第9話 出航
エロゲとBFやってたらこんなに時間があいてしまった。おのれ…
県庁解放作戦から2日後の夕暮れ、名古屋港に停泊するワン・オブ・ザ・ワールドのブリッジは静かな熱気に満ちていた。ユウは艦長席の前に立ち、眼下に広がる港の光景を眺める。夕陽が海面を赤く染め、遠くで市民のざわめきが響く。この2日間、アルスヴィズは捕虜の引き渡しや日本政府との交渉を終え、最低限の事後処理を完了していた。連絡要員を残し、本隊は本拠地へ帰還する準備が整った。
「全艦準備完了です」
艦長の報告に、ユウは短く頷く。
「了解した」
ユウは艦内放送のマイクを手に取り、落ち着いた声で話し始める。
「各員に通達、本艦はまもなく出航する。先の大規模な作戦行動に続き、突発的な依頼で苦労をかけたが、ようやく我らがホームへと帰還する。帰還後は存分に英気を養ってくれ」
艦内モニターには、ユウの労いの言葉に歓喜の声を上げる隊員たちの姿が映し出される。ブリッジのクルーも笑顔を交わし、喜びが広がる。ユウは満足気に頷き、咳払いをして声を張る。
「アルスヴィズ海上機動部隊旗艦、複合型戦力広域立体投射艦ワン・オブ・ザ・ワールド。出航!」
ユウの号令の下、水面下でスクリューが回転を始めワン・オブ・ザ・ワールドの巨体がゆっくりと動き出す。3隻の護衛艦もそれに倣って動き出す。
夕陽に照らされた巨船が長三音を鳴らし、港からの市民の歓声や日本国防軍の敬礼を受けながら、船は徐々に陸地から離れ、水平線へと向かう。
ユウはブリッジの窓からその光景を見下ろし、艦長に向き直る。
「沖に出次第、第一航行序列に移行。進路をフィリピンへ。艦長、あとは任せる」
「はっ、ごゆっくり」
艦長の敬礼を受け、ユウはブリッジを後にする。出航前にいのりと鳴海に声をかけ、出航後の集合を指示していた。広大な船内を迷わず進み、「第一ブリーフィングルーム」と銘打たれた扉を開ける。室内には、既にいのりと鳴海が待っていた。
「お、早いな。感心感心」
ユウが声をかけると、部屋の中央のテーブルで資料を纏めていたいのりがいち早く反応し、続いてそれを眺めていた鳴海が軽い会釈をする。
「聞いたところによると2時間くらいで戻ってきたらしいな?」
ユウが椅子に腰を下ろし、軽い笑みを浮かべて鳴海を見る。鳴海は一瞬視線を落とし、苦笑する。
「はい、特に持っていきたい物とかは無かったので」
鳴海の声には、過去との決別と新たな一歩への決意が混じる。2日前、アパートで荷物をまとめた時、家族の写真を手に取った。失った両親の笑顔が脳裏に蘇り、胸が締め付けられた。それでも、アルスヴィズの船に自分の未来があると感じ、2時間で港へ引き返したのだ。
「さっぱりしてんなぁ、まぁ未練がないのはいいことだ」
ユウが腕を組み、不敵な笑みを深める。
「さて、鳴海。俺たちの本拠地までは約1週間ってとこだ。だが、この船はもうクルーズ船じゃない。仕事をしない奴を乗せてるわけにはいかない」
「でも、船の仕事なんてしたことないですよ」
鳴海が心配そうに言う。ユウが軽く手を振って続ける。
「もちろん分かってる。お前のすべき仕事というのはお勉強だ」
ユウが指した資料を、いのりが無言で鳴海に差し出す。戦術、通信、最新の世界情勢、勢力図、そして艦内ルール。どれも基礎的な内容だが、読み込むには十分な量だ。
「ひとまず今日は休め。揺れにも慣れないといけないし、明日はいのりにこの船を案内させるからとりあえず目を通しておけ」
資料を受け取る鳴海の横で、いのりは毛先を弄りながら考え事をしている。
「いのり?」
ユウの呼びかけに、いのりは口を開く。
「ユウ、本当に私が全部決めていいの?」
唐突な言葉に、鳴海は首を傾げるが、ユウはすぐに理解したように頷く。
「あぁ、素人を入れるのは初めてだからな。マニュアルもクソもない、好きにやれ」
