第13話:公開処刑の朝:その剣は、誰を指している?
王都中央広場。建国記念祭の熱狂は、一瞬にして凍りついた。
「……反逆者どもめ! この私を、王位継承者であるこのユリウスを、偽りの証拠で貶めようとした報いを受けよ!」
広場の中央、演壇に立ったユリウスが、狂気に満ちた叫びを上げる。
彼の背後には、洗脳に近い忠誠を誓わせた私兵たちが並び、広場を埋め尽くす民衆に剣を向けている。
(観測:ユリウスの魔力バイタル、臨界点を突破。……典型的な『自己陶酔型暴走』だ。彼は今、恐怖を力で塗りつぶすことでしか、自らの存在を証明できない)
俺——アルスは、広場を見下ろす時計塔の中、ミリセントの隣で冷静に時計の針を見つめていた。
民衆は怯え、教団の騎士たちも王子の放つ圧倒的な魔圧に気圧されている。
「見よ! これが王の力だ! 焼き尽くせ、『獄炎の裁き(インフェルノ)』ッ!!」
ユリウスが、家宝の魔導杖を高く掲げた。
本来なら、次の瞬間、広場は逃げ場のない火の海に包まれるはずだった。
「……今だ、ミリセント」
「了解っ! 『魔力散逸場』、出力最大! 世界を黙らせなさい!」
ミリセントがレバーを引くと同時に、真鍮の筒から不可視の「波動」が放たれた。
それは魔法そのものではなく、魔法が成立するための「前提」であるマナの結合を強制的に解除する、物理的な干渉波だ。
——シュウウゥ……。
ユリウスの杖から放たれるはずだった轟炎は、湿ったマッチのような、情けない音を立てて霧散した。
「……な、なんだ? ……あ? ……もう一度だ! 燃えろ! 燃えろと言っているんだ!!」
ユリウスが必死に杖を振る。だが、火の粉一つ出ない。
彼がどれほど魔力を練り上げようとも、周囲に展開された「ジャミング」が、すべての魔力を無機質な振動へと変えて消し去ってしまう。
「……残念だったな、ユリウス。その杖は今、ただの重い飾りだ」
広場に、凛とした声が響き渡った。
影から躍り出たのは、リナ・フォン・フェルト。
彼女は魔法を使わない。ただの鉄の剣を抜き、疾風の如き速度で演壇を駆け上がった。
「き、貴様ッ! 近衛を呼べ! この反逆者を斬り捨て……ぐはっ!?」
ユリウスの言葉は、リナの無慈悲な回し蹴りによって遮られた。
魔法障壁による防御を前提としていた王子にとって、肉体を鍛え上げた騎士の物理的な一撃は、死に等しい衝撃だ。
リナは、地面に転がったユリウスの胸元を踏みつけ、剣先をその喉元に突き立てた。
「……動くな。魔法も権力も持たぬ、ただの『罪人』よ」
広場を支配していた恐怖が、沈黙へと変わり、やがてそれは「嘲笑」へと転じた。
先ほどまで神のごとき威厳を保っていた王子が、泥にまみれ、一人の女性に踏みつけられて無様に喚いている。
「離せ! 私は王子だぞ! お前たち、何を呆然としている! こいつを殺せ!」
ユリウスが私兵たちに命じる。だが、私兵たちも動けない。
彼らもまた、ミリセントのジャマーによって魔導武器を無効化され、さらには周囲を教団の正規騎士団に完全に包囲されていることに気づいたからだ。
(……チェックメイトだ。ユリウス)
俺は時計塔の窓から、その無様な光景を淡々と「観測」していた。
魔法が消え、嘘が剥がれ、ただの傲慢な男が残った。
民衆の目には、もう尊敬の念など微塵もない。あるのは、自分たちを焼き殺そうとした「狂人」への冷ややかな憎悪だけだ。
「……お見事です、アルス君。私の最高傑作が、最高の舞台で役に立ったわね」
ミリセントが満足げに微笑む。
俺は何も答えず、ただ手元の資料に一本の線を引いた。
『ターゲット:ユリウス・フォン・王国第一王子。……社会的・物理的生命の抹消、完了』
勝負は、剣を抜く前に決まっていた。
広場に響き渡る民衆の怒号を聞きながら、俺は次の「獲物」のファイルを頭の中で開き始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。桜庭ユウトです。
最強の魔法が「不発」に終わる絶望感。
そして、積み上げたプライドが民衆の目の前で物理的に踏みつぶされる屈辱。
第1章最大のカタルシス、いかがでしたでしょうか。
リナの物理的な強さと、ミリセントの技術、そしてアルスの計略。
この三位一体が、王国の「腐敗」を象徴する王子を完璧に処刑しました。
しかし、これで物語が終わるわけではありません。
ユリウスを裏で操っていた「隣国ゾルダン帝国」の影。
そして、魔法が消えた世界でこそ真価を発揮する、真のスパイたちの戦いが始まります。
「最高のざまぁだった!」
「リナの蹴りに痺れた!」
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皆さんの「観測」が、アルスの組織『レコーダー』をさらなる高みへと導きます。
第14話、王子の自白:監獄の面会室編をお楽しみに。




