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第7話 県庁解放作戦Ⅲ

戦闘シーン描けないナリ…

そうだ、可能な限り省略するナリ…!

22:50

 ドアが蹴破られた知事室の中には、サルダート旅団兵たちが待ち構えていた。しかし迎撃はなく、静寂が迎える。スタングレネードを投げ入れようとしていたユウはドアの陰で目を細めて訝しむ。

「ようこそアルスヴィズの諸君。見事な腕前だ」

罠かと勘繰り、投擲と突入を躊躇していると部屋の奥から、ロシア訛りの英語が響く。穏やかだが、底に冷笑を隠した声。

「私はサルダート旅団を率いるアレクセイ大佐という。君たちの戦いぶり、刮目させてもらった」

「これはご丁寧にどうも。テロリストの名前なんざ興味ないがな」

続く声にユウは軽口で返しながら僅かに顔を覗かせ、部屋の中の確認をするが死角が多く人質の有無は確認できない。

「姿を見せてくれたまえ。我々にこれ以上の交戦の意思はない。一応同業者同士だ。会話も弾むと思うがね?」

「同業者ぁ?俺たちは民間人の虐殺なんてしねぇ、一緒にすんな」

相手の声は穏やかだが、対するユウの声は刺々しい。部屋の確認を反対側の陰にいる隊員らに目線で促すと、一人が遮蔽から素早く確認し、囁く。

「知事を確認。無事ですが拘束されています」

ユウからは見えない位置に知事は拘束されており、怪我もない。

「やぁ、知事殿。我々はアルスヴィズ。日本政府の要請であなた方を救助しにきました。もう大丈夫ですよ」

ユウは知事に穏やか声を掛けながらもサルダート旅団の、アレクセイの意図を測りかねていた。大規模な無差別テロを起こし、都市を制圧した目的は?知事を人質をとして何を要求する?そして…これを実現した方法は?数時間前の雲母との会話が頭によぎる。

 それらを確かめる為に、ユウは敢えてアレクセイの口車に乗る事にした。

ユウは隊員らに引き続き待機を命じてから、一歩踏み出し扉の陰から姿を晒す。アレクセイは部屋の中央に立っていた。中年の男、白髪混じりの短髪、頬に走る深い傷跡。軍人然とした姿勢、胸に輝く徽章。冷たく光る目がユウを値踏みする。背後の旅団兵は銃を下げたまま、異様な静寂を保つ。

「アレクセイ大佐、か。軍人崩れがPMCごっこか? 」

ユウはわざと挑発し、反応を探るがアレクセイは右手を徽章に当て、誇らしげに胸を張る。

「軍人崩れ?違うな、我々は今でもユーラシア連邦陸軍だ。貴様らの様な誇りも大義もない連中と一緒にするな」

ユーラシア連邦。かつてロシアと呼ばれていた国家が東欧の一部と、中央アジアを呑み込み成立した巨大な国家。

彼らはユーラシア主義の元、侵略的な拡大政策を続ける危険な国家で、アレクセイの身につける徽章はそのユーラシア連邦のものだ。それが意味する事なく一つ。

ユウは肩をすくめ、嘲笑を浮かべる。

「なんだ、同業者じゃないじゃねえか。つまり結局は懐かしのワグネルの焼き直しか。ロシアのやり口は変わらんな」

ユウの言葉にアレクセイの目が一瞬遠くなる。懐かしむような、だが苦い表情。

「ロシア、ロシアか…懐かしい名だ。ソビエトの栄光にしがみつき、未来を見失った愚かな国家…」

「コミーに栄光?ライヒスタークに赤旗を立てた瞬間がピークだったろ。それも過去の話だ」

ユウは呆れたように吐き捨てるが、内心では僅かに苛立ち始めていた。この一見理知的だがユーラシアの理想に盲目的でもある軍人相手ではまともな会話はできない。

ユウの内心を見透かしたようにアレクセイが低く笑う。目は鋭く、ユウを射貫く。

「ふむ、君は面白い。どうだね?わがユーラシア連邦の名の下に戦うというのは?」

「断る。俺は個人的な理由で一部を除いてロシア人が嫌いなんだ」

ユウの即答に、アレクセイの顔が歪む。拳を握り、声を荒げる。

「ロシア人ではない! ユーラシア人だ!」

アレクセイの狂信者のような叫びにアルスヴィズの隊員たちが一斉に銃を構え、それに反応してサルダート旅団兵らも銃を向ける。ユウが部下たちを制止するが場の緊張感は一気に跳ね上がった。