アルスヴィズには鳴海の様な元一般人はいない。裏方の事務員や船のクルーの様な非戦闘員はいるが、実働部隊は元軍人や傭兵出身者で構成されている。それ故に、完全な素人をゼロから兵士に教育するノウハウはなかった。つまり、いのりによる鳴海の教育が今後のアルスヴィズの新兵教育のモデルケースになる。いのりは既に定められ確立されている技術を会得するのは得意だが、新しく方法を生み出すという経験はないため、そこに不安を抱いている。
「つーわけで、やり方は一任する。困ったり、判断に悩んだらすぐ言ってくれ」
ユウの言葉には、いのりの成長を期待する響きが混じる。人手不足のアルスヴィズにとって、新兵育成は急務だ。同時に、いのりにとっても良い機会になる。いのりは小さく頷き、資料を手に考える。
「じゃあ、この後は飯でも一緒に食って親睦を深めてくるといい」
「ユウは?」
ユウが壁の掛け時計に目を向けながら提案すると、いのりが即座に聞き返した。
「俺には楽しい楽しい事務作業が待ってるんだ…」
「手伝う?」
遠い目をするユウに、いのりが助力を申し出るもユウは首を横に振る。
「いや、いい。そら、行った行った」
ユウがいのりの背を押して部屋から出しつつ、目線で鳴海にも促す。
「鳴海」
部屋を出ようとした鳴海に声がかけられる。
鳴海が振り返ると、先ほどまでの雰囲気とは変わって真剣なオーラでユウが見つめてきていた。
「以前も言ったが、あの子は多少人見知りの気がある。けどある程度親しくなれば、気の利くとても良い子だ」
鳴海は思わず身構えていたが、ユウの口から発せられたのは柔らかな声色だった。そして、通路の先で待っているいのりを優しげな眼差しで見つめる。
「外部からの人間は少ないからな、どうか仲良くしてやってくれ」
ユウと別れて近くの食堂に向かうまでの間、鳴海といのりの間には沈黙が流れた。
鳴海はちらりと横を見やる。鳴海が思うにこの少女は出会って間もない相手に、自分から積極的に話しかける様なタイプではないようだし、ここは自分が距離を縮める努力をしよう。ユウに言われたというのもあるが、これから指導してくれる相手だ。距離を縮める努力は自分からすべきだろう。鳴海は意を決し、口を開く。
「さっきの資料だけど、この2日の間に用意してくれてたの?結構量もあったし大変だったんじゃない?」
「ほとんど既存の物をまとめただけだし、別に」
「そ、そうなんだ」
鳴海の試みた会話は秒で終わってしまった。
別に嫌われているわけではないと思うし、単純にこういう性格の子なのだろうとも何となく分かってきたが、こうも淡白だと会話一つでも難易度が高い。
「えーと……やっぱりいきなり素人を鍛えろって言われて迷惑だったりする?もしそうなら申し訳ないな…」
「突然だったから少し驚いた。でも命令なら従う。これも仕事だし」
それでも、めげずに会話を続けるようとするが、相変わらずの淡々とした返答が返ってくるだけで長続きしない。いのりとの関係の構築が最初の課題かもしれない。鳴海がそう考えている間に食堂に到着した。
カウンターで注文して料理を受け取ってから、適当な席に座ると少し遅れていのりが対面に座った。鳴海の前には馴染みのあるカレーライスだが、いのりは日本でよく見る白米と味噌汁のついた定食だった。
「この船にも和食はあるんだね」
「いろんな人種のニーズに応えれるように、その辺は力を入れてる。あと、ユウが結構グルメだから」
「なるほど…」
スプーンを手に取りつつ鳴海は納得する。多様な人種で構成される組織だからこそ、食に関しても注力しているのだろう。
「料理人も現地出身者を積極的に雇用してるから、クオリティも高い。ところで鳴海…」
「ん?」
鳴海がカレーを口に運んだ瞬間、いのりは意味ありげに言葉を切る。
