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34話「助け合い」

 謝罪を終えて、先生は集団にひとまず教室に戻るように告げました。詳しい話は追って連絡するそうです。


 そして残された私達。四人の先生に囲まれながら、その後も詳しく状況を追求されることになります。

 集団側の作り話をベースにされて、なぜそんなことをしたのか、知らない話について事情聴取を受けるのです。

 私は答えるにも答えられませんでした。なぜなら本当に知らないことだからです。

 嘘をつかなければ物事が終わらない状況に、私はただ無言を貫き通すしかありませんでした。


 一方のサヌちゃんは、もはや普段の様子を保つことができていませんでした。

 ずっと俯いて、ボロボロの顔で「ごめんなさい……」と繰り返し続けていました。完全に壊れてしまっていました。

 無言の私に壊れてしまったサヌちゃん。いくら強気の態度を取っても何も答えない私達に、先生達はいよいよ困り果てます。

 あまりに何を言っても答えないので、来栖先生は、


「まあ、何が起こったかは大体把握できたからな……。今はとりあえず良しとしよう。だが、謹慎期間中も生徒指導室(ここ)に通って課題に取り組んでもらう。そのときにどのみち話してもらうので、心の準備をしておくように」


 私達を想ってそう言いました。


「それと、処分は追って校長から出される予定だ。数日はかかる見込みなので、それまでは自宅待機だな。親御さんには全部説明をつけておくから、今日帰ったらちゃんと自分の口で謝罪を伝えてやれ」

「はぃ……」


 私はその場しのぎで小さな返事をします。

 サヌちゃんは相変わらず黙ったままでした。

 来栖先生は最後に、


「じゃあ、今日はしばらくこの部屋で待機だ。私は授業があるのであまりいてやれないが、時間が空いたら見に来るようにはする。あとは生徒指導室の先生の指示に従うように」


 そう言って部屋を出ていきました。

 生徒指導の先生を除いた他の先生も次々に出ていきます。

 生徒指導の先生が言います。


「今日は臨時の課題を解いてもらう。俺も今回の件で色々忙しいからたまに席を外すこともあるが、ちゃんと取り組めよ」


 私は頷きました。

 先生は私達に課題のプリントを山のように机に乗せると、用事があるからと言って部屋を出ていきました。

 ようやく二人きりになって、私はサヌちゃんに声をかけようとします。


「サヌちゃん……ごめんなさ……」


 ですがその瞬間、


「お兄ちゃ……お兄ちゃんっ……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」

「……!」


 サヌちゃんは頭を抱えて涙を流し始めました。

 そこで私はサヌちゃんから聞いた過去の話を思い出します。

 そうでした。元はと言えばサヌちゃんは、お兄さんに迷惑をかけたくないから、今の虚像を作り上げたのです。

 心配させないように、完璧な自分でいられるように並々ならぬ努力を重ねてきました。

 万一にも馬鹿にされないように学を積み重ねて、万一にも暴力に屈しないように力をつけて。

 ありとあらゆるいじめられの可能性を排除することで、今日までサヌちゃんは完璧を保って生きてこられたのです。

 すべての原点はお兄さんにあり。そのお兄さんに迷惑がかかってしまう事態に陥ったことで、サヌちゃんは虚像を保てなくなってしまいました。


(どう……しよう……)


 私はそんなサヌちゃんにかける言葉が見つかりませんでした。

 私のせいで、サヌちゃんは罪を認めることになってしまったからです。

 まだ何も恩返しができていません。サヌちゃんと向き合えるだけの条件を満たしているとは、とても思えませんでした。

 私は申し訳なさを抱えたまま、黙って俯き続けました。


 その後はずっと課題に取り組んでいました。

 心境が心境だったので、私もサヌちゃんも筆記用具を手に取ったままペンがまったく進みませんでした。

 先生がいることはほとんどなかったので、気まずい空気の中で己の中の感情と向き合い続けていました。


 数時間が経過して、もうすぐ生徒が帰り始めるくらいの時間になった頃。


「それじゃあ気を付けて帰れよ。くれぐれも寄り道はしないように。注目の的だからな」


 私達は生徒指導の先生にそう言われて、二人一緒に帰ることになりました。

 人気のない廊下を歩いて、靴を履き替えて少し歩いて校門を出ます。

 どちらも無言の状態で、私達は住宅街の中を歩き始めました。


(これからどんな生活が待ってるんだろう……)


 順風満帆だった生活は、一つの出来事を機にひっくり返ってしまいました。

 残されたのはたった一つの茨の道。そこに光など毛頭ありません。

 私があのとき頭なんて下げなければ……。私はその気掛かりを胸に、サヌちゃんに話しかけようとします。

 この機会を逃せば、数日は自宅待機になるので会うことは叶いません。


 私は何度か声を詰まらせながらも、サヌちゃんに向けて声を出しました。


「さ、サヌちゃんっ……」

「……」


 サヌちゃんは怯えたような表情をしながら、目だけをこちらに向けて反応を示します。

 私は体を丸めながら、


「ごめんなさい……私のせいで……。私が謝らなければ、まだ何とかなったのに……」


 想いを伝えました。


「……」


 サヌちゃんはそれを聞いてしばらく黙り込んでいましたが、少しして俯きながら言います。


「ユガミさんは悪くないです……。無実を証明できなかったのは私の責任ですから……。私がもっとしっかりしていればっ……私がもっとちゃんとしてたらっ……」


 サヌちゃんはその先の言葉を紡ぐことができずに、再び頬を涙で濡らします。

 いつになく弱々しい姿で、次第に泣き声は大きくなっていきました。


(……)