アレクセイは徽章を握りしめ、目を血走らせ叫び続ける。

「貴様には分からんのか!?この混迷の時代!必要なのは強く、団結した国家だ!ユーラシアを統一し、そして欧州を!アジアを制する!それこそが唯一の道!唯一の未来!」

渾身の演説にユウは完全に馬鹿にした笑みで返す。

「団結?そういうのは中央アジアの軍閥とシベリアの無政府地帯を片付けてからほざけよ。まぁお陰様で俺たちは仕事に困らないがね」

アレクセイの顔が真っ赤に染まり、旅団兵たちが銃を握り直す。

場の緊張が最高潮に達するが、ユウがアレクセイの背後の窓に影が動くのに気付いた。

 会話では収穫がなかったユウは首を振り、眼前の頑固なユーラシア人を睨みつける。

「ご高説ありがとう。だが時間切れのようだ」

「なに?」

その瞬間、窓が吹き飛ぶ。

ガラスの破片が飛び散り、閃光と爆音が知事室を揺らす。

第二部隊が4階を制圧後、ラペリングで窓から奇襲したのだ。

それを見越していたユウは地を蹴り、アレクセイに飛び込む。同時に背後の第一部隊の隊員たちが発砲し、放たれた銃弾は正確に頭に命中し旅団兵たちは反撃もできず倒れる。

アルスヴィズ即興の連携が瞬時に敵を無力化した。

対応の間もなく一瞬で部下たちが倒されたアレクセイは驚愕したが、衝撃から立ち直るより先に懐に潜り込んだユウの拳が腹に叩きつけられる。

呻き声を上げ、身体を折り曲げるアレクセイを床に押し付けたユウは、腕を縛り上げ抵抗を封じる。

「ベラベラ喋ってっからこうなる。殺るんならとっとと殺るべきだったな」

アレクセイは苦しげに喘ぐが、その顔にはまだどこか余裕がある。

「ふ、はやく殺すがいい」

「そうはいかん。お前には聞きたい事がある。お前の部隊、旅団ってのは名前だけで実際はそこまで数はいないだろう。それでも1つの都市を1部とはいえ制圧できる程の兵力、一体どうやって連れてきた?」

詰められるアレクセイは目を逸らし、とぼける。

「何を言っているのか分からないな」

「そうか、じゃあ俺の考えを言おうか」

アレクセイの耳元に顔を近づけたユウが、他の隊員に聞こえないよう囁く。


「エン・ソフ」


その囁きにアレクセイは驚愕に目を見開く。

「貴様、なぜその名を…!」

「やはりか…」

その動揺を見たユウは確信を得て、アレクセイを一撃で気絶させる。立ち上がり、部屋を確認するとオリヴァーが知事の拘束を解き、支えながら立ち上がらせるところだった。

「ナイスタイミングだねオリヴァー」

「見せ場は全部とられちまったがね」

ユウ同様、第二部隊の動きを察知していたいのりが声をかけ、オリヴァーは不満げに返す。

窓の外から第二部隊の隊員がラペリングロープを回収し、知事室に降り立つ。

「ヘリを呼べ。人質とゲスト一名をお持ち帰りだ。」

ユウは隊員に指示を飛ばすと知事が隊員に支えられ、扉へ向かう。ユウは気絶したアレクセイを見下ろし、わずかに目を細める。

(こいつの背後にはユーラシア、そしてユーラシアの背後には…いや、やめよう)