「そのカレー、すごく辛いよ」
「ぐふっ!???」
いのりの忠告は一歩遅れ、猛烈な辛さが鳴海の舌を襲う。思わずむせ、目を潤ませる。いのりがピッチャーから水を注ぎ、グラスを差し出す。鳴海は震える手で受け取り、一気に飲み干すが、焼けるような刺激は収まらない。
「それ作ってるのはインドの人だから、それが本場の辛さってことなのかな。あれ、でもカレーライスって日本発祥…?」
そんな事を言いながら、苦しむ鳴海をよそにいのりは食事を始める。
「た、確かにっ…味自体はおいしい、けど…!これは……いくらなんでもっ……!」
信じ難い辛さの裏に確かに奥深い旨味はあるが、そんな事はどうでもいいと思えるくらい、劇的な辛さに意識が支配される。一体何を入れたらこうなるのか。
だが、不思議な事に続く二口目は一口目よりも辛さを感じなかった。元々特段辛いものが得意というわけではないし、一口目で味覚が破壊されただけかもしれないが、鳴海は思いの外順調に食事を続けられた。
辛さで意識が散漫になる中、刺激から流れる為にも話題を考えていた鳴海は自分がこれから行う訓練について尋ねた。
「ところで、訓練ってどういう予定になってるの?」
鳴海の質問に、いのりは口をつけようとしていたコップを置き、数秒虚空を見つめて首を傾げる。
「……さあ?」
「え」
あっけからんとした口調で言ういのりに、鳴海は思わず声が漏れたがいのりは気にせず続ける。
「まだ何も決めてない。艦内でできる事は限られてるし…ホームに帰ってからが本番かな」
ホーム——つまり本拠地なら、本格的な設備で訓練できる。逆に言えば、航行中の1週間は限られたことしかできない。
「ユウも言ってた通り、この船であなたができるのは勉強だよ」
いのりはそう言い終わると、席を立つ。鳴海が香辛料の海と格闘している間にいつの間にか食事を終えていた。
「じゃあまた明日。8時にそこの中央ロビー集合で」
それだけ告げるといのりは食器を返却し、立ち去る。取り残された鳴海は、辛さの刺客に会話が潰されたと後悔しつつ、半分残ったカレーに再挑戦することにした。
翌朝。
いのりの資料の中にあった艦内マップを頼りに、待ち合わせ場所の中央ロビーへと向かった。
指示された8時には15分ほどはやく着いたが、いのりは既に待っていた。
「おはよう、早いね」
「おはよう。揺れには慣れた?」
「いや、まだかな…」
挨拶を交わしつつ、停泊している船と航行している船ではこうも違いがあるのかと鳴海は驚いていた。出航した時から揺れは感じていたが、昨晩眠りにつくのにも時間がかかった。
「そう。でも波も穏やかだし、そのうち慣れる」
さすがに慣れているのかいのりは揺れの影響はないようで、平然としている。
「今日は船の案内、時間が余れば座学でもやろうかな。とりあえずまずはこの船の概要から」
いのりがホールの中央に置かれた船の模型を指し、それを背にして説明を始める。
「複合型戦力広域立体投射艦ワン・オブ・ザ・ワールド。高い輸送力と対艦、対空、対潜能力を持ち、戦地において迅速な戦力の展開とその支援を行う事を目的としている。より詳しいスペックは昨日渡した資料にあるから、それを読んで」
鳴海は模型を見上げる。既にこの船の大きさは何度も実感していだが、模型に落とし込んでもなお巨大な船体だ。
「現在はフィリピンのルソン島、サンバレス州南部のアルスヴィズ本部へ向かってる」
「どんなところなの?」
「港湾施設と滑走路を備えた大規模な施設。昔は米軍基地があって一度返却された後、2023年に再度使用権を得た。でも2030年以降はまた放棄されてた、らしい。それをユウが買い取って数年かけて改築したとか」
「2030年ってことは……アメリカ内戦の影響?」
