表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロで追放された書記官、実は世界最高の諜報員でした 〜ゴミ箱の機密を拾うだけで、俺を捨てた王国が戦わずして自滅する件〜  作者: 桜庭ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/23

第7話:シグナル・インテリジェンス:密談の波紋

王宮の北側に位置する「薔薇の離宮」。

 そこは、第一王子ユリウスが私的な宴を開くための、いわば『聖域』だ。

 強力な遮音結界と近衛兵の警護に守られ、いかなる密談も漏れることはないと信じられている。


「……配置についた。目標まで距離、約四〇〇。視界、良好だ」


 離宮を見下ろす大時計塔の頂上。リナが低く報告する。

 彼女の横で、俺——アルスは、ミリセント特製の『エコー・ミラー』を三脚に固定していた。

 水晶の放物面が、月光を反射して怪しく光る。


「リナ、周囲の警戒を。魔力の揺らぎを感知したら即座に通信を切れ。……これより、シグナル・インテリジェンス(信号諜報)を開始する」


 俺はミラーの焦点を、離宮のバルコニーの「空気」に合わせた。

 物理的な風の振動を、魔力のレンズで収束させる。

 イヤホン代わりの共鳴石から、雑音を突き抜けて「声」が届き始めた。


『……それで、帝国側の条件は?』


 ユリウスの声だ。

 いつもの傲慢な響きに加え、隠しきれない焦燥が混じっている。

 対する相手の声は、氷のように冷徹だった。


『我がゾルダン帝国は、王国の北境における利権を求めている。……それと引き換えに、貴殿が次期国王として即位するための軍事支援を約束しよう』


 リナが隣で息を呑むのがわかった。

 隣国ゾルダン帝国。王国とは長年、冷戦状態にある仇敵だ。

 王子が自国の土地を売り渡し、玉座を買おうとしている。国家反逆罪に相当する「極秘事項」だ。


『……よかろう。だが、もう一つ条件がある。……フィオナだ』


 俺の元婚約者の名前が出た瞬間、ミラーの波形が微かに乱れた。

 俺の指先が、無意識にダイヤルを微調整する。


『彼女を、帝国の公爵へ「贈り物」として差し出す。……彼女は聖教団とも繋がりが深い。帝国側で彼女を抱え込めば、教団の動きを封じる人質としても役に立つはずだ』


「……あの男……どこまで腐っているの……!」


 リナの拳が、石造りの壁をきつく叩いた。

 ユリウスはフィオナを愛して奪ったのではない。

 単なる政治的な「駒」として、あるいは「便利な通貨」として、俺から奪ったに過ぎなかったのだ。


「……観測完了。十分な証拠ログだ」


 俺は冷静に『エコー・ミラー』を解体し、アタッシュケースに収めた。

 感情を動かす必要はない。

 ユリウスがフィオナをどう扱おうと、それは俺にとって「彼を破滅させるための火種」が増えたという、ただそれだけの事実に過ぎない。


「アルス、あいつを……ユリウスを、今すぐ……!」


「焦るな、リナ。……情報の価値は、寝かせるほどに増していく。今これをバラしても、王子は『証拠がない』と突っぱねるだろう」


 俺は夜風に吹かれながら、暗い離宮を見つめた。


「彼がフィオナを帝国へ引き渡す『その瞬間』。彼が最も成功を確信し、護衛も油断しているその時こそが、最も美しく社会的に処刑できるタイミングだ」


 俺の脳内にある相関図で、フィオナという駒が「悲劇のヒロイン」から「王子の喉元を焼く劇薬」へと書き換えられた。


「……リナ、次の工作だ。聖教団の中にいる、俺の協力者シンパに接触する。……『聖女が売られようとしている』という噂を、最も効果的な場所で流すんだ」


 魔法の火力がどれほど強かろうと、民衆の怒りと、裏切られた信仰という名の「濁流」を止めることはできない。


 勝負は、剣を抜く前に決まっている。

 そして、盤面はすでに俺の支配下にあった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。桜庭ユウトです。


王子の非道な計画が、アルスの「耳」によって暴かれました。

元婚約者さえも売却しようとするユリウス。

その冷酷さが、アルスに「最高の反撃材料」を与えることになります。


ここから物語は、教団や帝国をも巻き込んだ巨大なコンゲーム(騙し合い)へと発展していきます。

アルスがいかにして「最弱の書記官」のまま、国家の天秤を操作するのか。


「この冷徹な逆転劇をもっと見たい!」という方は、

ぜひブックマークや評価、いいねをお願いします。

皆さんの「期待」が、アルスの次の策をより鮮やかなものにします。


第8話、聖教団へのプロパガンダ投入編をお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