疑問は確信に変わりつつあるが、結論は後だ。ユウはそう意識を切り替え、撤収を急ぐ。


22:59

 県庁の制圧、人質の回収はアルスヴィズの圧倒的な力で完了した。あとはヘリが彼らを帰還させれば全てが終わる。

鳴海は自らが果たした役割は非常に小さいと理解しつつも、同時に達成感を感じていた。

 しかし1つだけ気になる事があった。

敵の首謀者アレクセイ大佐にユウが言った一言。エン・ソフ。人の名前か何らかの組織名だろうか。

「雲母さん、エン・ソフって?」

「……さあ、なんだろうねぇ」

雲母に尋ねるがモニターから目を離さず、素っ気なく返される。

明らかにはぐらかされた、と思うが追求はやめておいた。雲母相手に情報を引き出すのは難しいだろうし、何よりまだ作戦は完了していない。

気を取り直してモニターに向かい直したが、それでも疑問が頭から離れない。エン・ソフという存在が何であれ、鳴海は何故かそれが自分にとって重要な意味を持つように感じてならなかった。


23:12

 ヘリを要請したアルスヴィズは知事と5階で確保した人質合わせて10数名、3階で負傷した隊員1名らを護衛しつつ屋上に戻ってきた。

人質たちは感謝の言葉を述べ、安堵の表情を見せていたが、遠くから近づく複数の車の音にアルスヴィズの隊員が一斉に警戒態勢に入ると、再び怯え出す。

《装甲車両が多数接近中。こちらは弾薬が乏しく、援護は一時的だ》

ドローンチームからの報告にユウが苦々しい表情を浮かべる。

いのりとオリヴァーが屋上の縁から慎重に下を覗くと、車両から降りた敵兵が県庁の正面玄関に突入しているところだった。

「敵の増援を視認。数は…10、15……たくさん」

「適当だな嬢ちゃん」

数えるのを途中で諦めたいのりにオリヴァーが苦笑する。だが、それだけ増援は多い。

「ヘリ到着まで約4分。敵がここに来るのとほぼ同時だ。左右の入り口を固めろ」

ユウの指示で部隊は2ヶ所ある出入り口に対して分かれ、即席の防衛線を構築する。知事と人質は屋上の中央、換気ダクトの陰に集められた。

 早かったのはサルダート旅団だった。

左右の入り口から、旅団兵が姿を現す。20人以上の兵士が、怒号を上げながら突進してくる。銃口から火花が散り、アルスヴィズの防衛線に弾丸が殺到する。コンクリートの破片が飛び散り、人質たちの悲鳴が夜に響く。

ユウは左の入り口で遮蔽に身を隠し、弾幕を張る。

「弾、節約しろ!」

弾切れになった仲間に弾倉を投げ渡しながら叫ぶユウの声に、隊員たちが統制された射撃で敵を牽制。いのりはユウの横で冷静にサイトを覗き、突進する兵士の動きを乱す。他の面々も、左右の防衛線で息を揃え、旅団兵の隙を突く。

オリヴァーが右の入り口で手榴弾を投擲すると爆発が旅団兵の隊列を乱し、数人が吹き飛ぶ。だが、敵は数を頼みに突進を続ける。

「弾薬がもたねえぞ!」

勢いの衰えない敵にオリヴァーが吠える。

「ヘリはまだか?!」

《現着まで残り30秒》

「チッ!ドローンチーム!左手に火力を集中しろ!全弾撃ち尽くして構わん!」

ユウの無線に、ドローンの機関銃が唸る。屋上の入り口に弾幕が降り注ぎ、旅団兵の叫び声が響く。しかし数秒で撃ち尽くし、最後の榴弾が発射される。爆発音とともに入り口が崩落し、旅団兵たちは増援と退路を絶たれる。

「ヘリが来る!スモークを投げろ!」

 空からローター音が近づく中でユウが叫ぶ。ピンが抜かれたスモークグレネードが放られ、白い煙が広がり旅団兵の視界を奪う。

その煙を切り裂く様に現れたヘリが屋上に着陸する。

「ここは俺が抑える!人質を先に! 急げ!」

ユウの指示で第一部隊員が知事と人質をヘリに誘導する。知事が最初に搭乗し、他の人質たちが続き、負傷した隊員も担架で運ばれる。ドアガンナーが重機関銃を構え、屋上全体に援護射撃を浴びせる。コンクリートが削れ、旅団兵が遮蔽に隠れる。