2030年に起きた世界的な出来事といえば、第二次アメリカ内戦。それ以前の秩序が崩壊し、現在の世界情勢を決定付けた事件の一つだ。
連邦政府に対するクーデターから端を発した分裂は、アメリカ合衆国を8つに切り裂いた。その内5つの勢力が3年間争い、最終的にはクーデターを起こした超国家主義者達が勝利した。彼らは隣国へ軍事侵攻を行い、今は北米統一連邦を名乗っている。
鳴海が授業で習った事を思い出していると、いのりは頷く。
「そう、国外に駐留していた米軍は次々に本土へと帰還した。その余波で世界中で紛争が激化したりもしたけど、フィリピンにおいてはアルスヴィズが、ユウが上手くやってそこまで大きな影響は……と、これ以上は歴史の勉強になっちゃう。案内始めるよ」
いのりが先導し、ロビーを後にし艦後方へ向かう。
いくつもの区画を通り過ぎ最後に重い扉が開くと、湿った空気と海水の匂いが鼻をつく。広大な空間に鉄の塊が整然と並んでいる。
波の音に負けないように、やや声量をあげたいのりが説明する。
「ここはウェルドック。この船は揚陸艦としての機能もあって、私は参加したことないけど時には上陸戦もある」
鳴海は広さに圧倒さながらも、頷く。
並んでいた車両——水陸両用車などの説明を受けたあと、艦中央部に位置する格納庫へ。金属の響きとオイルの匂いが漂い、流線型のボディをもつ灰色の機体が並んでいる。
「ここが格納庫。あの夜使用した自爆ドローンはここから発艦した。有人機も出せるけど、今はいないね」
鳴海は県庁解放作戦におけるドローンの活躍を思い出すと同時に違和感を覚えた。この格納庫は密閉空間だ。他の場所へアクセス出来るような大きな扉なども見当たらない。無人ドローンといえどある程度の大きさの機体をどうやって発進させるのだろうか。
「ここからって、どうやって出すの?」
鳴海の疑問にいのりは格納庫の壁を指差す。
「側面が開く。そしてカタパルトが展開して射出する。ウェルドックと合わせてこの艦のウィークポイントになり得るけど……まぁ現代の対艦ミサイルなんて直撃したら1発で致命傷だから」
人命の損失を抑え効果的な支援を行うために、弱点として抱えてでも維持する価値のある装備ということだろう。
続いて訪れたのは武器庫。無数の銃器がロックされたラックに並ぶ。カウンターの中にはサングラスをかけた屈強な黒人の男性が作業している。
鳴海といのりが近づくと、男が気付き近寄ってくる。
「よう、そいつが新入りか?」
「うん。そのうち仕立ててもらうかも」
いのりが答えると、男が豪快に笑う。
「この人はガンスミス。銃の専門家ってとこかな。そして、ここは武器庫。普段はロックされてるけど、射撃訓練なら申請すれば使える」
鳴海は整然と並ぶ銃の冷たい輝きに目を奪われ、ゴクリと唾を飲む。
その横で男はいのりに話しかける。
「ところで嬢ちゃん。今ちょうどお前さんの銃を見ていたが、またグリップが歪んでいたぞ」
そう言う男の背後の作業台の上には、解体された一挺の拳銃が置かれていた。鳴海には分からないが、どうやらあれがいのりの銃らしい。
いのりは一瞬だけ作業台に視線を送ったが、表情を変えずにすまし顔で言う。
「近接戦闘ではナイフを抜くより銃で殴った方がはやいから」
「それは分かるがフルカスタムした銃でやらんでくれよ。毎回同じ修理をするこっちの身にもだな…」
「努力するよ。行こっか」
苦い顔をする男を置いていのりはさっさと部屋を後にしてしまう。鳴海は軽く会釈をしつつ後を追うが、ため息を吐いて作業台に戻る男の背はどこか哀愁が漂っていた。
その後、いのりの先導で艦内を徐々に昇って行き医療室、会議室、倉庫、部隊毎のブリーフィングルーム、雲母のラボなどを順に巡って行き、艦内最後の区画として居住区を通ったが、鳴海は、多くの部屋の扉が開けっぱなしになっている事に気付いた。
