血痕
仁は魔弾が柵の外へ飛び出して行く姿を見ると、すぐに見張り小屋に入って武器をかき集めた。
職人が持っていた適当な大きさの袋を借りて集めた武器を袋に詰めると、燃える石で松明に火をつけ、自分の持ってきた荷物と武器の入った袋を担いで急いで柵の外へ二人の後を追った。
一方、魔弾はザロを追って懸命に走っていた。
ザロの走る速度は早く、見失わないように必死で走るしかなかった。
あぜ道には血痕が続いており、ザロはそれを確認しながら走っていた。
魔弾が酸欠状態で限界を迎えようとした時、前方のザロが足を止めた。
左右の雑木林を確認しながら、血痕を探しているようだ。
やっとの思いでザロに追いついた魔弾は、血痕を探している振りをしながら呼吸を精一杯整えた。
しかし、すぐにザロが葉についた血痕を発見し地獄のダッシュが再開された。
雑木林の中を小走りで走っていると、焚き火の跡とひっくり返った鍋を発見した。
ザロはナイフを構えながら歩き出した。
ーーまずい…俺手ぶらじゃん…
魔弾は足元に落ちている太めの枝を拾い、先端をへし折って簡易武器を作った。
二人が周囲を注意深く見回しながら歩いていると、突然遠くで木が折れるような大きな音がした。
音の方向へザロが走り出し、魔弾もそれに続いた。
ーーマジか…流石にデカすぎだろ…
目の前で暴れ狂う熊の化け物は、柵の内側から駆除した熊が子熊に見えるほどの大きさだった。
化け物の左目と口元にはナイフが突き刺さったままで、視界が悪いのか手当たり次第爪で辺りをなぎ倒しているように見えた。
「馬鹿野郎、なんで来たんだ…。」
二人の背後から、初老の男が腹を抑えながら現れた。
「親父…早く逃げろ。」
「俺は走れねぇ、だからお前達が逃げろ。」
初老の男は左太腿の挫創を見せて言った。
ーーいやあああああ!!エグレテルー!!!!!!
「ダン、親父を連れて逃げてくれよ。」
ーー何言ってるの?ザロじゃ無理でしょ?
ーー死にたいの?!ゴウさんいて無理だったんだよ?!
ーー待て待て、未成年だぞ?正気か?お前本当に逃げるのか?見殺しか?
ーーそもそもお前が爺さん担いで逃げ切れるのか?
魔弾の頭の中で様々な意見交換が瞬時に行われ、精一杯の笑顔でザロの肩を叩いた。
「早く行けよ!」
「何言ってんだよ!」
「俺じゃ親父さん担いでたら逃げ切れないかもしれない、だから早く行けって!」
ザロは一瞬目を瞑って歯を食いしばると、手に持っていたナイフを魔弾に渡した。
「これ使えよ。でも終わったら返せよ、絶対に。」
「ありがたく使わせてもらうわ、ほら!早く行けって!」
ナイフを受け取った魔弾は、情けない表情を二人に見せまいとすぐに背を向けた。
ーーどうせここで死ぬなら…せめてもう片方の目も潰してやる…
ーーどうやる?流石にこのナイフじゃ届かないぞ?もっと考えろ!
怒り狂った化け物は前方の木をなぎ倒しながら、近づいてくる。
魔弾は恐怖を振り切る事が出来ず、二人の逃げた方向から逸れるようにゆっくり後ずさりながら距離を取った。
しかし化け物は魔弾に見向きもせず、逃げた二人の方向へ進もうとしていた。
ーーあの爺さん完全にタゲられてんじゃん!!
魔弾は受け取ったナイフを腰紐にしまい、自作の枝の槍を構えた。
化け物が立ち上がり爪でなぎ倒そうとした瞬間、勢いをつけて脇の下へ槍を突き刺した。
槍は深くは刺さらず、化け物の振り回した腕に当たって抜けてしまった。
ーーダメージ極小、ヘイト最大…最悪じゃん…
化け物は魔弾の方を向くと、大きな咆哮をあげた。
魔弾はナイフを構えながらゆっくりと後ずさり、化け物の動きをじっくり確認した。
ーー立ち上がったらヤバイ、爪の間合いに入ったら即死だな。でもこのナイフじゃ…
再び化け物は立ち上がり木をなぎ倒し始めた。
間合いに入らないよう距離を取って様子を見ていると、化け物の後方に仁が現れ火炎瓶を投げた。
化け物の背中に命中した火炎瓶は、外皮の毛に勢い良く燃え移り焼け焦げたひどい臭いが辺りに広がった。
「ダン!」
仁が叫びながら魔弾に金属の槍を投げた。
ーーあああああ!!!我が愛しのロンギヌスゥ!!!
仁の声に反応した化け物が魔弾に背を向けると、魔弾は勢いよく走って焼け焦げた背中に金属を深く突き刺した。
それと同時に仁も火炎瓶を化け物の正面に投げつけた。
パニックになった化け物は所構わず爪でなぎ払い、再度立ち上がり仁を威嚇し始めた。
その隙を見て、魔弾は金属を化け物の背中から抜き取りすぐに距離をとった。
背中からの出血が確認でき、魔弾に少し余裕が生まれた瞬間だった。




