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第4話 それぞれの戦場

段落を捨てる。その覚悟がある。

 数時間後、銃をユウに渡し、港の救護所で擦り傷と打撲の治療を受けた鳴海は包帯を巻かれた腕をさすりながら、テントの外に出る。既に日は沈み始め、アルスヴィズの母船のシルエットが夕焼けの海に映えている。

 周囲には傷つき、怯えた表情の市民たちが、毛布にくるまってうずくまっている。子供を抱きしめる母親、呆然と空を見つめる老人、すすり泣く若者——その光景は、10年前の福岡空港爆破テロの記憶と重なる。あの時も、こうだった。理不尽な暴力に奪われた日常。助けを求める声と、届かない希望。鳴海の胸が締め付けられる。

 この世は理不尽だ。

予告もなく、命も日常も奪う運命の魔の手。地震や台風なら専門家が説明してくれる。生物相手なら生物学者でも連れて来ればいい。

だが悪意ある同族の、人間の蛮行は、ただ残酷なだけだ。かつての鳴海や、今日の市民たちを襲ったテロも、そうだった。

悪意を打ち倒すのは、善意か、それとも別の悪意か。鳴海を救ったアルスヴィズは、どちらでもない。善悪を無視し、武力を提供する集団。

(こんな理不尽を…繰り返させないためには、アルスヴィズの様な存在が動くべきだ。力があるなら、利益を度外視してでも、戦うべきじゃないのか?)

だが、自分には何もできない。自分一人の力では、この混乱を止められない。無力感が重くのしかかる。


「鳴海」

 静かな声に振り返ると、いのりが立っていた。緋色の瞳が、夕焼けに映えてほのかに光る。彼女は相変わらず無表情だが、どこか鳴海を気遣うような雰囲気が漂う。

「…いのり、さん。どうかした?」

「あなたがそんな顔してたから。さっきの指揮所でのこと、気にしてる?」

鳴海は一瞬、言葉に詰まる。いのりの鋭さに驚きつつ、素直に口を開く。

「さっき…ユウさんが依頼を断ったこと。県庁に人質がいるのに、金がないから動かないって…。それに、いのりさんはテロの被害者なのに、なんでPMCなんかに入ったの? ユウさんに従うのだって…結局、金で動く人に尽くしてるってことだろ? それ、なんか…おかしくない?」

 いのりは鳴海の言葉を静かに聞く。風が彼女の銀の髪を揺らし、港の波の音が背景に響く。鳴海が話終えるといのりは近くのベンチに腰掛け、遠くを眺める。鳴海も少し間を空けてその隣に座ると彼女はどこかに向かって指を差す。その先にあるのは海に浮かぶアルスヴィズの母船。

「私の家は、あの船」

「え?」

発言の意図が読めず思わず聞き返すがいのりは気にせず話を続ける。

「あの船には、たくさんの人が乗ってる。みんな私の大事な仲間で、親のいない私にとっては家族でもある」

祖父母がいた自分とは違い、いのりには誰も残らなかったのだろうか。そう考えると鳴海の胸は張り裂けそうになる。

「本当に色んな人がいる。国を捨てた人、国に捨てられた人、国がなくなった人…。家族を亡くした人、友だちを亡くした人、全部を亡くした人…」

いのりは伸ばしていた手を愛おしそうに胸にあてる。

「そして…ユウがいる」

呟くように言ったいのりの横顔は、微笑んでいた。

「確かに鳴海の言う通り、ユウは時に冷徹で冷酷。合理的で人の心すら道具扱いすることもある、酷い人」

確かに、そう思う。戦闘での容赦ない姿や、情ではなく合理で政府の依頼を拒否したこと。

いのりも同じ思いじゃないか、と鳴海は考える。

「あの人の手は血に塗れている。数え切れないほど多く殺してる。けど、きっとそれより多くを救ってきた。私もその一人」

 しかし続いたその言葉に鳴海は衝撃を覚える。

確かに今日鳴海の目の前でユウは何人もの人間を殺した。だがユウが出した命令により、雲母やアルスヴィズが守った市民の数は周囲を見れば一目瞭然だ。当然鳴海もその内の1人となる。

