即決面接
「キオ久しぶり!彼は“ダン”。ここで雇って貰いたくて、どうかな?」
――いきなり本題?!アレ??“ダン”って俺のこと??
「ダン、こっちへ。」
仁は状況がいまいち判断できない魔弾に、手招きした。
「彼は、この港を仕切っているキオだよ。」
「キオだ。よろしく、ダン。」
魔弾は流れに任せ、自己紹介に入る。
「“ダン”です、よろしくお願いします!」
キオは魔弾の体格を確認すると、魔弾の肩を叩きながら嬉しそうに言った。
「良い体してんじゃねぇか!早速だが、二日後に船が来るから、港の鐘が鳴ったら波止場に来てくれ。コレを腕に巻いときゃ入れるから。」
渡された布は、手拭いのような生地に刺繍がしてあり、鉢巻きのような形をしていた。
「ありがとうございます!では二日後、よろしくお願いします!」
――え??これで終わりなの?即決でいいの?
ものの数分で会話が終わり、魔弾は展開の速さに置いてけぼりになっていた。
「じゃあ、また来るよ。」
仁がキオに挨拶をしたので、魔弾も会釈をして二人は建物から出た。
建物を出るとすぐに仁は振り返った。ちょうど魔弾も仁に話しかけようとした瞬間だった。
「名前ごめんね。この世界の風習みたいなもので、二文字以上の名前は勝手に名乗ってはいけないんだ。最初に話しておくの忘れてて、咄嗟に決めちゃったんだけど……」
仁は申し訳ないと言わんばかりに頭を下げた。
「確かに三人とも二文字ですね!仁さん、センスいいっすね!自分じゃ咄嗟に出てこないですよー!」
魔弾はあまり気にしていないようで、むしろ少し嬉しそうに見えるほどだった。
「そう言われると、罪悪感が薄れるよー。もし魔弾くんと同じクラスだったら、きっと“ダン”ってあだ名つけるかな?って思って。」
仁は少しホッとして、笑顔を見せた。
「仁さんのあだ名って“ジン”だったんですか?」
「僕は普通に苗字で呼ばれてたかな。ジンはゲームで名前つける時、いつも使ってたから、それでいっかなって。魔弾くんは本名派?」
「自分はフリッツで統一してました!てか仁さん、ゲームやるんだ?!意外なんですけど!」
仁は「意外」と言われ、少し驚いていた。
「原始人って狩ゲー知ってる?高校の時とか、学校に持って行って、みんなでマンモス狩ってたよー!あの頃は、かなりハマってたね。」
「原始人懐かし〜!!自分は2からだったんですけど、部活の後、みんなでやってました!2の集落最終クエ、やばいですよね!」
「あー!!やばかったね、あのクエ!シリーズ屈指の難易度って言われるだけあったね!懐かしすぎて、久々にやりたくなっちゃったよー!」
二人は会話に夢中になり、気付けば街の入り口の門まで歩いて来ていた。
「よう、ジン!畑か?」
門番が仁に話しかけながら近づいて来た。
魔弾は、会話をしている二人を眺めながら考えていた。
――ここの人たちは敬称とか敬語を使わないのかな?それに会話がなんかシンプルなんだよな……まぁ分かりやすいからいいか!
自己完結したところで仁が戻ってきたので、二人は門を抜けて街の外へ出た。
来た時は夕方だったのもあって、あぜ道は寂しげに見えたが、昼は人通りが多く賑やかだった。あぜ道沿いには畑があり、男たちの働く姿があった。
五分ほどあぜ道を歩くと、蔵のような木造の建物が見えて来た。
建物に入ると、三人の女性が穀物を布の袋に入れる作業をしていた。
女性たちは、仁の姿を視認するや否や駆け寄ってきた。
「ジン!今日はどうしたの?」
「ジン、久しぶりじゃない!」
仁は慣れているのか、女性たちを軽い挨拶でかわし、奥へ進んで行った。魔弾も仁の後に続いた。
奥には事務所のような個室があり、一人の男が机に向かって座っていた。
「バル、働き手を連れてきたよ。彼はダン。ここで雇ってあげてよ。」
男は立ち上がり、魔弾をまじまじと見ながら近づいて来た。
「ダンです、よろしくお願いします!」
魔弾の元気ある挨拶が気に入ったのか、男はニカっと笑い、自己紹介した。
「俺はバルだ。ここ一帯の畑を管理してる。よろしくな。部屋はどうする?二階でよけりゃ、今夜から使えるぞ?」
魔弾の目が輝く。
「今夜から、使わせてください!」
「じゃあ、日暮れまでに荷物をまとめて街の広場に来てくれ。今日の作業が終わったら迎えに行くから。」
「はい!広場で待ってます!」
嬉しそうな魔弾を見て、仁も安心したようだ。
話がまとまり事務所を出ると、先ほどの女性たちが仁を見て、また駆け寄って来た。
「ジン、もう帰るの?」
仁は申し訳なさそうに、女性たちを見て言った。
「悪いね、まだやり残した仕事があるから。」
女性たちは一瞬がっかりした様子を見せたが、今度は魔弾に駆け寄った。
「あなたは?あなたも忙しいの?」
積極的すぎる女性たちに萎縮している魔弾を見て、仁は笑いながら言った。
「彼はダン。明日からここで働くから、色々教えてあげてね。」
三人の女性は顔を見合わせ、笑顔で同時に返事をした。
「よろしくね、ダン!」
「よろしくお願いします!」
魔弾は挨拶を終えると、仁と逃げるように出口へ向かった。
「あの三人はバルの妹さんたち。髪の長い女性が長女のサラ、髪を結っていた女性が次女のカラ、ショートカットの女性が三女のミラ。積極的な女性って、僕どうも苦手で……」
そう言って仁は苦笑いした。
思い返すと、蔵の中での仁の行動は、魔弾に対する優しい態度と比べると、やや冷たいような気がした。
――女性が苦手なのだろうか?
しかし昼間の広場では、何人かの女性と談笑していたが、冷たい印象は全くなかった。
――あれ?もしかして仁さん、結構モテる??
同性の魔弾から見た仁は、中背中肉で、年齢にしてはやや若く見える面立ちをしている。自分でカットしたであろう髪型と無精ひげのせいで清潔感はあまりないが、いたって普通の男性に見えた。
――優しそうなあのオーラに引き寄せられてくるのか??もしかして、仁さんは勇者的な存在なのか?!
夢中になって考えていた魔弾は、仁に肩を叩かれるまで、呼びかけに気づかなかった。
「必要そうなもの、買っておこうか。」
気付けば二人は広場に戻って来ていた。
「お金、貸していただけますか?」
魔弾は恐る恐る仁に言った。
「これぐらい気にしないでいいよ!とりあえず下着と服とタオルを買わないとね。石鹸は僕が作ったやつ、店にあるからそれあげるよ。あとは……水筒とコップも必要か。」
仁はまるで、修学旅行に行く息子のためにショッピングモールで両手いっぱいに買い物をする母親のようだった。
一通り買い物も終わり、休憩がてら屋台で小腹を満たしていると、バルが現れた。
気付けば日が沈みかけ、広場では焚き火が用意され始めていた。