「ドアが開いてる部屋が多いね」
鳴海の質問ともとれる呟きに、いのりは手前の部屋の中を覗き込む。
「……清掃してるみたい。この部屋の主がいなくなったから」
「いなくなった?辞めたってこと?」
「戦死したってこと」
さらりとした告げられた言葉に鳴海は言葉に詰まったが、いのりが続ける。
「少し前まで大きな依頼を受けてたって言ったでしょ。それで少なくない被害があった。つまりそういうこと」
「それは…その…」
「ここまでの事は滅多にないけど、この仕事をしていればいつでも起こりうる事だから。悲しいけど、これも慣れるよ」
「そう…なのかな……」
いのりは平然と言うが、鳴海には受け入れがたい。船の揺れに慣れるのとはわけが違う。戦死した人たちと、いのりは会話を交わしたこともあるだろうに。悼む気持ちはあっても感傷に浸らない姿に、鳴海は自分の死生観よりずっと達観してる、いや、もっと言えば壊れてるのかも、と思わずにはいられなかった。
「気をつけて、風が出てきたみたい」
いのりが風に吹き付けられた髪を押さえながら扉を開く。
艦内区画で自由に出入りできる場所を巡り終え、最上段の甲板に出ると水平線まで広がる大海原と突き抜ける様な青空が出迎えた。
そして、青のコントラストを睨みつける様に物々しい兵器も鎮座していた。
複数の砲身を束ねたような装置に目を引かれ鳴海が物珍しげに兵器を見つめると、いのりが説明する。
「近接防空システム。CIWSって言った方が分かりやすいかな。それが6基ある」
「まるでハリネズミみたいだ」
「船のサイズからしたら足りてない。その穴埋めのために3隻の護衛艦がついてる」
いのりは鳴海の形容に対して首を横に振り、前方を指差す。つられて鳴海も視線を向けると、遠くに航跡を描きながら先導する船が見えた。
「前方のがポセイドン。見えないけど後ろにワダツミとニヨルドが着いてきてる」
「なんか、神聖そうな名前だね」
「命名はユウ。元々所属していた国の神様からとったんだって」
「じゃあ、ワダツミは日本から?」
「うん、確か…コンゴー?型だったかな。何番艦かは忘れた」
まさか日本出身の船がアルスヴィズに参加していたとは思わず鳴海は少し驚く。
「あとは4基4門の主砲とVLS、日本語だと……ミサイル発射装置?が32基。それにヘリポートも2つ。当初は魚雷発射管も搭載予定だったけど、さすがに止めたみたい」
魚雷まで付けたらいよいよ艦種が分からなくなる。ということらしいが、鳴海からしたら既にこの船の多機能さは既存の区分には収まらないと思える。
そこでこの艦の枕詞を思い出した。
“複合型戦力広域立体投射艦”
揚陸機能や艦載機射出機能を用いて戦力を広域に、三次元的に戦場に投射し、そして高度な医療施設や研究室、武器庫を備え、衣食住の提供もする正に複合型を名乗るに相応しい艦なのかもしれない。
(……いや、それにしては”複合”の負担が大きくないかな)
そう思ったが、この船を「家」と捉えているいのりには言わずに、心の中に留めておく事にした。
「ブリッジとかCICはさすがに勝手には入れないから、ワン・オブ・ザ・ワールド案内ツアーはこれで終わり。なにか質問とかある?」
鳴海は甲板の風を感じ、目を細める。船のスケールに改めて圧倒されたが、いのりの簡潔な説明もあってだいぶ慣れてきた。「いや…すごい船だなって。質問は、とりあえずないかな」と苦笑し、首を振る。
「午後は……どうしようかな。こんなにはやく終わっちゃうとは思ってなかった」
いのりは髪を弄りながら暫く考えていたが、何かを思いついたらしく、ポケットから通信端末を取り出し、素早くメッセージを打ち込む。
「都合つくか分からないけど、連絡してみた。その間にお昼にしよう」
そう言い艦内に戻るいのりについて行き、食堂に向かった。




