47.双対
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朝の一仕事を終えて花嫁の居間の隅に立つ。
花嫁が戻ってくるまですることはないが、女官である延に話しかけられるのでもなければ声を出してはいけないし微動だにしてもいけない。紅児にとって主に思索にふけるのにかっこうの時間である。
紅児の最後の一言だけで紅夏は悟ったようだった。
その後の彼の表情の意味を考える。
紅児は自分が「跡取り娘」だということは伝えた。けれど紅夏は大したことがないように笑んでいた。
彼の考えが全く読めない。
どういうことなのか早く問いただしたかった。
昼になってごはんを食べさせられながら片手を捕えられ、そのまま会話の続きを頭の中でする。傍目には恋し合う2人がじっと見つめ合っているようにしか見えなかったが、紅児はそんなこと全く気付いてはいなかった。
〈跡取り娘ということは、帰国の運びになればもうこちらへは戻ってこないという解釈でいいのだな?〉
〈はい……〉
紅児は目を伏せる。紅夏は正確に理解してくれたようだった。
〈お父上にご兄弟はいらっしゃらないのか?〉
〈います、けど……まだ子供はいなかったと思います〉
〈結婚はしているのだな〉
〈していたと思います〉
紅夏は少し考えるような顔をした。
〈……どのような状況においても、我はそなたを諦める気はない。だが海をまたぐといえばどのようなことが起こるか想定はできぬ。一度朱雀様にお伺いをたてることにしよう〉
やはり眷族というとなにがしかの制約があるのだろう。紅児はそれに頷いた。
けれど正直、紅夏が2人の関係を前向きにとらえているのが嬉しかった。しかも具体的にこれからのことも考えてくれている。どうにかなるだろうというような漠然とした科白でないことが紅児の表情を明るくさせていた。
「やはり……」
「何がやはり、なのですか?」
黒月が思わずといったように呟いた時、斜め後ろから声がした。
「なんでもない。趙殿には関係ないことだ」
「隣、よろしいですか?」
「…………」
食堂で紅児と紅夏の様子を見守っているのは侍女たちだけではない。基本四神宮に勤める者全員の目に触れる。ただ食事の時間はみな同じではないので常に見守っている者はそういない。
黒月も花嫁についているのが普通だが、今日の昼食は延と青藍が控えるというので先に食堂に来たのだった。
「赤、といっても違う色なのに、しっくりきますね」
「……紅児と紅夏様は”つがい”だ。当り前だろう」
四神宮の主官である趙は「ほう……」と呟いた。
「というと、白雲殿や青藍殿たちのような……」
「そうだ」
黒月は趙にかまわず食べ物を口に運ぶ。その横顔は平然としているように見えた。
「黒月殿に”つがい”はいないのですか?」
「わからぬ」
黒月は趙の方を見ないで答える。
「わからない、とは?」
「”つがい”を感覚で認識するのは成人してからだ。我はまだ成人しておらぬゆえ、いるかどうかすらわからぬ」
「ああ……そういえばそうでしたね」
趙は頷いた。
「では成人前に確認するすべはないのですか?」
「……あるにはあるが……ある程度親密でなければ確認等しようとも思わぬだろう」
「それもそうですね」
そう言って趙は少しだけ肩を落としたが、黒月はそれに気づくことなく紅児と紅夏の様子を見守っていた。
午後は花嫁に届いた贈物の仕分け作業をすることになった。
大祭の後だからか、いつもより贈物の数が多く見えた。
花嫁がこの世界に降り立ち、王城に着いたその日からいろんな人々から贈物が届けられるようになったのだという。
最初のうちは主管である趙が管理をしていたそうだが、あまりの多さに侍女たちが主に仕分けをするようになったのだとか。
「一時的にでも……2日に1度見てもらうべきかしら」
侍女頭である陳が困ったように言う。
それぐらいここ数日の贈物の量は異常だった。
最初のうちは色とりどりの贈物に楽しんで仕分けをしていた侍女たちも、最近はおなかいっぱいというかんじである。
これらの贈物はまず中書省に集められ、四神宮に送っていいものかどうか選別される。その後目録を作成し、それを趙が確認してから現物が届けられる。それまでにかかる時間は丸1日。お役所仕事としては各段に早い方ではないかと紅児は思う。
届けられた現物を花嫁が確認し個人的に取っておきたいものを選んだ後、侍女たちが花嫁に身につけてほしいものを選ぶのだ。残ったものは換金され、寄付されるということは前述した通りである。(19話参照)
中書省でまず撥ねられるとはいえ、とにかくすごい量だった。
「夜着は一応全部取っておくように言われているから、着物類は一応分けておいてね」
宝飾品は一応長く勤めている者たちがより分けている。紅児は他の日が浅い侍女たちと着物をまとめていた。
「夜着は全部とっておくって……」
「やっぱり夜の、よねぇ」
ふふふと頬を染めて言い合う侍女たちに紅児は首を傾げた。どうも今回は衣装類が多かったらしい。一体何に使うのかわからないような薄い着物が何枚もあった。
上に羽織るのだろうか。
「花嫁様に懸想したのかしらね。こんなにいっぱい……」
「四神に取り入りたいのではないかしら」
「馬鹿ね、四神への贈物は全て領地に送られてるというじゃないの」
侍女たちは紅児から受け取った薄絹の着物を丁寧に畳んで別にしていく。
何に使うのだろうと首を傾げている紅児に1人が気づいたらしい。
「どうかしたの?」
「いえ……こんな透けている着物、何に使うのかと思いまして」
それに侍女たちはふふっと笑った。
「本当に紅児は紅夏様と何もしてないのね」
「紅夏様、実は奥手でいらっしゃるとか?」
「これはね……」
耳元で用途を教えられて紅児は真っ赤になった。
そんなものがあるとは知らなかった。
その後、紅児は薄絹の夜着をより分けながらその都度頬を染めていたのである。
また来週末お願いします。
珍しく黒月さん視点を入れてみました。