「人質の回収完了!」

「ユウ!」

第一部隊の隊員が、人質が全員搭乗し終わった報告をするといのりがユウを呼ぶ。ユウは一瞥するとすぐさま返す。

「先に乗れ!オリヴァー!そっちを頼むぞ!」

「りょーかい!」

隊員たちを先にヘリに乗せ、前線にはユウとオリヴァーが残る。

人質を乗せたヘリは上昇し始めており、火力の減少したアルスヴィズに対して、旅団兵の銃撃は激化する。しかし、ユウとオリヴァーは的確に互いを援護し合いながら猛攻を凌ぐ。

「オリヴァー、行け!」

「援護頼みますぜ!」

自分たち以外が搭乗したのを確認したユウは、晴れつつあるスモーク越し銃撃を放ちつつ、最後の弾倉を撃ち尽くしたオリヴァーもヘリに向かわせる。

置き土産とばかりにグレネードを投げたオリヴァーがヘリに走り、ユウが単身応戦しつつ自身もヘリへと後退を始める。

いまだ10人以上の旅団兵が健在で、その銃口のほぼ全てが自分に向けられてもユウは遮蔽を効果的に使い、敵の動きを読み、着実にヘリに向かう。

そして、最後のヘリからの援護を受けつつ飛び乗り、ドアを閉める。

ヘリが急上昇する中、屋上から散発的な銃撃が追う。だが、装甲を掠めるだけに終わり、アルスヴィズは知事、人質、アレクセイを確保し、無事撤退に成功する。

ヘリの中では隊員達が安堵の息を漏らす。

ユウとオリヴァーがそれぞれの隊に欠員がいない事を確認し、ユウが全体無線へ声を張る。

「人質全員及び敵首謀者の確保に成功。作戦完了、RTB」

こうしてアルスヴィズは完璧に依頼を達成したのだった。



 3機のヘリが県庁から飛び去っていく。名古屋の夜景を下に、星空へ消える。

別の建物の陰からその光景を見つめる2人の人影。

「あらら〜、アレクセイのオジ様が連れてかれちゃった〜」

すぐ近くで激しい銃撃戦が行われていたのにも関わらず呑気な声をあげる、腰に短剣をぶら下げた女。

「所詮は捨て駒さ。問題ない」

そして、冷酷に吐き捨てた男は2振りの剣を携えている。

「ま、それもそうだね〜。残った兵隊はどうしよ?捨てちゃおっか?」

声色はそのままに、即座に兵を切り捨てようと提案する女。

「いや、少しは回収しよう。使徒様に文句言われたくない」

「スピンはいつも小言言われてるもんね〜」

「殆どお前のせいだけどな、トポス」

呆れ顔の男——スピンの自身への小言をクスクスと笑って躱し、女——トポスはヘリが消えた空を見見上げる。

「それにしても、あれがアルスヴィズか〜。中々手際が良かったね〜」

「とはいえ、俺らの敵じゃない。今回は直接介入の命令がなかったが、次会う時があれば……」

アルスヴィズの作戦の一部始終を見た上で、スピンはそれでも自分たちが勝ると判断した。それは驕りでも慢心でもなく、客観視事実だとスピンは確信しているが、トポスは違った。

「私はやりたくないな〜。特にあの隊長さんは厄介だよ〜。死なない存在をどうやって殺すのさ〜」

スピンは一瞬黙り、トポスの言葉を認めるように目を細める。不死身に近い存在を倒す方法は、確かに思いつかない。

しかし、自分たちは力を振るうのが仕事。

「それを考えるのは使徒の仕事だ。俺たちは言われた通りにするだけ。行こう、ゲートを開いてくれ」

「はいは〜い、初陣がこれで終わりなんてつまらないな〜」

 不満を漏らしつつ、トポスが腰の短剣に手をかけ、動きを止める。2人に近づく集団に気づいたからだ。

「おや〜?」

トポスは剣に手をかけたまま、面白そうに集団を観察する。頭目を失ったサルダート旅団の兵士たち、数にして10人ほど。県庁への増援の内、内部に突入せず周囲を固めていた部隊。

