49.休息天
12万ユニーク突破ありがとうございます♪
〈〉内の会話は心話です。
休みであるその日も、とても暑かった。
紅夏の衣装は落ち着いた紫色だった。いつもと違う格好に紅児はまた頬を染めてしまったが、彼に捉えられてその余韻に浸ることもできなかった。
「似合うな」
「~~~~~っっ!!」
さらりと耳元で囁かれるように言われ、紅児は耳を押さえたくなった。
紅夏の甘いテノールはとても彼女の心臓に悪い。なのに彼は意も返さずそういうことを自然に言うのだ。
「紅、紅夏様だって……」
素敵じゃないですか、と言おうとして口ごもる。
これではまるで恋人同士のようではないか。
みなの視線を一身に浴びながら朝食をとった後、案の定王城の外に連れ出された。
「我もあまりこの辺りには詳しくはないが……」
馬車に乗せられて中心地からどんどん離れていく。
「どちらへ行くのですか?」
不思議に思って問えば、「とても広い庭園だと聞いている」と言う。
「庭園?」
どのようなところなのか想像もつかない。庭園と言われると豪華な庭なのだろうか。そのようなところが一般人に公開されているのだろうか。
「紅夏様は行かれたことがあるのですか?」
「ない。花嫁様の勧めだ」
「そうなのですか……!?」
驚いた。花嫁様はこの間の行事のようなことがない限りこの1年は王城をそう簡単に出られないと聞いていた。
とすると、もしかして離宮の類なのでは? と思って冷汗をかく。そんなところに自分が足を踏み入れていいはずがない。
「あ、あの……それってどういう……」
おそるおそる尋ねようとはするのだがどう聞いたらいいのかわからない。
(もしかして……貴人しか入れないような場所なのでは……!?)
「有料の庭園だそうだ。金さえ払えば誰でも足を踏み入れることはできる」
紅児はそっと胸を撫でおろした。そういう場所ならそれほど気がねすることはないだろう。
しかし。
「? 花嫁様の勧めということなら、花嫁様も行かれたことがあるのですか?」
有料で誰でも入れるようなところに四神の花嫁が行けるものなのだろうか。
「前にいらした世界で似たような場所があったらしい。そこでは有料で一般に公開されていたと聞く」
「そうなのですか……。でしたらそこには行かれたのですね」
「そのようだ。とても大きな湖があるらしい。元は貯水池として整備されたというからかなりの大きさだろう」
「楽しみです」
紅児は素直に答える。実際わくわくしてきた。
「その庭園はなんというところなのですか?」
「清漪園(頤和園のこと)というらしい」
そんな話をしながら二刻ほども経ったろうか、馬車が止まった。少しして扉の表から「着きました」と声がかかる。
紅夏が先に降り、紅児の手を取って降ろす。馬車はこのままここで待っていてくれるらしい。
「行くぞ」
入口らしきいかめしい門の上には「東宮門」と書かれていた。やっぱり紅児は場違いなところに来てしまったような気がした。
きちんとした制服を着た門番が無言で門を開ける。その内側では官吏のような格好をした男性が拱手して待っていた。
「紅夏様、紅児様、ようこそ清漪園へ。案内役の沈と申します、何かございましたらどうぞお申し付けください」
紅児は思わず紅夏にしがみついた。
(案内役って何? なんで?)
思った通りではないのかと困っている紅児に紅夏は口の端をクッと上げた。
「案内は必要ない」
「かしこまりました。ではお食事の時間になりましたらお声掛けいたします」
「そうしてくれ」
沈は心得たようにすっと身を引くと、そのまま頭を下げた。
紅夏にくっつくようにして沈の横を通り、まっすぐ先にある立派な建物を見やる。この建物はどういった用途で使われているのだろう。やはりどう見ても市井の者が足を踏み入れていいような場所には思えなかった。
結果として紅夏はその建物には足を踏み入れなかった。建物の手前で右に曲がり建物がいくつかある場所に出る。そこを通り抜けると長廊があり、その左手に湖が見えた。ここが先程言っていた元貯水池かと紅夏を見上げれば、無言で頷かれた。
自然とエスコートされて忘れていたが、紅児は先程から紅夏にくっついて腰を抱かれているのだった。恥ずかしくなって紅夏の服から手を離すと、ぐっと抱き寄せられた。離してはいけないらしい。紅児は頬を染めた。
長廊の装飾もまた見事だった。柱の梁に描かれている絵はどれも色鮮やかで、まるで画廊と言ってもいいほどである。
「紅夏様……ここって、気軽に入れるところではないですよね……?」
改めて確認すると、「市井の者が、ということであれば間違いない」
そう紅夏は応えた。
素直な方なのだなと紅児は思う。
「……ここに入るにはすごくお金がかかるのでしょうね……」
そんなお金を使わせてしまったと思うと申し訳なく思えてくる。
「それなりにかかるだろう」
なのに紅夏は他人事のように言う。
紅児は歩きながら彼を見上げた。どういうことなのだろうか。
(もしかして……)
とあまり考えたくないことに思い至った時、
〈我ら四神に関わるものは免除されている。そなたも花嫁の客人故請求されることはない〉
心話で返答があった。周りに人がいるように見えないが、紅夏が直接声を出さないということは近くに気配があるのかもしれない。
〈それなら、気にしないことにします〉
もしかして花嫁が出してくれたのかと一瞬でも考えてしまった自分を紅児は恥じた。
〈……じゃあ花嫁様もこようと思われれば来られるのですか〉
〈警備の関係上そう簡単には来られぬだろうな〉
〈それもそうですね……〉
花嫁は自分の立場をよくわかっているから、紅児たちを送りだしてくれたのだろう。
「この長廊はどれぐらいあるのかしら」
だからせめて土産話をできるぐらいに楽しもうと思った。
「そうさな」
紅夏は少し視線を巡らせた。
「東西一里半弱というところか」
どうやら目視だけで距離を測ったらしい。
心話ができることといい、やはり紅夏は人ではないということを改めて紅児は認識する。
湖を左手に見ながらゆっくりと長廊を歩く。こんな穏やかな日は初めてかもしれない。
右手に山のようなものが見える。
「あれはなんでしょう?」
「上ってみるか」
「はい」
紅児はとても嬉しそうに笑んだ。
楽しい1日になりそうだった。
休息天 休みの日のこと
清漪園(頤和園) 北京郊外にある歴代王朝の御苑です。現在は頤和園という名称です。
頤和園(wiki)参照のこと。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%A4%E5%92%8C%E5%9C%92
明日の更新は。。。無理かも(汗