いのりは懐かしむ様に瞳を閉じる。

「あの人は全てを失くした私に全てをくれた。家も、家族も。そして、名前も」

自らの手を汚しつつ、結果的には多くの命を救う行動もする。それがユウという男なのか。

いのりが閉じていた瞳を開き、鳴海の顔を正面から見つめる。


「だから、私はあの人に尽くす」


 いのりの言葉には、15歳の少女とは思えない重みがあった。鳴海は彼女の瞳を見つめ、その強い意志に圧倒される。

「…分かった。君の気持ちは、理解できる。でも…共感はできないよ。結局今回の依頼を受けない理由は金じゃないか。金で人を救うか決めるなんて、僕には…まだ受け入れられない」

いのりは小さく頷く。彼女の表情は変わらないが、どこか達観した雰囲気が漂う。

「人は人それぞれだよ、鳴海。あなたはあなたのままでいい。私も、私のままでいい。そして、ユウも」

その言葉に、鳴海は言葉を失う。いのりの生き方、その強さと割り切りが、まるで遠い世界のもののように感じられた。

 無機質な電子音が流れる。

いのりは携帯端末を取り出し、画面を確認するとその目が微かに見開かれる。

「あなたの言葉が響いた…わけではないと思うけど、考えが変わったみたい」

端末をしまって立ち上がるいのりの言葉にはほのかな驚きが混じる。

「来て、鳴海。ユウが呼んでる」



ー30分前ー

 ユウと雲母はまだ指揮所にいた。

雲母が端末を操作し情報を集め、ユウが無線でその都度指示を飛ばす。指揮所内の無線機が断続的に鳴り、隊員たちが忙しく動き回る。

2人の役割分担により警戒線からの定時報告も滞りなく、母船と護衛艦の出航準備も完了した。

残る問題は保護している避難民だけとなった。

「2万5000人ってとこかしら。高速道路から逃すにしても車両が足りないわね」

「周辺の施設からトラックでもなんでも借りゃなんとかなるだろ」

「気の遠くなる時間を掛ければね。大渋滞必至よ。そもそも説明するのにすら時間がかかるって」

アルスヴィズが築いた防衛線の内側には膨大な市民がおり、人数確認ですら数時間を要した。

体裁上、彼らを置いて出航するわけにも行かず、かといって安全地帯に脱出させる方法が現状ではなかった。

 そのため日本政府に再三に渡って市民達の移動について問い合わせていたが、反応が芳しくない。

「これ、絶対わざとよね?」

「だろうな、俺たちをこの場に拘束させる為に市民を利用してるんだ。日本人がこんな狡猾な手を使ってくるとはな」

日本政府としては事態収拾の為に、なんとかアルスヴィズの協力を取り付けたい。

しかしアルスヴィズからしたらこれ以上の関与はしたくない。鳴海に言ったように今のアルスヴィズは万全ではない。数日前まで南米で複数の勢力が絡む大規模な戦闘があり、そこで受けた損害は小さくなかった。母船に搭載されている火器の弾薬も底を尽き掛けている。何より大きいのは人員がほとんどは空路で本拠地へと戻っている事だ。

「ねぇ、どうしてさっさと離脱しないの?」

 ユウがスクリーンを眺めていると雲母が横に立ち、コーヒーの入ったマグカップを差し出しながら聞く。

「民間人を見殺しにしろってか?」

ユウが受け取りながら答えると、雲母は肩をすくめる。

「別にそうは言ってないけど、私たちがマジで帰る準備を始めたら、日本政府だってアクションを起こすでしょう?」

雲母の言う通り、この場に留まり続けるのはある意味で日本政府の狙い通りになる。離脱したいアルスヴィズと、それを阻止したい日本政府。現状では後者の目的が達成されている。

