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自炊を始めたら美人課長が居座り始めました。

作者: しいたけ

 節約の為に自炊を始めたのが一ヶ月前。

 レシピを調べ、器具を揃え、食材も安く買った。

 初めこそは失敗ばかりだったが、やがて慣れてくれば簡単な物くらいはすぐに作れるようになった。




「それ永本君が作ったの?」

「え、ええ……なんで俺が作ったってわかったんですか?」

「おかずが全部茶色いから」

「……なるほど」


 たまたま通り掛かった営業三課の水上志穂係長は、俺が自炊出来ると知り、何故か目を光らせながら頷いた。


「確かに最近は何でも高いし、男子も料理をする時代だからね。うんうん。偉いぞ〜」

「あ、ありがとうございます……」

「じゃあ、今日の夜は君の家に行くから宜しく」

「──は?」


 俺は耳を疑った。


「永本く〜ん♪ あっそびに来たぞ〜」

「あ、どうぞどうぞ……」


 水上係長はフレンドリーで誰とでも仲良くなるタイプだが、なぜいきなり俺の家に来るなんて言い出したのかは分からなかった。


「そう固くならずに。はい、これお土産」

「すみません、ありがとうございます」


 買ってきたばかりと思われるビニール袋の中には、缶ビールが5本。


「荷物ココに置いていい?」

「あ、はい」


 置かれたリュックからは一升瓶が。


「いやあ、最近は外食産業も値上げ値上げでこちとら呑み代も馬鹿に出来なくてねぇ」

「ま、まさか……俺の家に来たのは……」

「そ、ココで呑みま〜す♪」


 な、何をしに来たのかと思えば、俺の家を居酒屋か何かと勘違いしているんじゃ……!?

 いや、勘違いしているから来たんだろうけど。


「だめ?」


 ブラウスのボタンを一つ外し、両腕でムニッと押され強調された谷間(女体の神秘)

 目を潤ませ懇願するその姿は、捨てられたチワワが道行く人に助けを求めるかの如し!


「オッケーでーす!」

「やたっ♪」


 ルンッとガッツポーズ。そして俺に渡したビニール袋からビールを一本。


 ──カシュッ!


 それ、お土産じゃないんかーい!!


「カーッ! 最高!!」


 水上係長は口元を袖口で拭き、幸せそうに頬を緩ませた。


「……さて、自炊の腕は上がったのかね?」

「え? ええ……まあ、まあ」

「一つ、腕を振るってもらえんかにゃ〜?」


 眼鏡を頭の上へとずらし、両手で猫のポーズ。

 この人、完全に俺の家を居酒屋にするつもりだ……!!


「少々お待ち下さいませ」

「にゃ〜♪」


 仕方なく冷蔵庫を開ける。

 とりあえず豆腐を手にした。


「お通しになります」


 豆腐を切って醤油をかけただけ。シンプルイズベスト。


「あー、いい! これでいいの! これがいいのよ! 君、分かってるね〜」

「ありがとうございます」


 嬉しそうに豆腐とビールを交互に口にする水上係長。その間に肉を出してフライパンに油をひく。


「良い音がするねぇ」


 ──カシュッ!


 二本目。結構ペースが速い。


「あ、安心して? 私二杯目では『カーッ!』って言わないタイプだから」

「そ、そうですか……」


 何を安心しろって言うのだそれで。


「お待たせしました、青椒肉絲です」

「おっ!」


 クッ◯ドゥに肉と追いピーマンで出来上がり。今の時代はとても便利になったもんだ。


「うんうんうんうん──最高!」

「ありがとうございます」

「で、最近加奈とはどうなの?」

「…………」


 突然の話題転換。それまで和気あいあいとした軽い空気が、一瞬で重たくなってしまった。


「課長はいつも通りですね」

「ハハハ」


 俺が所属する営業二課の間島加奈課長はやり手のスーパー営業マシンだ。俺なんか足元にも毛ほども及ばず、いつもお小言ばかり頂戴してしまっているくらいで迷惑ばかりかけてしまっている。


「加奈はね、ずっと君の事を気にかけていたよ。あ、これはナイショね♪」

「え?」


 俺にメチャクチャ厳しい間島課長が……?


