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魔力ゼロで追放された書記官、実は世界最高の諜報員でした 〜ゴミ箱の機密を拾うだけで、俺を捨てた王国が戦わずして自滅する件〜  作者: 桜庭ユウト


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8/21

第8話:プロパガンダ:無垢なる噂の拡散

王都の活気あふれる中央広場。その喧騒の影、日の当たらない路地裏に、その少女はいた。

 ボロ布を纏い、泥に汚れた顔。だが、その瞳だけは夜の森のミミズクのように鋭く、街のすべてを射抜いている。


「……遅かったね、先生。待ちくたびれて、ネズミと踊るところだったよ」


 シオン。王都の浮浪児たちを束ね、情報の末端を支配する少女だ。

 俺——アルスは、書記官のローブの影から、銀貨を数枚、彼女の汚れた手のひらに落とした。


「仕事だ、シオン。……今回は、ただの『噂』じゃない。人々の『信仰』に火をつける劇薬を扱ってもらう」


「へぇ……面白そう。聖教団のジジイたちが腰を抜かすような話かい?」


 俺は彼女の耳元で、昨夜『エコー・ミラー』で傍受した「真実」を、最も扇情的な物語へと組み替えて囁いた。

 第一王子ユリウスが、聖女候補であるフィオナを、敵国ゾルダンの好色な公爵に『供物』として差し出そうとしていること。そして、その引き換えに王国の聖地を売ろうとしていること。


「これを、まずは教会の下働きや、信心深い洗濯女たちの間で広めてくれ。……コツは覚えているな?」


「もちろん。『これは秘密なんだけど』って前置きして、相手に『自分だけが真実を知っている』って優越感を持たせるんだよね?」


 シオンが不敵に笑う。

 情報の価値は、公的な発表よりも、密やかな「密談」の体裁をとることで爆発的に高まる。

 人々の口から口へと伝わる過程で、尾ひれがつき、事実はより強固な「確信」へと変わっていくのだ。


「三日だ。三日後には、大聖堂の朝の祈りの中で、信者たちが王子の名を聞くたびに眉をひそめるようにしてくれ」


「了解。……ねぇ、先生。あのアホな王子様、自分が吐いた言葉が、自分の首を絞める縄になるなんて思ってもいないんだろうね」


「それがインテリジェンスの妙味だよ。……彼が気づいた時には、もう手遅れだ」


 俺はシオンと別れ、再び表通りの雑踏へと戻った。

 

 数時間後。街の至る所で、小さな「種」が芽吹き始めていた。

 井戸端会議、酒場の隅、そして教会の告解室。

 

「……ねぇ、聞いた? ユリウス殿下が、あの方を帝国へ送るっていう話を……」

「まさか。聖女様を? そんなこと、神が許すはずがない」

「でも、帝国からの密使が離宮に入ったのを、門番が見たらしいわよ……」


 小さな、無垢な囁き。

 魔力を持たない者たちの、力なき言葉。

 だが、それが数万、数十万と重なれば、いかなる防御魔法も防げない「世論」という名の巨大な暴力へと変貌する。


 王宮へ戻る道すがら、俺はユリウス王子の馬車とすれ違った。

 窓から見える王子の顔は、相変わらず自信と傲慢に満ちている。

 

(笑っていられるのも今のうちだ、ユリウス。……君の足元では、もう『不信』という名のシロアリが、君の玉座を食い荒らし始めている)


 俺は資料室に戻り、淡々と古い記録の整理を始めた。

 

 翌朝。

 聖教団の司教たちの元へ、一通の「匿名の嘆願書」が届く。

 そこには、昨夜の密談の内容を裏付ける、具体的な日付と場所が記されている。

 

 街に溢れる「噂」と、手元に届いた「証拠」。

 二つの点が線で繋がった時、聖教団は自分たちの象徴を守るために、牙を剥く。


 勝負は、剣を抜く前に決まっている。

 そして、俺の仕掛けた『情報の毒』は、すでに聖域の深部まで浸透していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。桜庭ユウトです。


情報の末端を担う少女・シオンの登場。

彼女が広める「噂」が、王子の支持基盤をじわじわと侵食していく様は、

まさにスパイアクション×異世界ファンタジーの醍醐味です。


物理的な力ではなく、人々の「心理」を操作して敵を追い詰める。

アルスの冷徹な計算が、少しずつ現実を塗り替えていきます。


「噂が広まっていくワクワク感がたまらない!」

「王子の焦る顔が早く見たい!」

そう思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをお願いします。

皆さんの「観測」こそが、アルスのネットワークをさらに広げる糧になります。


第9話、聖教団の反撃と王子の焦燥編をお楽しみに。

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