神様
仁の言葉に一瞬凍りつく魔弾。魔弾は考えていた、信じるか否か問われれば正直信じてはいない。しかし馬鹿正直に信じていないなんて言ってしまえば、その後の会話はきっと神様とやらのありがたいお話で勧誘してくるはず。逆に信じていると言ったとしても、より素晴らしい神がいると勧誘されるだろう。身構える魔弾を見て、仁はすぐに空気を読み取った。
「あ! 勧誘とかじゃないから!! 全然そういう話じゃないから!!」
仁は、魔弾を安心させたい一心で言葉を続ける。
「僕は、“祈りの間”って部屋で目覚めてね。普通は交通事故から目覚めたら、病院の天井見て『ここどこだ?』みたいな感じでしょ? 僕の場合は本気で『ここどこだ??』だったからね。病院じゃありえないぐらい薄暗い部屋の中で、医者っぽい人はいないし、なぜか周りで五人の人が無言で立ってて、もうパニック状態だったよ」
仁は当時を思い出し、笑いながら話を続けた。
「怖くなって走って部屋から飛び出して、一目散に出口に向かって……外に出たら驚きで腰が抜けちゃったんだよね。あまりにも見慣れない光景だったからさ。明るい場所に出て初めて気付いたんだけど、服が血塗れでね。右側の袖から下はちぎれてなくなってるし」
警戒心を露わにしていた魔弾が突然話に食い付いた。
「服着てたんですか?!」
「うん、着てた。事故に遭った時の服。あっ! でも靴はなかったよ! 事故で脱げちゃったのかな」
魔弾は話を遮ってしまったことに謝罪し、すぐに口を閉じた。服の有無も気にはなったが、何よりも命が救われた過程を知りたかったからだ。
「服を見て、目覚めた時にいた人達が助けてくれたのかもって思ったんだ。それですぐ最初の“祈りの間”ってところに戻ったんだけど、すでに誰もいなくてね。誰か戻ってくるかもって思って、部屋の外の広間で待ってたら、腕がちぎれかかってる人が部屋に運び込まれていったんだよ」
魔弾はまだかまだかと聞き入る。
「それで運び込んだ人が出て来たと思ったら、膝をついて両手を胸にあてて祈り始めたんだ。その時広間にいた人全員が、同じく膝をついて祈り始めたんだよ。正直ちょっと怖かったよ。それから30分後くらいかな? 運び込まれた人が部屋から出て来たんだけど、腕治ってたんだ」
「神の力? それとも魔法とかですか?」
魔弾の質問にすぐさま仁は答えた。
「部屋から出て来た時、その人は『神と祈りを捧げてくれた皆に感謝を』って言ってた。でもやっぱり、祈りでなんとかなるとかあり得ないだろって思って一年くらい祈りの間で住み込みの手伝いをさせてもらった。その間何度も神の力を見て、この世界には神様いるんだって確信したよ」
「待ってください、一年住み込みってことは一年以上ここにいるってことですか?」
「五年くらいかな? こっちは一年365日じゃなくて大体200日なんだよね。一年の初めに種まきして100日くらいで芽が出て、それから大体100日で収穫。これで一年。収穫の終わった次の日、種まきして一年の始まりって感じなんだ」
「知らない土地で、かつたったの五年で自分の店まで構えるってすごくないですか?!」
「そうかな」仁は嬉しそうに答えた。
「今おいくつなんですか?」
「僕は多分向こうでは36か37歳じゃないかな? 日にち数えてたわけじゃないから正確じゃないけど。こっちに来たのは33歳の大晦日だったし」
「自分も33歳なんですけど、これって偶然なんですかね?」
夜も更けて、いつのまにか賑わっていた広場も人が少なくなっていた。