「君は同期入社が無かっただろ? いつも一人で、しかも怖い上司に怒られてばかり。本当は優しくしたいんだけど、ウチの営業グループはとにかく数字第一。しかもそのリーダー格の課長たる人物だ。自分にも他人にも人一倍厳しいしないと仕事にならない。だから……」


 と、水上係長が視線を外した。


「そろそろかな」


 ──ピンポーン。


「入っておいで〜」


 いやいや、俺の家なんだけど。


「お、おじゃまいたしますー……」


 たどたどしい挨拶と挙動。ゆっくりと開けられたドアの向こうには私服の間島課長が立っていた。


「え?」

「ハハハ、驚いてる驚いてる」


 ちょっと訳がわからない。


「まあまあ、座って座って」

「ごめんね永本君。なんか突然押しかけちゃって」

「どういう事ですか?」

「まーまー、折角こうして美人が二人揃ったんだ。もてなせや♪」

「!?!?」


 それからというもの、俺はキッチンとテーブルを激しく往復する羽目になった。


「永本、ビールにゃ〜!」

「永本君、私も!」


 初めこそ大人しかった間島課長も、酒が入り時間が経つとすっかり二人で盛り上がり始めた。


「カーッ!」

「あーっ! 二杯目で『カーッ!』って言っちゃいけないんだ〜! せーんせーに言ってやろ〜! あーららーこーらーらー」

「うるさい! 課長権限で今日からアリ!」

「ぶ〜ぶ〜! 職権乱用〜!」


 もう既にお土産と呼ばれた五本は消え、冷蔵庫に入っていた俺の缶ビールが二人の元へと運ばれている。


「永本! 君の上司は酷い奴だな〜」

「永本君! 私はそんなに厳しいのか!?」

「そんなことは無いです!」


 即答。社会人としての反射スキルが出てしまった。

 皿を引き上げ、すぐにキッチンへ逃げよう。


「正直に言わないと〜……こうだ!」


 突然腕を引かれ、水上係長に引き寄せられた。

 両手が皿で塞がっており、勢いのまま水上係長の胸の中へダイブしていまう。


「──もはっ!?」

「ハハハ、反応が若いなぁ〜」

「志穂っ! 止めなさい!」


 間島課長が勢いよく割って入ってくれた。

 危うく幸せな死を迎えるところだった。


「何を慌てているのかね? ははぁん、さ て は〜?」

「取られると思ったかにゃ〜?」

「──!?!?!?!?」


 酒に強いはずの間島課長の頬があっと言う間に紅に染まった。


「おやおや〜? その反応は……おやおやおや〜?

にゃはははは〜〜♪」


 ガハガハ笑いながらガブガブ酒を飲む水上係長。器用な人だな。


「そうと決まれば、ここを我々の居酒屋とする!」

「……お会計、5600円になります」

「にゃにぃ〜〜〜〜!! 貴様、我々からマネーを徴収するというのか!? それでも誉れ高き日本軍人か〜!?」

「違います」


 水上係長とグダグダしていると、いつの間にか間島課長はうつらうつらと眠りに入っていた。


「おっと、流石に入り浸り過ぎたか。悪いな永本二等兵。そろそろ撤収作業に入ってくれ」


 片付けろって意味ですね。分かります。


「ほら、帰るぞい」

「ぬ、ぬぁ……」


 寝ぼける間島課長に肩を貸し、水上係長が玄関へと向かう。


「それじゃあ、永本二等兵よ。また来るぞい♪」


 また来るんかい!!


「嫌か? 嫌そうな顔はしてなさそうだけど?」

「……お願い致します」

「カカカカカッ! ガッテン承知の助太郎!」


 こうして、俺の部屋は二人の居酒屋となってしまった。



「永本ォ! つくね、ハツ、軟骨おかわり!!」

「はい!」

「永本君、レモンサワーとたこわさ、お願い致しまふ

「かしこまりましたぁ!」


 二人が訪れる様になり、俺の料理スキルはあっと言う間に上達した。まあ、酒関係だけど。


「永本海軍二等兵ェ! 臨時の営業会議を開くぞォ! 間島海軍大将が営業のなんたるかを語って下さるそうだァ! ビールのおかわりを持って座れィ!」

「はいっ!」


 二人から仕事のアドバイスを頂き、成績も少しずつだが上がっていった。


「永本海軍二等兵! 終電を逃したゾイ! 泊めるのだ!」

「あ、はい……」


 そしてなにより──


「志穂は?」

「……う、う〜ん……巨大な三葉虫が会議室に……むにゃむにゃ」

「この通りです」

「……隣、座ってもいい?」

「は、はい……!」

「永本君……」

「か、加奈さん……」


 彼女と呼べる大切な人が出来ました。

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― 新着の感想 ―
両手に花ですな。 ちなみに三葉虫のでっかいのは、60センチから70センチくらいあったみたいですよ。
そうきたか( ˘ω˘ )
パワハラ具合が昭和感溢れているのに女上司という令和感!
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