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青の音階とグリム男爵

「よしじゃあじゃあハンカー、貴様は再び馬を走らせろ」

「なんだよもう話は終わりか?もうちょっとコミュニケーションをだな…」

「おい、姉御の命令には従えよな!」

「へいへい、300オルカの為だ。生意気なガキにもペコペコしますよ」

「何だと!俺のどこが生意気なんだよ!」


ラノアは苦笑し「オズマ、この男とまともに向き合っては心が持たないぞ」と少年の肩を手でそっと叩いた。


ハンカーが御者の仕事に戻ろうとするとラノアは「おい」とハンドガンを彼に投げ渡した。

「ありゃ?くれるんですか??」

「お前に死なれてはまた御者を雇わねばならん」

「賢明な判断ですぜ〝姉御〟」

嬉しそうにハンドガンを腰に装備するとハンカーは再び馬車を走らせるのだった。


首都オルからひたすら北へ進む。アズラ公国の国民の殆どは移動には鉄道か魔道自動車を使う。この国で今、馬車を使う者は田舎に住む金の無い者か訳アリな者くらいだった。なのでラノアたちが進む舗装されていない道は彼女たち以外人の気配はなかった。


「ずっと平原が続いてますね姉御。なんか眠くなってきた」

変わらない景色に飽きてきたのかオズマはうとうとし始めた。

「この辺りは魔物も少ない、暫く眠って構わんぞ」

「そうさせてもらいま…」


その時、ハンカーに渡したハンドガンの短い発砲音が鳴った。


「オズマ!寝るのは後だ!」

「は、はい!」

オズマはランスロットを召喚しラノアの傍に配置する。


馬車は止まり外から焦るハンカーの声がした。

「ちょっと!早く加勢してくださいよ!!何かいるって!」

ラノアとオズマが馬車から降りるとハンカーは御者台の上で立ち銃を構えていた。

「素早い何かが走り回ってるんです!俺の腕でも当てられねえ!」

見ると馬の周りを小さな何かが素早く走り土埃を上げている。


するとそれは急に飛び上がり2頭いる馬の左側の馬の首目がけて落下してきた。

「くそ!馬から殺す気か!」

しかしランスロットはその軌道に立ち塞がり小さな何かとぶつかった。

高い金属音が鳴ると素早い何かはそのまま右側の馬目がけて飛び込む。しかしランスロットはその背中目がけて銀の剣を振り下ろした。

「ぎゃっ」


その何かは赤い血を舞わせるとそのまま地面に落下した。

すかさずランスロットはそれに刺突を浴びせる。

「ぐえっ…」


どうやら息絶えたようで3人は警戒しながらそれを覗き込んだ。

「何だこいつ!じじいだ!あんな素早かったのに小さなジジイだぜこいつ!気持ち悪!」

腹が立ったのかハンカーは息絶えた小さな老人の眉間目がけて銃弾を撃ち込んだ。


「よしハンカー、この老人を調べるんだ」

「え?こんな気味悪いジジイを触るの?」

断る事は無駄だと理解しているハンカーは老人を馬から離れた位置に投げ捨て、纏うぼろぼろのローブを引きちぎった。

痩せた身体と持っていた短剣以外何も見当たらない。

と、ラノアが腹部に何かを発見した。

「おや、この入れ墨は…」


その時である。

老人の2つの眼球がぼとりと落ちるとみるみる真っ赤に変色し始めた。

「皆離れろ!!」


ラノアの声に2人が反応する間もなく眼球は爆発した。


「あれ??」

3人共無事生きている。

よく見ると爆発した眼球を透明の何かが覆っている。それは舞い上がるはずの黒煙をも閉じ込めていた。

「こりゃたまげた!リングシールドだぜこれ!」

「あん?なんだよリングシールドって」

その問いにハンカーは興奮気味に説明し始めた。

「いいか?アズラ公国最強を誇る〝輪の騎士団〟が開発した対爆弾無効化兵器こそリングシールドだ!応用すると自分たちを守る防御壁にもなる!しかも直径2㎝の小ささで持ち運びやすく空気中の魔力を吸う事でエネルギーを自動回復する途轍もないアイテムさ!」

「殺し屋にしてはよく知っているな」

「へへ俺は兵器マニアだからな。しかしなんであんたがリングシールドを??」

「ああ、この依頼を受けるにあたって譲ってもらったんだ。早速役に立って良かったよ」

「やはり執政官ともなりゃ下々の者達とは違うな!」

その話を悔しそうに黙って聞くオズマにラノアは静かに笑った。

「今のはどうしようもない。自分を責める必要はない、現に3人共無事だ」

「でも、俺また姉御を守れなかった…!」

うつむくオズマにハンカーはケタケタ笑い出した。

「だっせー!!そんな事きにしてちゃお前大人になる前に死んでるぜ!弱っちい野郎だな!」

「くそ!!」オズマは怒りに任せて拳を振り上げるもラノアに手首をつかまれる。

「ハンカーの言葉にも一理ある。オズマ、君を護衛に雇ったが君に全てを任せている訳ではない。3人で協力して生き延びる結果こそが大事だ。君の責任感を知れただけでも私は嬉しいよ」

