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頑丈な檻 03


 片腕を失くした騎士。

 結局ルイゾンはそれを見捨てる事はしなかった。使い魔がいないので自分でそいつを家まで運び、必要最低限の援助だけして、一室を貸した。

 普通はあれだけの大怪我なら一週間は生死の境をさまよって、何カ月にも及ぶ闘病(?)とリハビリがあるだろう。片腕を失くしているのだからなおさら。なのだが。


「大変お世話になりました。魔女殿、この恩は一生忘れません」

「アタシは止血とこの部屋を提供しただけ。さっさとこの森を出てってくれるなら一向に忘れてもらって構わない」


 家に連れ帰ってからまだ3日。

 男は驚異の回復力を見せてくれた。騎士という職業柄なのか、この男の能力の高さなのか。そのあたりはルイゾンの知るところではないが、とりあえずこの家を出ていけるくらいには回復した。


「私は死ぬわけにはいきませんでした。貴女が『だけ(・・)』と言う行為に確かに命を救われたのです」


 ぜ、全身に鳥肌が!!!! かゆい、身体がかゆい!!

 見悶えそうになる。破天荒な魔女として教科書に載ってしまうルイゾンは当然ながら感謝などほぼされない。それがこの展開。結構限界だ。

 内心でルイゾンが激しく見悶えている間に男は騎士としての最上級の礼を取り、部屋を出て行った。

 死ぬわけにはいかない目的があるのだろう。魔物に襲われ、死にかけた森へ戻る。ルイゾンの手を借りようとも思わずに。

 静かに閉じられた扉を見つめながら、男を見つけた日と同じようにため息を吐いた。



*****




「……こんな夜更けに部屋を抜け出して……」


 背後から聞こえた声。

 ノエミはギクリ、と動きを止めた。

 抜け出した客室のそばの廊下。窓際に持たれるように背を預けたこの土地の領主ヘリオス・アイズナーが表情の読めない微笑みをたたえてこちらを見ていた。


「抜けたして、どうするんだい?」

「……」


 顔をこわばらせて、ぎゅうと自身の身体を抱きしめるノエミにヘリオスは笑みを深めた。それが相手の恐怖心を煽る事を自覚して。

 外はあいにくの曇り。月明かりの無い夜は闇に包まれる。それはこの屋敷も例外ではなくて、二人を照らすのは、ぽつ、ぽつ、と間隔をあけてともされている、心許ない照明だけだ。

 その照明に照らされたヘリオスはノエミには不気味に思えてならなかった。ゆっくりとノエミに近づ居てくる分、同じ分だけ後ろに下がる。


「別に、責めているわけではないよ? ただ、僕はキミの事をキミの主人から頼まれているからね」


 わかるでしょう?

 わかりたくない。反射でそう思ったけれど、そんな意見が通用しないだろう。


「どうもしません。ただ、あのお方の手の届かない所まで逃げることができたなら……」

「止めないよ。僕は来るモノは拒まないけど、去るモノも追わない。流れに身を任せているだけだから」


 だから、逃げたいなら逃げるといい。僕はそれを見届けるだけ。

 手助けはしてあげないよ。僕は優しくないからね。


「……」


 怯えた顔で、それでも一人この屋敷を抜け出した女の行く先。それは魔女の住まう森。魔物の森。立ち入れば、ただ死が待つ森。

 ヘリオスはノエミの使っていた客室の窓から、暗闇の中を走る彼女を目で追っていた。


「……アンタ、何を知っていたの?」


 突然聞こえた声。窓に向けていた顔を戻せば、ヘリオスの魔女の姿。ずいぶんと疲れた顔をしている。


「やぁ、魔女殿。知っていたとはどういうことかな?」

「アタシのところに騎士が来たわ。瀕死の状態で、生きるために片腕を切断した男。死ぬわけにはいかないと言ってた。その理由は、アンタん所のあの女でしょう?」

「んー? 僕は知らないよ。この地にとどまる間は僕の庇護下にあるけど彼女、ここは嫌みたいだからね」

「あの女まで森に入っていった。あの二人は……」


 言いかけて、口をつぐむ。見ればヘリオスが満足そうに微笑んでいるのだ。ルイゾンは反射で自分の主である男に殺意がわいた。


「死なずに再会出来たら、きっと二人は運命で結ばれているんじゃない? まぁキミの事だから世話を焼いてあげたんでしょう?」

「……二人が出会えるようにした。それと三十分間、魔物達から姿を隠せるようにしただけ」


 それを過ぎたら、後はアタシの知る所じゃないわ。森を抜け出せなかったら、それも二人の運命よ。

 ふてくされたように報告する魔女に、ヘリオスはさらに微笑んだ。




「やっぱりキミは、お人よしだよねぇ。僕なんかよりよっぽどね」



以上でこのお話は終了です。もう少しその後の補足を入れてもよかったかもですが、これだけ文字数が長くなったので断念しました。


ちなみに、このサブタイトルがしっくりこないのでいつか変えるかもしれません。



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