その為、アルスヴィズが本気で離脱の構えを見せれば、何としても阻止したい日本政府側は依頼料の増額や何らかの交換条件の提示などを行うしかなくなる。

なぜそれをしないのか。雲母の疑問はもっともだ。

「雲母、あのロシア人ども、何人いるか分かるか?」

「なによ、話そらさないでよ」

「いいから。答えろよ」

露骨な話題転換に雲母は不満げだが、ユウは気にせず答えを促す。

雲母は近くの端末を手繰り寄せ、何度かスワイプする。

「旅団なんて名乗ってるけど、実際は連隊以下。いいとこ大隊規模じゃない?」

ユウはコーヒーを一口飲むと更に問う。

「どうやって来たんだ?」

「……なるほど、ね」

雲母はそれだけで納得したようだ。

人数の確認と日本に来た方法の謎。たった二つの問いだけで、雲母はユウの思惑を察した。

「簡単な話だ。大隊規模だとしても1000人。重火器まであるらしいじゃないか。そんな立派な軍隊が、どうやってこんな島国に来れる」

1000人の人員だけなら、忍び込ませるのはまだ可能かもしれない。だがその全員を完全武装させ、車両を含めた装備を運び込むのは通常の方法では無理がある。

「“E”ね?」

雲母が声を落とし、自身の考えをユウに確認する。

「そうだと考えれば辻褄が合う」

ユウも声を落とす。この場では、ユウと雲母だけが共有する秘密。それが事件の裏にいるかもしれない。それこそ、ユウがこの場に留まる理由だった。

 雲母は満足したのか、この話題をそれ以上広げなかった。

「じゃあ、もしやるとしたらどう動く?」

その代わり、スクリーンを顎で示しながら聞く。ユウはコーヒーをもう一口飲み、考える。

掌握された街の中心部。県庁の人質。封鎖に手一杯な国防軍。人員の足りないアルスヴィズ。

それらのピースを嵌めていくと、やがてパズルが完成する。

「主力は国防軍が拘束しているだろう。ならば俺たちの仕事は少数でヘリを使って県庁を襲撃し、人質を回収するべきだろう」

敵の数が多く、仲間は少ないとはいえ「味方」はいる。サルダート旅団の大半は国防軍と対峙している。ならばその隙に県庁を突く事は可能だろう。

ユウの答えに雲母は頷く。

「それしかないわよね。でも残念、空の守りもちゃんとしてるのよ。連中の防空態勢を」

雲母が近くの隊員に声をかける。

「国防軍から共有された情報、スクリーンに出して」

隊員は手際良く機材を操作すると、スクリーン上の地図に5つの光点が表示される。続いて表示されたのは、国防軍が撮影したと思われる各地点の望遠写真。ビルの屋上に設置された地対空ミサイルが写っている。

「短SAMか。これらの制圧、または破壊して無力化する必要があるな」

「本当なら、複数のチームでやりたいわね。でもそれはできない…」

通常なら、SAMの無力化の為にそれぞれ部隊を向かわせ、完了次第ヘリで強襲チームを送るところだが、今はそれを遂行するだけの人員がいない。

ユウは少し瞑目してから、命令する。

「先方に連絡しろ。『やってやってもいいが、どこまで許容するか?』ってな」



ー現在ー

 いのりに連れられ、先ほどの指揮所ではなく、母船に近いテントに着いた。

母船は近くで見るとますます巨大で、まるでビルが海に浮かんでいるかのような威圧感を放つ。

いのりとテントの中に入るとユウと雲母、そして物々しい雰囲気の兵士たちがいた。まるで戦場に向かう直前かのようだ。

「よう、鳴海。さっきぶり」

「もしかして…やるんですか」

軽い口調で片手をあげるユウに対して鳴海は緊張した声色で聞く。

いのりのユウの考えが変わった、という言葉とテント内の雰囲気からユウが重い腰を上げたのは明白だった。

「あぁ。一応言っておくがお前の青臭い言葉に感化されたわけじゃない。日本政府から追加の条件が提示されたんだ」

「今回の仕事で消費する燃料、弾薬代の肩代わりと名古屋以外の港の使用許可。それに、物資購入規制の緩和。金額据え置きでも悪くない条件だね」

ユウ、次いで雲母が答える。

しかし分からない。

「それをなぜ僕に?」

鳴海には疑問が浮かぶ。

プロである彼らが、たまたま行動を共にしただけの部外者に情報を漏らすとは思えない。

ユウは周りの兵士たちを見渡し、鳴海の疑問に答える。

「さっき言ったか忘れたが、うちは今人員不足でな。前線に出る数はなんとか足りるが、オペレーターが足りてないんだ」

「オペレーター?」

「そう。カメラで全体の状況を整理したり、各員のバイタルを確認したり、ナビゲートしたり。まあ後方支援ってやつさ」

考えてみればその通りだ。敵と撃ち合うだけが仕事じゃない。鳴海も治療を受けた救護所の人員や、巨大な船を動かすクルー。いのりの「色んな人がいる」という言葉が思い起こされる。

