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空白  作者: 凪音


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第七章

接見室に入った瞬間、前回と同じ沈黙が凪音を包んだ。


まことは椅子に深く沈み、自分の影を抱きしめるようにうつむいていた。

その姿勢に、前回よりもさらに“周囲との距離”が感じられる。


「こんにちは。

あれから体調はどう?」


凪音の声に、まことの肩が微かに動いた。

返事はすぐには返ってこない。

しかし、あきらかに凪音の存在を“認識した気配”があった。


「今日は……あの日のことを、少しだけ教えてほしい。」


まことはほんの少しだけ顔を上げ、囁くように答えた。

「……はい。」

凪音は急かさず、まことが呼吸を整えるのを静かに待った。


「じゃあ……起きてから、何があったのか順番に話してみて。」


沈黙がひとつ落ちる。

その沈黙の底で、まことの喉がかすかに動いた。


「……起きた時間は覚えていません。

でも……外は……暗くなっていました。」


光の有無だけで世界を区切る言い方。

そこに、まことの日常の“形の不在”が滲む。


まことは、指先をそっと握りしめながら続けた。

「……ご飯を買いに、コンビニに行きました。

帰りに……あの人を見かけて……」

その言葉に、まことの視線が揺れた。

懐かしさとも、驚きともつかない揺れ。


「……“あの時の人だ”って……そう思って……声をかけました。」


凪音は頷く。


「その子……転んで……膝をすりむいていて……手当て……しなきゃって……思って……」

“手当てしなきゃ”そこに悪意は一欠片もない。

ただの反射のような純粋さ。


「……あの人も、僕のこと……“あの時の……”って……言って……少しだけ話して…………それで……僕の家に……」


まことの声が急に細くなる。

ここから先の記憶に触れるのを身体が拒むように。

凪音は、声の揺れをそのまま受け止める。


「……家に着いて……絆創膏を探して…………そしたら……」


まことの呼吸が乱れた。

喋ろうとするたびに胸が大きく上下し、視線がテーブルの木目に縫い付けられる。


「……帰るって……急に……言われて……」


その瞬間、まことの表情に“理解できなかった痛み”が走った。

彼はその痛みの名前を知らない。

拒絶なのか、恐怖なのか、悲しみなのか。

ただ胸の奥で何かが裂けたことだけを覚えているような表情だった。


凪音は目を細める。

問い詰めない。

焦らせない。

揺れの動きを、ただ静かに観察する。


まことは、息を整えようとしたが──

失敗したように肩が震えた。


彼の話が、どこか深いところへ傾いていく気がした。

凪音は、その変化だけを静かに追った。

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