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二次会

屋台の人が皿を下げにきたので、二人は仁の店に戻り飲み直すことに。

今日のところは仁のお世話になるとして、今後の事についてどうしたら良いか魔弾は歩きながら悩んでいた。

店に着くと、奥の部屋にある階段で2階に上がった。仁は店の2階に住んでいるらしい。

2階は1階より狭くテーブルと椅子二脚、壁際に大きな本棚と窓際にハンモック。秘密基地のような部屋だった。

魔弾が本棚を見ていると、仁が1階から酒を持って戻ってきた。

仁は陶器のコップへ革袋に入った酒をゆっくりと注ぐ。

再び乾杯をし、二人はゆっくり酒を飲み始めた。

「魔弾くんはやっぱりピッチャー?」

魔弾が就活で、何度も聞かれた質問だ。

「外野手です!小学生の時はピッチャーが憧れだったんですけど、中学上がってボーイズに入ったら上には上がいて...でも野球は大好きだったんで大学まで続けてました」

「ずっと?!凄いねー!!だからか、僕から見てもいい体って思うよ!」

「これ自慢なんですけど、高校卒業してから欠かさず週3でジム通ってます!」

「凄いなー!休日の散歩すら続かない僕は、不健康まっしぐらだよ」

仁は本当に楽しそうに話している。

この暖かく緩やかな空間を崩すのは、とても無粋な行為だと魔弾は理解していた。

そして、休日の過ごし方や好きな食べ物の話題で二人は盛り上がっていった。

革袋の酒が残り少なくなった頃、二人の酔いも深くなり口数は少なくなっていた。

窓を見つめる仁が、一言呟いた。

「帰りたいな......」

魔弾と出会い会話した事で蘇る、日本で過ごした色鮮やかな記憶。

“帰りたい”の一言は、仁がここにきて五年、どれほどの苦労と孤独に耐えてきたのかを物語っていた。

そして、一から店を構えるまで頑張れた仁が、未だこの地で帰還を望んでいるのは、帰る方法が見つからなかったという事。

「やっぱり、帰れないんですかね...」

答えは分かっていても、魔弾は訊かずにはいられなかった。

「ごめん、僕にも分からないんだ...僕ね、実はこの土地を離れようと思っていたんだ、でもここの人達に助けて貰った事もたくさんあったから、その前にどうしても恩返ししたくてね。もともと品種改良の研究してたから、こっちでも力になれないかなと思ったんだ。もちろん設備がないから本格的な事は出来なかったけど、なるべく水害に強い作物にしたくてね。去年は大分強い子達が出来たから、今年の収穫分もきっと強いと思う!それを見届けたら、大陸の方に行ってみようかなって!」

「大陸?!」

魔弾は少年のように目を輝かせた。

「僕のお店は毒を扱ってて、駆除人の人達がよく利用してくれるんだけど、大陸の駆除人達にも贔屓にしてくれる方が結構いてね。大陸の色々な情報や物品をもらったりしてたから、行ってみようかなって思ってたんだ!」

ーー待って待って!大陸とか駆除人て何?!なんかとても素敵な響きなんですが??

魔弾から放たれる期待感と興奮は、少し前の哀調を帯びた雰囲気を一変させた。

「駆除人てなんですか?!勇者みたいな感じですか?!自分も大陸に行ってみたいんですけど!!」

興奮を隠しきれない魔弾に驚きつつも、仁は話を続けた。

「駆除人は文字通り、化け物駆除のプロって感じかな、この島の駆除人はゴウくんとサキさんの二人で、普段は化け物が人里に近寄らないように威嚇したり柵で追い払ったりしてるんだけど、肉食獣の化け物は凶暴だから駆除しか無いらしくてお願いするって聞いてる」

「あの二人駆除人なんですね!確かに熊が出た時も動揺してなかったし、なんなら狩る気満々に見えました!」

「その熊って額に眼球みたいなのなかった?あったら化け物で無かったらただの熊って聞いたよ」

魔弾はふと思い出す。

「でもあれって一目じゃ判らなくないですか?額に傷入れないと中にあるか見えないだろうし」

「その熊は化け物になりたてだったのかも。普通は、見てすぐ分かるみたいだからね。ここでは化け物の肉を喰らうと己も化け物になるって言われていて、人が口にする肉は人が育てた家畜のみって決まりもあるくらいなんだ。見境なく襲って喰らう肉食獣はヤバイってのも納得だよね!」

「もしかして、人も化け物になるんですか?」

魔弾は不安そうな表情を仁に向けた。

「なるらしい。でも普通は野生の肉を口にするなんてことは無いし、僕たちが口にする肉は徹底して管理されてるからそこは安心していいと思う。なにより五年住んでて、人が化け物になったって話は聞かないしね」

魔弾の不安気な表情をみて続ける。

「大丈夫!仮に化け物が現れても、駆除人がすぐ動いてくれるから」

仁の言葉から、駆除人への信頼が伝わる。

「駆除人て一体何者なんですか?」

「それ僕も最初思った!駆除人は代々受け継がれる血筋で成り立ってるらしいよ。これは祈りの間にある書物で知った話なんだけど、昔大きな災害があって飢饉が各地で起きた時に、ある村の男達が空腹に耐えられず野生の動物を狩って飢えを凌いでたらしい。その時化け物になってしまった人間と、同じ肉を食ったのにどういう訳か化け物にならなかった人間がいてその末裔達が各地で子孫を残してって感じらしい。“選ばれし血脈”って感じでかっこいいよね!」

仁は憧れのヒーローについて語っているかのようだった。

その様子を見て魔弾は勝手に納得した。

「だからサキさんは魔法が使えるのか...」

しかしすぐさま仁が反応する。

「えっ?!サキさん魔法使えるの?!」

ーーえっ?!使えないの?!じゃあ火炎放射っぽいアレは何??

魔弾は記憶を、より鮮明に手繰り寄せた。

ーーそうだ!ペンライト!!

「ペンライトっぽいところから火炎放射出してましたけど、アレは魔法じゃないんですか?」

すると仁は少し考え、壁に掛けてあるランタンを取り魔弾に見せた。

「中の炎見てみて」

一見普通のランタンのように見えるが、よく見ると中には蝋燭や油はなく石のようなものが燃えていた。

「大陸の商人から買ったんだけど、これすごいんだよ。つけたい時に触れると炎が付くし、消したい時も触れたら消える。結構高価なものだったけど一目惚れして買っちゃった!他にも触れたら水が溜まる壺とか、溶けない氷の石とか色々あるよ。多分なんだけど、サキさんが持ってるそのペンライトも大陸で買ったんじゃないかな?」

魔弾がランタンにそっと触れると、ランタンは静かに炎を消した。すぐにもう一度触れて炎を付けた魔弾は、必死に湧き上がる興奮を抑えつけた。

ーーペンライトをゲット出来たら、俺も火炎放射出来るってこと?!ヤバイヤバイヤバイ早く大陸行きたいんですけど!!

「収穫祭まであとどれくらい猶予ありますか?自分もお金貯めて大陸に行きたいです!」

魔弾の希望に満ちた表情を見て、仁の表情も明るくなる。

「多分そろそろ芽が出る時期だから、あと大体3ヶ月くらいかな。もしよかったらだけど、働き口も紹介できると思う」

「是非是非!よろしくお願いします!!」

今後の目標が決まった魔弾は、安心した途端に睡魔に襲われた。

その様子を見ていた仁は、魔弾にハンモックを譲り1階へ降りて行った。

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