表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロで追放された書記官、実は世界最高の諜報員でした 〜ゴミ箱の機密を拾うだけで、俺を捨てた王国が戦わずして自滅する件〜  作者: 桜庭ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/23

第18話:見えない影とのコンゲーム:スパイ・フェンリル

教団の瓦解という「表の騒乱」を背に、王都の裏路地では、音のない追跡劇テイルが繰り広げられていた。


 若き枢機卿エルマンは、法衣を脱ぎ捨て、平民の服に着替えていた。その動きは素人目には迅速に見えるだろうが、俺——アルスの『観測』からすれば、恐怖に支配された、あまりに無防備な逃走劇だった。


『……ターゲット、三番街の交差点を南へ。歩幅が乱れている。角を曲がるたびに振り返る回数は四回。……典型的な、追跡者の存在を確信している者の動きだ』


 俺は資料室の特等席で、街中に配置したシオンの「小さな目」たちからの報告を、脳内の地図にプロットしていた。


「……シオン。彼に『逃げ切れる』という錯覚を与え続けろ。……追い詰めすぎて自暴自棄になられては、フェンリルの喉元に辿り着けない」


『了解、先生。適度に視界から消えて、適度に見つかってあげるよ。……追われている恐怖が、彼を「本物の隠れ家」へ誘うスパイスになるってわけだね』


 俺は通信を切り、隣で待機していたリナに視線を向けた。

 彼女は、ミリセントが開発した「対・魔力探知用」の迷彩マントを羽織り、短剣の調子を確かめていた。


「リナ。……これから君が向かうのは、王都の地下下水道、通称『大鼠のザ・デン』だ。……そこにはゾルダン帝国のデッド・ドロップ(秘密受け渡し場所)がある」


「……わかっている。……エルマンが鳴らしたあの銀の鈴。あれに応じる者が現れる場所、ということだな?」


「そうだ。だが、注意しろ。フェンリルは、ユリウスのような三流ではない。……彼は『自分を追っている者がいる』ことを前提に動く。……もしかすると、エルマン自身も、俺たちを誘き出すための『捨て駒』に過ぎない可能性がある」


 リナは黙って頷き、影へと消えた。


 数分後。地下下水道の入り口。

 エルマンは、震える手で再びあの「銀の鈴」を鳴らした。

 

 ——チリン、と冷たい音が湿った空気に反響する。

 

 闇の奥から、一人の男が姿を現した。

 特徴のない顔、特徴のない服装。街の群衆の中に紛れれば、一瞬で見失うような「無」の存在。それこそが、ゾルダン帝国のエリート工作員の証だ。


「……フェンリル様……助けてください! 教団が……聖女が、裏切ったんです!」


 エルマンが男に縋り付く。男は無言でエルマンの肩を抱き寄せ、そして……。


 微かな肉の裂ける音。

 エルマンの瞳が驚愕に見開かれ、そのまま力なく崩れ落ちた。男の手には、極薄の針が握られていた。


「……情報を漏らした『汚物』に、救済はない」


 男が冷たく言い放った瞬間、背後の闇からリナの短剣が突き出された。

 だが、男はまるで見えていたかのように首を傾け、その一撃を回避する。


「……王国にも、少しはマシな『猟犬』がいるようだな。……魔法を使わずに、ここまで接近するとは」


「……貴様がフェンリルか」


 リナが剣を構え、間合いを詰める。

 資料室でその音声を傍受していた俺は、即座に違和感を覚えた。


(……待て。フェンリルのような慎重な男が、これほど簡単に捕捉されるか?……彼の心拍数が安定しすぎている。……これは、格上の強者が持つ余裕ではない。……これは『機械』の安定だ)


「リナ! 離れろ! そいつは偽物だ!」


 俺が叫ぶのと、男が自らの胸に手を当てるのは同時だった。

 男の服の下から、ミリセントの作ったものとは別の、禍々しい赤い光が漏れ出す。


「……フェンリル様からの贈り物だ。……『観測者』に伝えておけ。……お前の視線は、すでに『観測』されているとな」


 ——轟音。

 

 男の体が、魔力の暴走を伴う自爆装置と化し、地下通路を揺らした。

 リナは寸前で俺の警告に応じ、背後の水路へ飛び込んだが、爆風の衝撃までは避けられなかった。


「……チッ、……やりおる」


 資料室で、俺はモニター代わりの水晶板を叩いた。

 フェンリルは、エルマンを餌にして俺たちを誘き出したのではない。……エルマンを殺し、そこに『偽のフェンリル(自爆人形)』を配置することで、こちらの「出方」と「技術レベル」を推し量ったのだ。


 こちらの「観測」を、逆手に取って「観測」し返された。

 

 俺の脳内にある相関図で、初めてフェンリルの項目に「脅威:特級」の文字が刻まれる。


「……面白い。……世界は、ゴミを片付けるだけでは済まないようだ」


 俺は、怪我を負ったリナの回収をシオンに命じ、次の計算を開始した。

 

 勝負は剣を抜く前に決まっている。

 だが、相手も同じ信条ルールで動くプロならば、ここからは「どちらの絶望が深いか」の競い合いになる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。桜庭ユウトです。


ついに姿を現した強敵・フェンリル。

アルスの仕掛けた「罠」を、さらに大きな「罠」で返し、

一瞬にして攻守を逆転させるプロの技術……いかがでしたでしょうか。


これまで無敵だったアルスの「観測」が、初めて先読みされた。

この挫折こそが、物語をさらに高いステージへと押し上げます。

魔法無効化技術を持つミリセント、潜入のリナ、そしてアルスの頭脳。

これら全てを知った上で、フェンリルは次の攻撃を仕掛けてくるでしょう。


「プロ同士の騙し合いが熱い!」

「リナの安否が気になる!」

そう思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをお願いします。

皆さんの「期待」という名の情報が、アルスを再起させ、さらなる冷徹な反撃へと繋がります。


第19話、カウンター・インテリジェンス:奪われた聖女編をお楽しみに。


明日からは1日1話の投稿予定です。

ブックマークしてお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