「それを、お前にやってもらいたい」

「は?」

ユウの言葉に鳴海が思わず変な声を出す。

「え、は?僕が…?なんで…?」

「ちゃんとした理由が3つある」

困惑する鳴海をよそに、ユウが左手の指を3本立てる。

「1つ目、お前はこの街の人間だ。当然、この街を知ってる。戦場となる場所を知ってるのは大きなアドバンテージだ」

「それならもっと適任がいるんじゃ…!」

人差し指を曲げながら話すユウの説明は筋が通っているが、鳴海は声を張る。ここで意見を述べないと大変なことになる。その思いで続けようとすると雲母がにっこり笑う。

「2つ目が関わってくるの。確かに鳴海くんより街を知ってる人が避難民の中にいるかも。けどね、命の奪い合いをしに行くのよ。それをモニター越しとはいえ見るのは彼らにはキツイわ」

「いやいや、僕だって…!」

「何言ってんだ?お前さんはもうvirginじゃねぇんだろ?」

 雲母のギャップある笑顔に一瞬揺らぎそうになりつつも反論を試みる鳴海に、割って入って来たのは見知らぬ白人の男。辿々しいながら日本語だ。

くすんだ金髪と青い瞳でニヤニヤと鳴海を見ている。

「ば、ばーじん?」

鳴海は意味がわからずオウム返しする。

「あぁ、旦那から聞いたぜ?メトロでお嬢を守って1人撃ち殺したそうじゃねえか。ならもう殺しの処女じゃねえ。外で震えてる連中よりかは使える。だろ?」

話の流れ的に旦那というのはユウ、お嬢はいのりだろう。

要は、既に人を殺した経験があるなら、戦場の光景にも耐えられる、というわけだ。

「そいつはオリヴァー。第二部隊の隊長だ」

「よろしくどーも、少年」

 ユウの紹介に、オリヴァーはからかうように、適当な敬礼をする。部隊の隊長で、片言ながら日本語を喋れる点を考えると、きっと優秀な人間なのだろうが、人は小馬鹿にしたような態度に鳴海は苦手意識を抱く。

オリヴァーからユウに視線を移し、おそるおそる尋ねる。

「い、一応聞いておきますけど3つ目の理由は…?」

「ん、あぁ。3つ目は、お前がさっき俺に生意気にも青臭え理想論ふっかけて来た意趣返しだ」

ユウが薬指を曲げ、ニヤリと笑う。残った中指を鳴海に向ける。左手中指を人に向ける。その意味は、さすがに分かる。

「私怨…!?」

「おう、この俺に演説ぶちかましたんだ。お前には見届ける義務があると思うぜ?なあ?」

堂々としたユウの仕返しに、唖然とする。

常識はずれな人間だとは思っていたが、ここまでとは。

「一応メインオペレーターは私だから、サブって事で。もちろん補助はするから、社会見学みたいなもんだと思って、ね?」

「う、うぐ…」

雲母がわざとらしいお願いポーズで鳴海を揺さぶる。彼女の己の強みを理解した厄介な振る舞いに、鳴海は言葉を失う。

「………分かりました。やれるだけやってみますよ」

数秒の葛藤の末、逃げ場がないと悟った鳴海は降伏する。雲母の補助があるなら、なんとでもなるだろう。

「よく言った。早速ブリーフィングだ。全員集めろ」

半分自暴自棄になった鳴海に、予定通りとばかりにユウが周囲に命令を下した。



「では、ブリーフィングを始める」

 数分後、テントには20名ほどが集まり、ざわめきと無線機の音が響く。戦場に出る隊員達と後方支援の担当者達だ。

鳴海もオペレーターとして協力する以上参加する必要があるが、内容は英語だ。幸い、横でいのりが翻訳してくれるらしい。

人数が揃ったことを確認すると、ユウが用意されたスクリーンの前に立つ。

「まず準備段階。街の中心部、奴らが占拠している区画の電力供給をカットする。これは日本政府側が行う。暗闇になったら陽動として、街を封鎖中の国防軍に攻勢をかけてもらう」