「……お前たち、裁定者だな?」

先頭の兵士が慎重に声を発する。だがトポスはスピンに視線を向けるだけで、スピンも兵士に続きを促すかの様に腕を組むだけだ。

「アレクセイ大佐が敵の手に落ちた」

兵士は、反応らしい反応を見せない2人を訝しみながらも、自分たちのリーダーの捕縛を伝える。

「あぁ、そのようだな」

返ってきたスピンの反応は冷淡そのもの。

兵士は唖然とし、スピンを睨む。二人の無関心な態度が神経を逆撫でする。

「そのようだな……だと?分かっているのか?!我らの指揮官だぞ!?それがいなくなったのだ!」

国防軍の攻勢、人質の喪失。その上、リーダー不在で部隊は機能不全に陥る。次席指揮官は戦闘指揮で手一杯だ。兵士は危機感を訴えるが、スピンとトポスはどこ吹く風。

「そもそも、お前たちが加勢してくれば良かったのだ!お前たちならあんな奴ら敵ではないだろう!」

兵士の声が荒々しくなる。アルスヴィズに出し抜かれたのは自分たちの過失ではない。旅団は最善を尽くした。それでも敵を阻止できなかったのは怠惰な味方のせいだ。そう信じたい兵士の怒りが爆発する。

「加勢?そんな指示は出ていないんでね」

それでもスピンの眼差しは氷のように冷たい。

「我らは同志だろう!」

兵士が掴みかからんばかりに叫ぶと、トポスが割って入る。

「同志〜?勘違いしちゃってるね〜。私たちは指し手で、あなたたちは駒。駒の為に指し手が動く?そんなわけないじゃ〜ん」

「こ、駒だと…!?」

「そう!無数にいる駒の1つに過ぎないの!アレクセイのおじ様は楽しい人だったけど〜。まぁでもあの程度なら代わりはいくらでもいるから!」

「き、貴様!」

気にしないでいいよ!と言わんばかりのトポスに、上官を愚弄された兵士は激昂して銃を向ける。そしてそのまま引き金に指をかけ——「はい、それはダメ〜」

そのまま上半身が消え去った。

上部を失った下半身が思い出したかの様に地面に崩れ落ちる。

いつの間にか短剣を抜いていたトポスが剣を振り抜いた体勢のまま、光の消えた瞳を旅団兵たちに向ける。

「それはダメだね〜。駒が反逆なんて……それで〜?あなたたちもこの人と同じ考えなのかな〜?」

声色も、間延びした喋り方も変わらない。しかしだからこそ旅団兵たちは恐怖に震えた。

いつ剣を抜いたのか分からなかった。なぜ上半身が消えたのか分からなかった。その未知ゆえの恐怖に旅団兵たちは仲間を殺された怒りもなく圧倒された。

「そのくらいにしておけ、トポス」

完全に戦意を喪失した旅団兵たちを見かねて、スピンが声をかける。

「駒は駒でも無駄使いしていいわけじゃない。さっさとゲートを開け」

「は〜い、じゃああっちの広い所にしよっかな〜」

 軽やかに駆けていくトポスを見送り、スピンは兵士たちに向き直る。

「裁定者の権限で、可能な限りお前たちをここから脱出させる。近場の部隊に呼びかけろ」

啓示かの様に告げられる言葉に、旅団兵たちは仲間を殺された恨みが芽生えすらせず従う。

無線で付近の部隊を呼び寄せる中、一人が恐る恐る尋ねる。

「な、なぁ。あんたたちならアルスヴィズに勝てるのか…?」

答えるまでもない問いにスピンは鼻を鳴らす。

「当然だ」

「どうやって?アイツらは強い。それにあのリーダーも…」

「簡単なことだ」

トポスといいサルダート旅団といい、スピンからしてみれば敵を過大評価し過ぎている。

背後ではトポスが虚空に向かって剣を振るう。

「お前たちも集うといい」

剣の軌跡に従い、まるで世界のベールが剥がれたかの様に空間がめくれ、その先には別の空間が広がっている。

異質な現象を背に、スピンは口角をあげ呟いた。


「エン・ソフの名の元に」

省略できましたか?(小声)

はぁ…できませんでした…

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