39話「おわり」
「サヌちゃんっ……!」
私はすぐにサヌちゃんの元へと駆け付けます。
サヌちゃんはぼーっと空を眺めていて、魂が抜けたような虚ろな表情を浮かべていました。
私がサヌちゃんの容体を心配していると、サヌちゃんが瞳だけをこちらに向けて言います。
「私は大丈夫……です……。しばらく休憩すれば動けるようにはなるので……」
「……本当にごめんなさい。こんなになるとは思ってなかった……。こんな役を押し付けておいて、自分は何も……」
「気にしないでください……。私も予測していませんでしたし……。私が協力すると言った以上、それをユガミさんが気に病む必要はありません……。それよりも……」
「……」
「アレについてはバレずに済みましたね」
アレ。
「そうだね……」
私はサヌちゃんの言うアレへと目を向けました。
目を向けたのは、校舎裏の二階と三階の窓の付近。窓の下にある、白い壁に白いガムテープで固定されていた白色のボイスレコーダーでした。
作戦はこうでした。
まず、壁の色と同化して保護色になるボイスレコーダーを、事前に壁に貼り付けます。
次に地面に座り込んで待ちます。例の女子達が来たら、受け身の姿勢で相手に自白するように頼み込みます。
当然、相手がそれを守るわけがありません。受け身の姿勢を取る私達に対して、一方的に暴力を振るってくることでしょう。
私達は暴力を振るっている間も決して立ち上がらずに、座ったり倒れたりしている状態でその暴力を受け続けます。
そうすることで、相手の視線は常に下に向き続けます。自分達の真上にあるボイスレコーダーに気付くこともなく、気分がスッキリするまで暴力に夢中になるはずです。
あわよくば、囮の役割を持つボイスレコーダーを内に仕込ませておきます。もしそれを見つけたら、相手は勝ち誇った気分になって、いよいよ他のことなんて何も考えられなくなることでしょう。
あとは録音中のボイスレコーダーを回収して、それを学校側に提出することで無実を証明する。これが作戦の全貌でした。
結果的に、すべてが敗北に終わるという最大の絶望を突き付けられることに……はなりませんでした。
まさに計画通り。サヌちゃんが想定以上に傷付けられたことを除けば、作戦はすべて順調にいっていました。
「それじゃあ、私はちょっと休みたいので、回収をお願いします……」
「分かった……。協力してくれて本当にありがとう……」
「……こちらこそです」
私はその後、それぞれ二階と三階の壁の外側に貼り付けたボイスレコーダーを二つ回収します。
音声はきっちりと録音されていて、声も内容もはっきり聞き取ることができました。
それからサヌちゃんと音声を確認して、サヌちゃんが動けるようになってから、校長先生にボイスレコーダーの一つを提出しました。
もう一つは学校側が隠蔽を企んだときのための予備です。まずありませんが、抜かりのないように念のためです。
校長先生は女子達の実質的な自白をしかと聞いて、
「これは……今すぐに当事者を呼ばなければ……!」
早速、行動に移してくれました。
私達に事情聴取を行った四人の先生が、執り行っていた業務をすべて中断して、校長室へと集められます。
そこで出てくるはボイスレコーダー。私達の無実である証拠を校長先生が全員の前に出して、音声を流します。
聞こえてくるのは、嘘が先生にバレなかったことを喜ぶ女子達の声と、罪を自白するように訴える私の声。
それから、無抵抗のサヌちゃんの首を絞めて楽しむ胸糞悪い光景が、機械を通して場にいる全員に伝えられました。
先生方は音声を聞き終えた途端、青ざめた表情で私達のほうを向いて、一斉に謝罪を始めます。
信じてあげられなかったこと。判断を間違えてしまったこと。辛い想いをさせてしまったことなど。各々が自分の言葉で、私達に謝りました。
私達は、とくに先生に憎しみをもっていたわけではなかったので、先生を許しました。
ただし、証拠不十分な状態で物事を決め付けるのは今後は絶対に行わないでほしいことや、すでに出回っている私達に関しての誤情報の払拭に全力で取り組んでほしいことをお願いしました。最低限の罪滅ぼしというやつです。
当然ながら、先生は快く引き受けてくれました。私達が元の生活に戻れるように、身を粉にしてサポートをしてくれるとのことです。
私達は何とか無実を証明することに成功して、保健室で軽く診てもらったあとに、そのまま家に帰りました。
任務完了。私達は根拠をもってついにデマに打ち勝ったのです。
労力や失敗したときに降りかかってくる災難は成功報酬には到底見合わないものでしたが、無事に事を終えることができました。
あとから先生に聞いた話ですが、私達が帰ったあとに、例の集団六人は親を含めて強制的に校長室まで集められたのだとか。
説明を行った上で、ボイスレコーダーの内容を親や先生の前で直接流されることになって……。
言うまでもなく地獄な光景であることは想像に難くないですが、自業自得なので仕方がありません。
私達の無実が学校中に公表されることで、これからはさらに悲惨な光景が待っていることでしょう。
全生徒からの不審な目。先生からの監視。自由などあってないようなものです。
学校生活は始まったばかりですが、果たしてあの集団は耐えられるのでしょうか。
(まあ、私が気にしてもしょうがないよね……)
私は、相手のことを考えるのをやめて、目の前にあるものへと目を向けます。
「……よし」
私は目の前にある自宅の扉に手をかけて、ゆっくりと開きます。
そして、元気良く言いました。
「ただいま……!」
次回の投稿は日曜日です。
次話の投稿をもって完結とします(※打ち切りではありません)
よろしくお願いします。