優しい言葉に涙を拭うとオズマは今度は地面に拳を叩きつけた。

「次こそ姉御を守るんだ!」

その姿に2人の大人は苦笑するのだった。


暫くしてラノアはリングシールドを解除した。

そこには消し炭になった老人の残骸以外は何もない。

「証拠は消えてしまったが老人の腹部には〝青い音階〟の紋章があった」

「なんだいその青い音階ってのは?」

「私が昔公爵の依頼で壊滅させた極右組織だ。まだ生きながらえているとは思わなかった」

「極右って事は狙ってるのはこのガキかい?」

オズマは黙って会話を聞いている。

「彼が釈放されたとあれば極右組織からすれば我慢ならないだろうからな。しかも釈放したのが自分たちの組織を壊滅に追い込んだ執政官だ」

「動機としちゃ十分って事か」



「これ以上醜い音を奏でるのは止めて頂きたい!」

突如3人の沈黙に謎の声が響くと、辺りに散らばる木々の陰からぼろぼろのローブ者たちが姿を見せ始めた。

10人ほどに囲まれた3人は身構えるとリーダーの男が悲し気に話し始めた。

「無益な抵抗は止めましょうスプリング執政官。あなたは一線を越えた罪人です、その子供も。しかしその殺し屋は罪人ではない。無駄な抵抗は止めて殺し屋を開放しなさい。そして我々に嬲り殺されるのです」

「勝手なことをいうなテロリスト共。お前たちと会話するだけ無駄だ」

ラノアはオズマに小声で「ドリュアスを」と伝えた。


オズマはランスロットを戻すと「ドリュアス!」と叫んだ。


地面にぼこぼこと穴が開き始める。

そこから木の根が蛇のようにうごめき出すと、それはあっという間にローブの者たちの体に絡みついた。

「罪人め!怪しげな技を!!」

リーダーの男にも根は絡みつき全身を覆った。

「絞め殺せドリュアス!」


メリメリと木の根は体に食い込むとローブたちの体をバラバラに千切った。

夕暮れ時の草原に肉片がまき散らされると木の根は地面に溜まる血液をじゅるじゅると吸い尽くすのだった。

「お、おい〝オズマくん〟やるじゃねーか…!俺には決して使わないでくれよその召喚獣を!」


オズマの召喚獣ドリュアスの力で難を乗り越え3人は一息つくと

「夜が近い、今日は少しだけ進んで野営しよう」


黒雲の隙間から夕焼けの赤い光が見えるのを確認すると2人はラノアの言葉に同意した。


野営に良さげな場所を見つけ焚火を囲む。


「俺はこの年齢でこんな原始的な事をやるとは思わなかったぜ」

「嫌なら暗ーいあっちで1人で座ってろよおっさん」

「それは無理だ、俺たちは運命共同体だからな!」

「1か月ほどでハイランドベルに着くはずだ。それまでにいくつかの街がある。野宿するのは今日だけですむだろう」

「そうか!そりゃ良かった!俺意外と綺麗好きだからな」

「そんな事よりおっさんん寝首を掻こうとするなよ!怪しい動きしたらすぐ殺してやるからな!」

「殺す?それは僕だけの特権でしょ」

最後のセリフは3人が発したものではない。

数刻の沈黙が走る。


「何黙ってるんだよゴミクズども。殺すって言葉は僕みたいな高貴な存在だけが使えるんだよ」

ラノアの左後方。うっすらと笑う若い男は彼女に小さなビンを投げつけた。


ラノアは瞬時にリングシールドを作動させるとビンはシールドにぶつかり割れ、中の液体がシールドの膜にかかるとシューシューと音を立てながら蒸発し始めた。


召喚したランスロットは素早く男に詰め寄ると首目がけて銀の剣を振り下ろす。

しかし男はあらかじめ用意していたのか召喚獣の動きより先に口から「ぶーっ!」と霧状の液体をランスロットに吹きかけた。

「あっ!ランスロット!?」

ランスロットの全身からシューシュー音を立てながら蒸気が立つと体が溶け始めた。

そして10秒もすると銀の剣を落とし力を失うと消滅してしまった。


「くそが!」

ハンカーはハンドガンを男に撃ち込む。心臓に当たったのか男は少しのけぞるも

「いてー!」

と胸をさするだけだった。

「何でいきてんだよ!」


再び撃とうとするハンカーにラノアは「撃つな!」と声を上げた。

3人は少し男と距離を取るとラノアは焚火の火のついた木片を一つ男に投げつける。

しかし男は燃える事無く炎は消えてしまった。

「貴様〝酸使い〟だな?全身に酸を纏い銃弾を溶かしたのか」

「へええ!やっぱ執政官は詳しいな!僕はこの国で1人だけしかいない酸使いだ。〝酸使いグリム男爵〟だ。証拠が必要だから顔だけは溶かさないであげるよ」

「フン、堕ちたものだな男爵ともあろう者が殺し屋の真似事とは。さすが〝貧乏男爵〟」


その言葉にグリムの笑みが引きつった。

「じっくり溶かしてやる!泣き叫びながら殺してやるからなスプリング!!」







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