嘘と
あれは本当に嘘つきな女の子だったなぁ。
ねえ、そうだっただろう?君のことだよ。君は本当に嘘つきだった。
君は笑ってるけど、笑い事じゃないよ。僕がそれで、どれだけ苦しんだか。でもね、それもこれも、全部合わせて、僕は君が好きだったよ。
道を聞けば必ず反対の方向を教えるし、体調を尋ねれば満開の笑顔で死にそう、って言った。
僕はいつもそれを信じて馬鹿を見た。いきなり現れた壁に突っ込んで事故を起こしたこともあったし、声をあげて笑う君を背負って病院を梯子したこともあった。
嘘だよと君が笑うのを見るたびに、もう騙されないと決意を固めるけど、でもやっぱり僕は、君の瞳を信じずにはいられなかった。
また笑ったね。君は僕が苦しむのが楽しいんだ?頷くなよ、泣きたくなるだろ。
だって君の瞳といったら、吸い込まれそうなほど真っ直ぐで、魅力的だった。その瞳を見たらさ、全部信じちゃうとまではいかないけど、少しくらい騙されたっていいって思えるほどだった。
一つだけ聞きたいんだけど、君は僕を好きだったの?ああ、考えちゃうんだ。あ、笑ったね。君が思わせ振りに難しい顔するからじゃないか。そっか、下らない質問だったね。
そう、あの日も君は嘘を吐いた。
別れ際にしゃがみこんだ君。車道には車が、自己の限界を試しているかのように走っていて、危ないなと僕は思ったんだ。
大丈夫、と僕が聞けば、君は大丈夫、と返した。ほっといて、とも言ったんだ。
僕は肩をすくめて頷いた。背を向けて、明日のデートはどこへ行こうなんて呑気に考えてた。
その時だった。ダッ、と踏み出す音に振り向けば、君がトラックの前に飛び出して。
赤い紅いあかいアカイ───。
見たくないのに、目をそらすこともできなくて、君だったはずの塊を見つめていた。君の虚ろな瞳。人形みたいだと思った。
本当はね、わかってたんだ、君の嘘。だって、泣きながら大丈夫なんて、言う人はいないでしょう。泣きながら、笑いながら、大丈夫って言う君を、僕はあの日見捨てたんだ。
もう一度聞いてもいいかな。
君は僕を好きだったの?
ううん、もういいや。きっとどんな答えでも満たされやしない。
ほら、あの日と同じ、四月一日だよ。
この小説には、何通りもとれるような意味があると思います。ぜひ、できるだけ多くの意味を考えてみてください。