一拍置いて、ユウが続ける。

「ここからが俺たちの仕事だ。第一段階として、母船から発進させた自爆ドローンを用いて5つのSAMを破壊する。誘導は国防軍も協力してくれる」

「SAMは地対空ミサイルのこと」

ユウの言葉の中にあった単語の意味が分からずに鳴海が戸惑っていると、いのりが補足する。

スクリーン上の地図には5つの地点が示されている。

「SAMの無力化後、第二段階。2機のヘリで県庁付近へ降下。勘づかれるのを避けるため、直接降下はしない。そのまま最終段階。2チームで県庁内を制圧し、人質を解放。迎えのヘリを呼んで退散だ。質問は?」

 ユウが話終えると同時にオリヴァーが手を挙げる。

「部隊分けはどうするんで?第一も第二も欠員ばっかだぜ?」

「他部隊から補充する。詳細は後ほど。お前の部隊は全員臨時編成になるが…大丈夫だろ?」

オリヴァーはニヤニヤと周囲の隊員達を見渡すと、大袈裟な身振りで答える。

「知らん奴らでもねぇ。ま、うまくやるさ」

「第二部隊はオリヴァー以外不在なの。まあ第一も似たようなもので、ユウと私しかいないんだけど」

ユウとオリヴァーの会話が終わると、いのりが教えてくれる。確かに人員不足は深刻だ。

「人質は県庁内のどこに?」

 続いて別の隊員が手を挙げ質問すると、ユウは雲母に視線を向ける。

視線に応えた雲母が端末を操作し、スクリーンに県庁の見取り図が表示される。建物は地下1階と地上6階の構造だ。

「人質が捕らえられているとしたら、貴賓室、知事室、講堂のどれかだろう」

ユウが、見取り図の3か所——5階、3階、2階——を順に指差す。

オリヴァー含め、隊員たちが口々に意見を述べ始める。

「何人も捕まってるなら、広さがいる。講堂じゃねえか?」

「だが、2階だぞ。入って階段登ったらすぐだ。そんなとこに置くか?」

「知事室は3階だし、可能性高そうだが…広さという点では怪しいな…」

「なら貴賓室か。屋上から展開すればすぐだな」

「いや、待て。分散して拘束されている可能性もあるだろう」

複数の英語に、鳴海は目が回る。いのりに視線を向けると、彼女は議論を訳す必要がないと判断したのか、複数人の会話に追いつけなかったのか、素知らぬ顔でユウを見ている。

ユウはいのりの視線に一瞬だけ反応したが、気にせず片手を挙げる。そうすると騒がしかった隊員達が一斉に注目する。

「第一部隊は地上から、第二部隊は屋上から上階を制圧。各フロアを進み、3階で合流を目指す。人質を確保したら屋上でヘリを待ち、回収と撤収だ」

1階と6階から同時に進み、人質を探していく。それがユウが採った作戦らしい。

 隊員たちに反対意見はないようだ。ユウは満足げに頷き、背筋を伸ばす。

「では、作戦開始は今から2時間半後!総員第一種戦闘配置!旗艦及び護衛艦は直ちに出航!洋上支援に備えろ!」

 ユウの号令に、隊員達が一斉に行動を開始する。

オリヴァーは複数の隊員と何かを確認し合い、いのりはいつの間にやらユウと会話を始めている。テントの外でも、多くの人々が慌ただしく動く。鳴海は雲母に手招きされる。

 遂に民間軍事会社アルスヴィズが動き出す。鳴海もその一員として戦場に臨む。不安と、ほのかな高揚感が胸に湧く。その先に、どんな光景が待っているのか。母船のシルエットが、夕闇の海に溶けていく中、鳴海は一歩踏み出す覚悟を決めた。

やっぱない。

あと文字数を5000字に収めたいのに全然余裕で突破する。

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