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38話「作戦実行。そして……」

 その後、頭を抱えて見守っていた先生方にそれとなく咎められた後に、私達は生徒指導室に移動します。

 生徒指導室にはプリントの山が各教科ごとに分かれてありました。

 私達は先生から言われた通りに、課題を少しずつこなしていきます。こなしながら、私はある機会を窺いました。


(二人きりにならないと……)


 その機会とは、私とお姉ちゃんが考えた作戦をサヌちゃんに伝えることでした。

 作戦自体はお昼からの決行になるので急ぐ必要はありません。ですが、早く伝えるに越したことはないので私はじっと様子を見ていました。

 問題を解きながら一分ごとに辺りを見渡していると、


「それじゃあ授業があるので行ってくる。代わりの先生がすぐに来るはずだから、大人しくな」

「……」「……」


 先生が私達にそう残して生徒指導室を出ていきました。

 私は先生がいなくなったのを確認して、すぐにサヌちゃんに話しかけます。


「ね、ねえ……サヌちゃん……!」

「……?」


 サヌちゃんがこちらを向いて、


「どうかされましたか……?」


 そう返したのを聞いて、


「突然で申し訳ないんだけど、今日作戦を決行する……!」

「……!」


 私は作戦の内容をサヌちゃんに伝え始めました。

 どんな手段を取るのか。その結果何が起こるのか。想定される事態などを一切の抜け目なく話します。

 すべてを話し終えて、


「──っていう感じなんだけど、どうかな……?」


 私はサヌちゃんに訊ねます。

 サヌちゃんは、


「……はい、いいと思います。その作戦なら、うまくいけばもしかしたら誤解を解けるはずです」


 そう評価してくれました。


「よ、良かった……。サヌちゃんにもいくつか協力をお願いする形にはなってしまうけど、それは大丈夫……かな……?」

「はい、大丈夫です。どんな形でも惜しみなく協力いたしますよ」

「ありがとう……。ごめんね、私が何とかするって言ったのに。結局頼ってばかりで……」

「いいんです……! ユガミさんが私を助けようとしてくれている。その気持ちだけで私は救われてますから……」

「そ、そっか……。じゃあ、一緒に頑張ろう……!」


 私達は握手を交わして、作戦決行に改めて臨むことにしました。

 作戦が伝わったら、あとは準備を整えて行動に移すだけ。

 私達は目の前の課題を片付け続けながら、時間が経つのを待ちました。


 お昼になると昼食の時間になります。

 普段は私はお弁当、サヌちゃんはコンビニで買ったものを食べているので、生徒指導室内で事を済ませることができました。

 昼休みくらいは、生徒指導室内であれば休憩することを許してもらえたので、私はいよいよ準備を決行することにします。

 鞄の中からある物を取り出して、衣服にこっそりと忍ばせます。

 それからバレないように後退りながら、


「お、お手洗いに……行ってきて……いいですか……?」

「ああ、手短にな」


 廊下に出てある準備を行いました。

 準備が終われば、あとは作戦を実行するだけです。私達は作戦を実行する放課後まで、大人しく課題を解き続けました。


 停学処分生活一日目。ひたすら課題を解き続けることで、ようやく終わりを迎えました。

 学校では課題。家では反省文を何枚も個別で書いて提出することになっているので、停学中は延々とこれらを続けることになるでしょう。

 私達は鞄を持つと、他の生徒よりも少しだけ早く帰宅することになります。

 廊下を歩いて、靴を履き替えて。そのまま校門に向かうかと思いきや、人気のない校舎裏へと向かいました。


 私達は鞄を置いて、床にちょこんと座り始めます。


(あとは来るかどうか……)


 校舎裏。

 入学初日に彼女達が溜まり場にしようと来た場所です。

 他にたむろできる場所が少ないことと、唯一の懸念点であるサヌちゃんに濡れ衣を着せたことから、私は必ずここに来るだろうという確信がありました。

 ここを読み間違えるといよいよあとがなくなってしまうので、私は緊張しながら、「どうか来て」と懇願するように待ちます。


「それでさ〜」「うわ、ありえな……」「ひとすぎー」


 幸いにも、私の推測通りに彼女達三人組はやって来ました。

 普段と何ら変わらないおちゃらけた態度で、まるで何事もなかったかのように呑気に世間話を繰り広げています。

 そして私達を見るなり何なり、


「あれ、何でいるの? 敗者が二人して揃って」


 嘲るように座っていた私達を見下ろしながら、三人組のリーダーが話しかけてきました。

 サヌちゃんは俯いたまま何も言いません。私はリーダーの子に対して、抗議するように返します。


「何であんな嘘が平気でつけるんですか……?」

「えー? 嘘って何のことー?」

「し、しらばっくれないでくださいっ……! いきなり暴言を吐かれたって言ってましたよね……。常識的に考えて理屈が通らないはずなのに、サヌちゃんが自衛したのをいいことに泣き真似なんかして……!」

「あはは、必死だねー! でもそれってさー、結局そこのサヌちゃんが強いのがいけないんじゃないの?」

「はい……?」

「普通は私達にボコボコにされるしかないのにさ、そいつが強すぎるせいであり得ないはずの返り討ちができてしまった。現実的に考えてあり得ない状況をそいつが作り出したから、先生は私達のほうを信用したんだよ? これ、分かる?」

