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憧れとは違う火炎

魔弾と仁はその場で少し固まってしまった。

ーー狼か?額のアレがあるって事は確実に化け物だよな?

熊の化け物と違い、狼達は体当たりしてはすぐ柵から離れ、それを繰り返していた。

体重が軽いせいか体当たりをしても、衝撃で後ろに弾かれているようにも見えたが、確実に柵の土台にあたる石への負担は大きく、いつ弾みで石が割れるかと魔弾と仁は不安を抱いた。

「ちょっとヤバかったりする?」

不安な表情で仁が魔弾に問いかけた。

「俺的には柵崩壊の危機に見えたりする…」

魔弾の緊迫した表情が、仁の不安を更に煽った。

「俺達も手伝おう!」

そう言って、仁は走って見張り小屋へ入って行った。

ーー昨日の化け物は動きが遅かったから、俺達も手伝えたけどあれはどう対処するんだ?

魔弾は正直あまり乗り気では無かった。

先程のサキとのやり取りが胸の支えとして残っていたのだ。

「ダン、これ使って。たっぷり塗ったから!」

そう言って昨日と同じく毒を塗った金属の長い棒を渡してきた。

棒を受け取った魔弾は、柵の前で戦っているサキとザロの様子を見ていた。

やはり二人とも使っている武器はナイフで、化け物が柵にぶつかる瞬間に切りつけるといった攻撃を繰り返していた。

少しもどかしく思った魔弾は、タイミングを見計らって柵の隙間から金属の棒を突き出した。

完璧と思われたタイミングだったが、化け物は危険を察知したのか、体当たりの瞬間に柵を蹴って距離をとった。

「今の見た?もしかして、化け物って知能高かったりするの?」

後ろで毒を塗っていた仁が、驚いている。

「アイツらは賢いんだよ。ああやって俺達を揶揄って外へ誘き出そうとしてんだ。」

ザロが険しい表情で呟いた。

ーーどうすればいい?流石に土台の石はそんな長い時間耐えられないぞ?

仁は毒を塗ったナイフをサキとザロに渡し、見張り小屋に急いで戻って行った。

魔弾はその間も、化け物に金属を刺そうと隙間から突き出して、体当たり自体を防ごうとしていた。

「ザロ、毒はどのくらいで効いてくる?」

魔弾の問いにザロは沈黙していた。

柵越しに切りつけてはいるが、昨日と違い動きが鈍る気配もなかった。

魔弾はとにかく土台の石が心配だった。

ーー毒さえ効いてくれば動きも鈍るはず…そしたら昨日と同じようにイケる!

ーーアレ?ちょっと待って…そもそもアイツらなんでナイフは避けないんだ?斬撃は避ける必要ないって事なのか??毒効かない感じ??

状況が掴めないまま、魔弾は急いで見張り小屋の中へ入って行った。

中では仁が武器になりそうなものを、色々とかき集めていた。

魔弾は何か土台を強化できそうなものは無いかと、小屋中を見て回った。

「ジン、ライター持ってたりする?」

「ライター?!は流石に持ってないかな…」

ーーですよねー…。

「なんかいい作戦思いついた感じ?」

先程まで不安そうな表情をしていた仁が、目を輝かせながら魔弾を見た。

「獣って炎を恐れるよね?だからこの酒使って燃やしてやろうかと!」

魔弾は酒の入った袋を片手に笑顔で答えた。

「それでライターね!火炎瓶みたいに使うってことか!」

「そ!なんか斬撃あんまり効いてないっぽいから、毒効くの待ってたら土台崩壊しそうだし。最悪でも炎なら撃退できそうじゃん?」

「ダン走るの早い?バロのところで松明もらってくるのはどう?」

仁の言葉に、魔弾は任せろと言わんばかりに背伸びをして走る体勢に入った。

「バロのとこか、往復で7分くらいかな…速攻行って戻ってくるから、でもヤバそうだったら先に逃げてて!」

そう言って魔弾は走り出した。

農場に向かう魔弾は、本人も驚くほどのスピードで走っていた。

ーーこんな本気で走ったのは、部活以来?大学のサークルは適当だったしなー…筋トレとかサボらなくて良かったわ〜

農場へ着くと、魔弾はすぐに蔵へ行きバルを探した。

魔弾は帳簿をつけているバルを見つけると、事情を話して松明を受け取り、すぐに見張り小屋まで全力で走り出した。

体力に自信のあった魔弾も復路はややペースが落ちていたが、それでも30代の男性が走る平均以上のスピードを保ち、見張り小屋が視界に入る頃には、うまく呼吸ができない程疲弊していた。

「ダン、水飲んで!」

仁は松明を受け取り、座り込む魔弾に水を渡した。

呼吸が乱れる魔弾に、仁は心配そうに声をかける。

「お疲れ、大丈夫?」

「余裕では無いかな…」

魔弾は呼吸を整えながら答えた。

「瓶、大きいのと小さめの二種類用意したから。後は火つけて投げるだけ!」

「あ…ありがと!もうちょっと待って!心臓破裂しそう…」

全力疾走が余程堪えたのか、魔弾の呼吸はなかなか整いそうに無かった。

魔弾はしばらく目を瞑り、深呼吸を繰り返した。

「よしっ!じゃあ行きますか!」

魔弾は立ち上がり、柵へと歩いて行った。

仁も松明を持って、魔弾に続く。

魔弾と仁は余程の勝算があったのか、表情は自信に満ち溢れていた。

「サキ、ザロ危ないから柵から離れて!」

仁が大声で二人に呼びかけると、魔弾は大きめの火炎瓶を手に持ちタイミングを見計らっていた。

魔弾と仁は化け物が柵に近づく瞬間を待った。

一匹の化け物が駆け出した瞬間、魔弾の持つ火炎瓶に仁が火をつけ、柵にぶつかるタイミングに合わせ魔弾は火炎瓶を投げた。

火炎瓶が柵へぶつかり割れた瞬間、酒を浴びた化け物は炎に包まれた。

追い打ちをかけるように、今度は小さめの火炎瓶に火をつけて投げた。

瓶は柵の隙間を抜け、先程の個体とは違う化け物にぶつかり割れた。

酒を浴びて火だるまになる二匹を見ていた別の二匹は、森の奥へと逃げていった。

体毛が焼けて火傷を負った皮膚が剥き出しになった化け物は、悲痛な声をあげて地面でもがいていた。

サキとザロはその好機を見逃すことなく、柵を開けすぐに二匹にとどめをさした。

「最後のコントロール凄かったわ…」

「マジで凄かった…ちょっと感動して涙出そうになった…」

自画自賛する魔弾に、仁は羨望の眼差しを送っていた。

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