2人でおつかい
魔弾がこの世界に来て一月が経ち、レテでの生活に慣れ仕事も順調にこなしていた。
最初こそ辛かったが今では体も慣れ、港の仕事がない日は仁の店の手伝いをしたり港の倉庫でキオを手伝ったりして、少しでも多く稼ごうとしていた。
なぜなら、魔弾はヤギレースにのめり込んでいたからである。
きっかけは港の仕事仲間に誘われて、何となく付いていったヤギレースでのビギナーズラックでおいしい思いをしてしまった事だった。
元々レテでの娯楽が少ないせいか、ヤギレースは住民達にも人気があり4日おきに開催され、魔弾はその度に必ず見に行く程であった。
最初は1レースあたり、賭け額の上限である銀10個を賭けていたが、所持金が減ると次第に賭け額も少なくなっていった。
所持金が尽きることを恐れた魔弾は、仕事を増やしレースでの賭け額を減らして貯金と娯楽を同時進行にした。
「ジン、お昼行かない?」
農場の仕事を終えた魔弾がトリカブトに来るのは毎日のことで、仁も昼近くになると魔弾が来る前に出かける支度をする程だった。
「行く行く!もう腹ペコ!」
この一月で魔弾と仁の仲は、互いに親友と認める程になっていた。
最初は丁寧な物言いだった仁も、今ではすっかり馬鹿を言い合うまでに心を許していた。
「ダンは今日もキオの手伝い行くの?」
スープを飲みながら仁は魔弾に訊ねた。
「ちょっと今日はカラと約束あるんだよね。」
魔弾は少し照れながら答えた。
「なになに?デート?」
仁は冷やかすように魔弾に詰め寄った。
「違う違う、なんか食べ物運ぶの手伝って欲しいって。ゴウのとこに届けて欲しいって言われたんだよねー。荷車で…」
「荷車?量が多いなら手伝おうか?」
「街の外だよ?農場の先にある水車小屋まで運ぶんだけど、まぁそこそこ距離あるから手伝ってくれるなら嬉しいかも!」
「全然OK!材料届くまで俺の仕事進まないし、街の外行った事無いから興味ある!」
未だに街の外を知らない仁から放たれる、好奇心に満ちた眼差しはとても眩しかった。
「じゃあ終わったら、お酒奢っちゃう!」
そう言って魔弾は席を立ち、カラの準備する荷車を受け取りに行くことにした。
「何か必要なものある?俺なんか買ってこようか?」
仁は、遠足が待ちきれない子供のように落ち着きが無かった。
「飲み水あれば大丈夫だと思うよ?そんなに時間かからないと思うし!」
倉庫に着くと荷車には沢山の干し肉やパン、きのこなどが積まれていた。
魔弾と仁に気付いたカラは申し訳なさそうに言った。
「この水を積んだら終わるから、もう少し待ってて。」
重そうに革袋を持ち上げるのを見て、魔弾はすぐにカラに駆け寄って革袋を受け取った。
水が入っているだけあって、革袋の重さは魔弾でさえ重いと感じる程だった。
そしてそのやり取りは、男の仁でさえ惚れぼれしてしまう程紳士的で、当のカラは魔弾を直視出来ずに俯いていた。
水を積み終わり倉庫を出発すると、まだ昼過ぎなのもあり広場は多くの人が滞留していた。
人にぶつからないようにゆっくりと荷車を走らせ、ようやく門に着く頃には仁の息は切れていた。
「運動不足やばいかも…てかダンの体力すご過ぎ!」
門を出たところで、一旦休憩をとり2人は適当な岩に腰を下ろした。
「聞いていい?ダンてカラと付き合ってるの?」
仁からの突然過ぎる質問に、魔弾は驚いた。
「全然そんなんじゃ無いけど、なんで??」
「そうなの?!なんか良い感じのムードだったし、もしかして?って思ったんだけど違うのかー…」
仁には紳士的に見えた行動だが、魔弾にとっては特別意識してとった行動では無かったようだ。
ーージンがそう感じるって事は、やっぱカラって俺に気がある?!えっ…どうしよう…普通に嬉しいけど…
15分ほど休憩をとり、2人はゆっくり荷車を引いて歩き出した。
農場から歩くこと10分、金属でできた3メートル程の柵が見えてきた。
柵の手前には見張り小屋があり、荷物はその小屋に運び入れるよう言われていた。
「すごいねこの柵、どこまで続いてるの?」
仁は柵に近づき左右を見渡した。
「この柵は畑一帯を囲ってて、駆除人が管理してるってバルから聞いてる。だから安心して畑作業できるんだって。」
魔弾は説明しながら、荷物を小屋へ運び入れた。
「柵の外って出たら駄目なのかな?」
荷物を運びながら、仁が呟いた。
「水車小屋までは多分大丈夫!この間ゴウを呼びに行った時は大丈夫だった!行ってみる?」
魔弾が聞くと同時に仁は答えた。
「もちろん!」
全ての荷物を小屋へ運び、仕事を終えた2人は荷車を小屋の脇へ移動させて柵の先へ進んだ。
水車小屋は柵の内側からも見える程近くにあり、もし何か起きたとしても全力で柵まで走れば見張り小屋に逃げ込めるため、魔弾は大丈夫だろうと軽く考えていた。
水車小屋へ着くと、そこにゴウの姿は無くしばらく待ってはみたものの戻っては来なかった。
あまり長い時間柵の外にいるのは流石に危険だと思った魔弾は、仁を連れてすぐに見張り小屋に戻り小屋でゴウの戻りを待つことにした。
1時間程小屋で待っていると、サキが現れた。
「運んでくれたんだ、ありがとう。」
相変わらず素っ気ない態度だが、いつも人々の安全に全力を注ぐ駆除人への感謝は大きく、尊敬と憧れが上回っていた。
サキは魔弾へ報酬を渡すと、少量の食料を袋へ詰めて出発しようとしていた。
「ゴウは一緒じゃないの?」
仁がサキに尋ねると、サキは少し表情を歪めて答えた。
「昨日上流で化け物が出たから今3人で順番で見回りしてる、柵の外には出ないで。」
ーーこの柵本当に安全?!普通の金属っぽいけど本当に平気??明日農場ちょっと嫌なんだけど??
一度化け物を目にした魔弾には緊張が走ったが、実際に見た事のない仁にとっては恐怖よりも好奇心が優っているようだった。




