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仕事始め

バルは二人を見つけるとまっすぐ近づいてきた。

「二人は飯くったのか?」

「まだだよ、バルもまだなら一緒に食べようよ!」

仁と魔弾は持っている荷物を置き、テーブルを確保した。

「じゃあ適当に買ってくるねー!」

そう言って仁は屋台へ向かって歩いて行った。

テーブルに残った二人は無言で席に座った。

向かい合って座ったせいか、自然にバルの姿が魔弾の視界に入る。

ーー少し年上の40歳くらいかな?港のキオさんもそうだけど、ここの人達はみんな引き締まってるなぁ。

「ダンは子供いるのか?」

突然、バルの口から飛び出した言葉に魔弾は動揺した。

「いや、自分なんてまだ全然ですし!決まった相手もいないんで!!でも…いずれは子供が欲しいなって感じですかね!」

「なになに?次はダンが狙われてるの?」

仁が酒を持って戻って来たようだ。

「ジンもダンも、子供が欲しくないのか?」

コップに酒を注ぎながら、仁は答えた。

「故郷に帰るつもりだし、無責任にって訳にもいかないでしょ。」

「確かに…収穫祭までとか期間決めたらお前どんだけ偉いんだって感じですもんね。」

魔弾の一言にバルが驚く。

「レテから出るのか?タキリ様は知ってるのか?」

「前回の収穫祭でタキリ様には話したよ。残念そうだったけど、仕方がないなって言ってくれたよ。」

ーータキリ様って何者?三文字の名前って初めて聞くんですけど!

魔弾は、話が一息ついたタイミングで訊いてみようと思いながら、2人の会話に耳を傾けていた。

「年老いた親2人の面倒を最後までみたいって言われたら、流石に帰るななんて言えないだろうからね。」

仁は笑って話していたが、魔弾には少し寂しげな表情に見えていた。

「前から大陸に行きたいってのは聞いてたから、驚きはしねぇけど収穫祭ってもうすぐじゃねぇかよ。まさかダンも大陸に行くのか?」

「はい、自分も大陸へ行きます。だから収穫祭までにどうしても稼ぎたくて!」

魔弾の輝く眼差しを見て、バルは笑いながら言った。

「ダンにサラかカラでもどうかな?なんて思ってたんだがなぁ…残念だな!」

ーーサラさんもカラさんも結構綺麗でしたけど?!勿体無い事しちゃってる?!いやいや、迷うな!迷ったら負けだ!

魔弾は決断を鈍らせないよう、話題を変えることにした。

「タキリ様って誰なんですか?」

仁は、少し考えながら言葉を選んだ。

「レテを治めている方で、政治家とか領主って感じではなくて、役所の地域課の人みたいな感じなんだけど。大陸から派遣されて来て、公務員みたいな感じ。だから名前も三文字なんだよ。」

「まぁ、滅多に会えるような方じゃねぇが収穫祭はいつも来てくださるから、そん時挨拶しときゃいいだろ。」

バルの物言いは少し冷たかった。

場の空気が少し重く感じた3人は、しばらく無言で料理と酒を楽しんだ。

気付けば辺りは暗くなり、広場は多くの人々で賑わっていた。

「ダン、そろそろ行くか?」

バルは立ち上がって魔弾を見下ろした。

「はい、よろしくお願いします。」

魔弾もすぐに立ち上がり、荷物を手に取った。

「じゃあダン、足りない荷物は明日届けるから。バル、またね。おやすみー。」

そう言って仁は、人ごみへ去っていった。

残った2人は人を避けるように、足早に広場を出た。

どうやら宿舎は、仁の店とは反対方向で祈りの間の近くにあるようだ。

宿舎に着くと、バルはすぐに魔弾を2階へ案内した。

部屋は6畳ほどの広さで、寝台のみのシンプルな部屋だった。

荷物を置いてひと通り宿舎内の案内をしてもらった魔弾は、部屋に戻るとすぐに寝台へ向かった。酔っていたのもあってか、板張りで硬いはずの寝台でもあっという間に寝入ってしまった。

夜明け前、ぐっすりと眠る魔弾の部屋に突然バルの大声が響き渡った。

「ダン!起きろー!早く飯食って行くぞ!」

「はい!!」

バルの大声で瞬時に目が覚めた魔弾は、飛び起きるように寝台から降りた。

1階に降りると、4人の男が準備万端で待っていた。

ーーやっちまったーーー!!!新入りのくせに1番遅いとか馬鹿か俺!!

魔弾は、急いで用意してあった食事を水で流し込み準備万端ですとバルにアピールした。

宿舎を出ると外はまだ薄暗く、街の中は静まり返っていた。

広場を越え、人とすれ違うことなく門まで来ると、空は少しずつ明るくなっていった。

蔵に着くと男4人は道具を携え畑に向かい、残った魔弾はバルに案内され蔵の外にある小屋へ入った。

小屋の中は粉挽き機があり、魔弾はこれを動かすのが役目らしい。

丸太を押してぐるぐる回る、それだけだ。

「きつかったら休み休みやって構わんから、この袋を昼飯までに終わらせてくれ。」

ひと通り粉挽き機の取り扱いを教わり、魔弾は早速仕事を開始する。

最初は真面目に無言で丸太を押していた魔弾も、2時間もすると慣れてきたのか大声で熱唱しながら作業をするようになっていた。

任された袋が予想以上に早く終わってしまったので、手の空いた魔弾は蔵に戻りバルを探した。

バルは何やら書類のチェックをしているようで、魔弾に気づくと書類を置いて近づいてきた。

「どうした?何かあったのか?」

バルが心配そうに魔弾に聞いた。

「あの袋の分が終わったので、次の袋を取りに来ました!」

「終わった?!もう終わったのか??」

驚いたバルは小屋へ走って行ってしまった。

仕方がないので、魔弾も小屋へ戻ると笑顔のバルが立っていた。

「ダン、お前すごいな!こんな早くできるやつなかなかいないぞ?!じゃあ、今日の分渡すから来てくれ。」

ーー午後の分ってことかな?

蔵へ戻ると、バルは魔弾に小さな布の袋を渡した。

「少し多めに入れといたから、昨日挽いた分を街へ持って行ってくれないか?宿舎の横の倉庫にカラがいるから持っていって欲しい。」

「はい、分かりました!」

「助かるよ、じゃあ今日はお疲れさん!ゆっくり休んでくれ」

ーーえ?街に運んだら今日の仕事終わり??

蔵の外で荷車に挽いた粉入りの袋を積みながら、不安に思った魔弾はバルに確認した。

「これ運んだら、今日の作業は終わりなんですか?」

「あぁ、今日の分は終わっちまったからな!」

バルは嬉しそうに答えた。

ーーえ?普通はもっと時間かかるものなの??えぇ…午後どうしよう…

荷車の準備が終わったので、街に戻ることにした魔弾はバルと畑で作業している男たちに挨拶をして荷車を出発させた。

荷車はかなり重く、引き始めは辛かったがある程度勢いが着くと道が平坦だったこともあり、さほど重さを感じずに引くことができた。

バルに早いと褒められたことが嬉しかったのか、魔弾はご機嫌で街へ戻っていった。


良いお年を。

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