。

「ありがとうございます、花嫁様。紅夏様ともっとよく話し合いたいと思います」

 紅児は花嫁に礼をとった。

「……相手は人じゃないから、聞かないとわからないことはいっぱいあると思うわ。何度も言うけど、そうでなくても男は言葉が足りないしね」

 そう言って花嫁は傍らに控えている延と青藍を見やる。延は微かに頬を染め、青藍は目を伏せた。

「さ、今日は早めに入浴できるかしら。さすがに疲れたわ」

 花嫁の言葉に周りが一斉に動き出す。紅児も邪魔にならないように部屋の隅に控えた。

 今日はあまり仕事をしていないことを紅児は申し訳なく思った。


 仕事を終え大部屋に戻れば好奇心に満ち満ちた目で侍女たちが待っていた。

 さすがに紅児も怯む。

 このままみなと風呂に行けば追及は免れないだろう。なにせ紅児は他国の王族と会ったのだ。

 だからといって紅夏と入浴するというのも恥ずかしい。1人で風呂に行くというのは紅夏が許してくれないのでその選択肢はなかった。

 紅児は侍女たちと紅夏を秤にかけ、侍女たちと入ることにした。

 事前に、「何があったかは話せない」と言い置いて。

 その点侍女たちも実家は身分がそれほど高いわけではないが良家の子女である。そこらへんは心得ていた。ただ何故紅児も誘われたのか、他国の王族はどのような姿をしているのか知りたかったようである。それに紅児は言葉を選びながら話せる範囲で話した。

 だが最後に、

「でも紅児は戻ってきてから何をしていたの?」

 と聞かれると全身を真っ赤に染めた。それだけで何があったのか知れてしまうというものである。

 みな内心「ごちそうさま」と思いながら、自分たちの未来の伴侶に思いをはせたのだった。


 どうにか取り繕って(本人は取り繕ったつもりらしい)風呂を出た時には、紅児はまたひどく疲れていた。

(……お風呂って……疲れがとれる場所ではなかったかしら?)

 これでは風呂ではなく苦労ではないかと紅児は思う。

 そしてその後彼女はいつものように紅夏の室に行くのだが、またそこで衝撃の事実を知ることになるのだった。

タイトル悩みまして、女性同士の話のみなので「聊天」(おしゃべりをする)にしました。

変えるかもしれません。

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