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12.花嫁と名前

『謁見の間』と呼ばれる場所に行くと、秀麗な表の男性が待っていた。

「ほう……見事な赤い髪だ」

「趙様、馬紅児(マーホンアール)です」

 (チェン)が代わりに紹介し、頭を下げる。紅児も慌ててそれに倣った。

「四神宮主官を務めている趙文英(ジャオウェンイン)である。異国からの客人という話だったか。さぞかしつらい思いをしただろう、義理の父上が見つかるまでこちらでゆっくりしていくといい」

 優しい言葉をかけられ、紅児は思わず顔を上げてしまった。どうしてここの人々は紅児にこんなに親切にしてくれるのだろうか。

「……ありがとうございます」

(神様に仕えているからなのかしら……?)

 神様というのがそんなに人間に対して慈悲をくれるものなのかはわからない。なんとなくのイメージはあったが、嫁取りをするような生々しさはなかったように思う。

「しかし……花嫁様は四神に属する方である。今まで面会を望む声は多々あれど、いくつかの例外を除いて基本面会はされていない」

 難しそうな表情で言いにくそうにいう趙に紅児は頷いた。

 陳に会えたこと自体が奇跡なのだから、その先を望むのは欲張りにもほどがあるだろう。こんなに親切にしてもらっている、それだけで王都に来た甲斐があったというものだ。

 紅児は微笑する。

 趙と陳がそれにはっとしたような表情をしたが、紅児には理由がわからなかった。

 そこへ白と赤の色彩が現れた。目立つ色に紅児は目を見張る。

 白雲(バイユン)紅夏(ホンシャー)だった。紅児は唇を噛んだ。主官とは聞いたが趙よりもこの2人の方が権限が大きいように思えた。

 つまりは……。

「趙、ただちに場を整えなさい」

 紅夏の科白に趙ははっとしたような表情をした。

(はい)

「紅児、こちらで平伏を。お声がかかるまで決して頭を上げてはなりません」

(え……)

 陳が厳しい表情で紅児の腕を取った。この国のしきたりには慣れていないのでもしかしたら不調法だっただろうか。言われた通りに平伏する。その顔は青ざめていたが、急遽予定が変わったらしく趙と陳はばたばたしはじめ(とは言っても優雅な動きではあったが)とても紅児の顔色まで慮る余裕はなかった。

「……そう固くなるな。悪いようにはせぬ」

 体を縮こませ、これから何が起こるのかと戦々恐々としている紅児にそっと声がかかった。

 それは耳に心地いいテナーだったから、もしかしたら紅夏のものだったのかもしれない。さすがに顔を上げて確認するのは憚られたのでそれは紅児の想像にすぎなかったが、ほんの少しだけ体の力を抜くことができた。

 やがて準備が整ったらしく、紅児の斜め前で陳が平伏する。どうやら趙は立っているようだった。

 それから、どれぐらいそのままでいたのか。微かに足音と衣擦れのような音が聞こえてき、

監兵神君ジエンビンシェンジュン(白虎)並びに白香娘娘バイシャンニャンニャンのおなりである」

 鈴を転がすようなきれいな声が斜め前からした。これが先触れなのだろうかと紅児は思ったが、別の声が聞こえてきたことでどうも違うらしいということがわかった。

「陳、彼女を紹介してちょうだい」

 少し低めの、柔らかさを感じる女性の声。

 いつの間に来られたのだろうかと紅児はいぶかしく思う。足音は1つしか聞こえなかったのに。それとも聞き違いだろうか。

「はい、紅児。こちらにいらっしゃるのが四神の花嫁様である白香娘娘です。花嫁様、馬紅児です」

「馬?」

「はい、養父の姓らしいです」

「そう……。紅児、顔を上げてちょうだい」

 直接声をかけられて紅児はおそるおそる顔を上げた。

(え……)

 赤い髪の少女が白髪の美丈夫に抱き上げられているのを見て、面食らった。

 一瞬白髪の美丈夫が白雲に見えたがそれは色彩が同じだったからで、顔立ちは似てはいるが同一ではなく、また醸し出される雰囲気も大分違った。こちらが監兵神君なのだろう。そしてその腕に抱かれているのが、花嫁に違いなかった。

 赤い髪、と言っても紅児の髪とは色合いが違う。紅児の髪の色が朱紅(朱色)だとすれば、花嫁のそれは暗紫紅色(ワインレッド)である。そしてその色は紅夏の髪の色と同じだった。

(きれい……)

 髪の色だけではなく、その容姿そのものが綺麗だった。それは醸し出される色気とか、全てが連動しているようだった。

「わぁ……」

 けれど感嘆の声を上げたのは花嫁の方だった。

「白人なのね。綺麗な肌……」

 にこにこしながら言われて紅児は戸惑う。

香子(シャンズ)

 紅児の方へ身を乗り出そうとする花嫁に、神君が制止の声をかける。それは白雲のようなとても低い音だった。

「白虎様、近寄ってはだめですか」

「後にせよ」

「……わかりました」

 花嫁は不満そうに一旦口を尖らせた。けれどすぐに花嫁は気を取り直したように笑んだ。

「本名はなんというの?」

 花嫁の側には女性が2人いた。1人は少し前方におり、もう1人は少し後方に付き従っている。

「あ……馬紅児といいます……」

「違うでしょう?」

 間髪入れず否定される。紅児は困ってしまった。

「その名は『赤い子供』という意味だわ。本当の名前を教えて?」

(赤い子供……)

 紅児は今まで与えられた名前の意味を考えたことはなかった。この名は、とりあえずつけられた名前だったのか。

「エリーザ……エリーザ・グッテンバーグです……」

 発音はできないだろうが名乗ってみる。

「アリーゼ? もう一度お願い」

 けれど花嫁は真摯だった。

「エリーザ。エリーザです」

「アリーザ、違うわね、エリーゼ……エリーザ……エリーザでいいかしら?」


 エリーザ


 紅児は目を見開いた。

 養父母も村の人たちも、そして陳も紅児の名を発音できなかったのに。

 みるみるうちに目が潤んでき、紅児はぽろりと涙を零した。


 3年ぶりに聞いた、確かにそれは自分の名前だった。

花嫁の本当の名は「香子」ですが、いろいろ事情があって「白香娘娘」とも呼ばれています。

話の中でそのうちそこらへんは紅児が尋ねてくれます(何


そんなん待てるか! と言う方は「異世界で四神と結婚しろと言われました」第1部をご覧ください(こら

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