「そ、それじゃあっ……私達は……」

「うん! そういうこと! はなからあんた達は詰んでた。抵抗しなければボコボコに。抵抗すれば今回みたいになってたってこと!」

「そ、そん……な……」


 私は絶望します。


「いやー、ここまで想定してた私ってば天才だねー」

「嘘つけー」「絶対考えてなかったでしょー」

「あ、分かるー?」

「「「あはははは」」」


 三人組は笑い合いました。

 しばらく笑い合ったあと、


「んで、何の用なの? 邪魔なんだけど」


 リーダーが言ってきます。

 私は、


「じ、自首してください……」

「……は?」

「ちゃんと私達に謝って、先生に罪を告白してください……!」


 相手にそう言い放ちました。


「何の冗談? もしかして私達のこと舐めてる?」

「ち、違います……! サヌちゃんのこの姿を見てください……! 弱々しくやつれてしまっています……。将来的にも有望で、みんなからも慕われていたサヌちゃんが、あなた達の邪な考えによって未来を奪われるなんてあってはならないんです……!」

「……」

「だから罪を認めてください……! こんなことはもうやめて、大人しく罪を償ってください……!」


 私の言葉を聞き終えたリーダーは、


「んー……」


 そう言いながら近付いてきて、


「やだー」


 その発言と同時に、座って俯くサヌちゃんの頭を、足で蹴り飛ばし始めます。


「……っ」

「サヌちゃんっ……!」


 サヌちゃんは地面に倒れ込んで、蹴り飛ばされた箇所を手で押さえます。

 リーダーの女の子は、サヌちゃんの上に馬乗りになって、


「ばーか」


 サヌちゃんの首根っこを掴んで、徐々に力を強めていきます。

 度を超えたいじめ以外に他ならないものでした。


「がぁ゛ぁぅっ…………」


 容赦のない行動。苦しそうなサヌちゃんの声が響きます。

 私はその声を聞いていてもたってもいられずに、すぐに引き止めようとします。

 ですが、すぐに取り巻きの二人に捕まって、手を背中に回されて身動きが取れない状態になってしまいました。


「ぐぅっ……」


 私ごときの力では振り解くことも叶わず、腕を押さえつけられたまま、目の前に広がる酷な光景を見せつけられることになります。

 サヌちゃんは苦しそうにしながらも、リーダーの手首を掴んで抵抗を示しました。

 しかし、少しでも手が剥がされそうになることが分かると、追い打ちをかけるようにグッと力を入れて、サヌちゃんの首を絞める力をより強めます。


「あぁ゛っぁ゛ぁぁぁぁ……」


 急激に強まる力にサヌちゃんの手は相手の手から剥がれ落ちてしまいました。

 もはや抵抗もできずに、ただただ手が宙で震え続けていました。

 少しずつ力が弱まっていくサヌちゃんの手の力。うめき声を上げながら、次第にぐったりとし始めます。

 リーダーの女の子は、サヌちゃんの意識が落ちる寸前になるのを確認すると、


「はい、休憩入りまーす!」


 笑顔で手を上に上げて、サヌちゃんの首から手を離しました。


「けっ゛ほっっぅ……゛ っは゛っぁ……っは゛っあ……」


 ようやく呼吸することを許されたサヌちゃんは、咳き込みながら口いっぱいに息を吸い込みます。


「あはははっ。いい顔ー」


 サヌちゃんの苦しそうな顔を、リーダーの女の子は眺めて楽しんでいました。

 一方でそんな余裕が微塵もないサヌちゃんは、一息、二息と、苦しそうな顔でサヌちゃんはたくさん呼吸運動を繰り返します。

 少しして呼吸が落ち着き始めると、


「それでは本番入りまーす!」

「ぁ゛ぁっ゛……」


 またサヌちゃんの首を締め始めます。

 それを何度も繰り返して、サヌちゃんに死よりも辛い地獄を味わわせていました。

 サヌちゃんは首を絞められる度に悶えます。目に涙を浮かべて、苦しみに喘いでいました。

 しばらくそれを続けるうちに、


「よし、これくらいでいいかな?」


 リーダーはサヌちゃんの首を絞めるのをやめて、地面にくたばるサヌちゃんの顔を踏みつけます。

 踏みつけながら、


「あー、すっきりしたー! 前からやられっぱなしでムカついてたからさー、これでようやくトントンだよねー? あんまり傷付けるとバレちゃうから妥協して首絞めてみたけど、結果的に無様な顔が見られてめちゃくちゃ気持ち良かったわー」


 そんな身勝手なことを吐き捨てました。

 トントンなわけがありません。勝手に事を起こし始めて、その結果返り討ちにあって痛い目を見ただけ。

 明らかに非は向こうにあるのに、自分に都合のいいように言いました。

 最後に、


「んで、どうせこれ録ってるんでしょ?」

「……っ!」


 私のほうを見てそう言います。

 その言葉に私は動揺を隠せず、驚きを顔に出してしまいます。私の反応を見たリーダーは、


「あはっ、やっぱりー……。あんた達が無策でこんなことしないことくらいは分かってんの。で、どこに隠してるのかなー? 二人とも、よろしくね」

「「了解」」


 二人に指示を出します。

 指示を受けた二人は私の体をまさぐって、すぐにポケットの中にある黒色のボイスレコーダーを見つけて取り出しました。


「見つけたよ!」

「うん、ありがとう。一応こっちも……」


 リーダーは、死体を漁るみたいに、動かなくなったサヌちゃんの体をまさぐります。

 やがてサヌちゃんのポケットから同じく黒色の、ボイスレコーダーを見つけて取り出します。


「これで全部かな。あとはデータを消去してっと……」

「あっ……ああ……作戦……が……」

「これはもらっとくねー。色々便利そうだし。じゃあやることはやったし、二人とも帰るよー」

「ま……待っ……て……」

「ばいばーい!」「おつー!」「かれー!」


 私の悲痛の声を無視して、彼女達は去っていきました。

 濡れ衣を着せられて、一方的に暴力を受けて、挙げ句の果てに作戦を見抜かれて終わり。

 すべてが敗北に終わるという最大の絶望を突き付けられることに……

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