 これがサヌちゃんの素なのでしょう。

 本当は誰よりも臆病で、臆病だからこそ自分を偽り続けて。

 苦手なことと向き合って完璧になっただけの、ただの普通の女の子。

 偽りが解けた今のサヌちゃんには、独特な雰囲気な余裕さは欠片もありません。

 それはまるで、七年前のあのときのような……。


(助け合い……しなきゃ……。今度は私が……)


 私は使命感をもって握り拳を作ります。

 申し訳なさを感じている場合じゃない……! 私がサヌちゃんを助けるんだ……!

 そんな気持ちで、


「サヌちゃん……。私が……今度は私が何とかしてみせる……! サヌちゃんに足りなかった残りの分を、私が埋める……! またサヌちゃんが笑顔になれるように頑張る……。だから、待ってて……!」

「……!」


 私は決意を表明します。

 サヌちゃんは、


「もう……無理ですっ……。何もかも終わってしまったんです……。やること全部やっても届きませんでしたっ……。今さらなにをやったって……」


 普段とは真逆の弱音を返してきました。

 私は、


「……!」


 荷物を手から離して、サヌちゃんを力の限り強く抱きしめます。


「えっ……?」


 サヌちゃんの背中の周りを腕で覆って、サヌちゃんの瞳を覗き込むように直視します。

 サヌちゃんは困惑していました。私はそんなサヌちゃんを見上げながら、


「諦めないよっ……! 今からだってできることはある……! サヌちゃんはただ待ってくれればいいの……。私が必ず何とかしてみせるから……!」

「……っ」


 強気な態度を示して、サヌちゃんに言い放ちました。

 サヌちゃんはその言葉にさらに刺激されて、ポロポロと涙を落とします。

 震えながらも、自然と腕を私の背中に回し始めていて、サヌちゃんは身を完全に私に預けていました。

 私達はお互い抱き合ったまま、ずっとそうしていました。

 私が温もりを与えると同時に、サヌちゃんの温もりを布越しに感じ取ります。サヌちゃんが安心できるまで、私は強く抱き続けました。


 しばらくして、体の震えが収まったサヌちゃんは、


「ありがとう……ございます……」


 そう言って、私の体から手を離します。

 私も抱き付くのをやめて、サヌちゃんに言葉をかけました。


「怖くなったら私がいつでも抱きしめてあげる……。一時間後でも、真夜中でも。そして自宅待機中でも。だから心配しないでね……」

「は、はい……。ありがとうございます……」


 私は荷物を手に持って、サヌちゃんと共に歩き始めます。


「でも……できるのでしょうか……? ここから元の生活に戻れるとはとても……」


 私は返します。


「できるかは正直分からない……。それでもやるよ……。誤解を解くために、私はあらゆる手段を尽くす……」

「具体的には……?」

「こ、これから考える……」

「…………」

「ごめん……。ただ、困ったときは助け合い、それが約束だったよね……。これまでは私ばっかり助けてもらってた……今度は私がサヌちゃんを助ける番……。根拠のない自信で申し訳ないけど、最後には絶対サヌちゃんを幸せにしてみせる……! だから……その……信じてくれると……嬉しい……かもっ……?」


 最後は自信なさげに呟いてしまいましたが、それでもサヌちゃんは、


「……分かりました。ユガミさんのこと、信じてます……。頑張ってください……!」


 少しばかりぎこちない弱々しい微笑みを浮かべて、そう言ってくれました。

 私を信頼してくれているからこその反応でした。心が弱っているでしょうに、わざわざ笑顔で答えてくれたのです。

 ならば期待に応えなければなりません。私は同じく微笑みを返して言いました。


「うん……頑張る……!」


 私達はお互いに作り笑顔で微笑み返しました。

 そして歩き続けて、サヌちゃんの家の前へと辿り着きます。


「じゃあ、また……」


 私が言うと、


「…………」

「……?」

「……!」


 サヌちゃんは、門を開ける直前で最後に私にもう一度抱き付いてきました。よほど不安だったのでしょうか。

 自身の体面積を余すことなくひっ付けてきて、できる限りたくさんの温もりを感じようとしていました。

 私は、そんなサヌちゃんにハグを返しながら、頭を撫でます。私が今サヌちゃんにしてあげられることは、たったこれだけです。

 でも、たったこれだけでサヌちゃんのお役に立てるのです。私はこれ以上ない満足感を覚えました。

 それからサヌちゃんは家の中へと入っていきました。私は扉が完全に閉まるのを確認して、再び歩き始めます。


(今のサヌちゃんなら、きっと大丈夫……)


 さて、私もこれから私はたくさんやらなければいけないことがあります。

 サヌちゃんすらも成し遂げられなかった無実の証明。不可能に近い罪の払拭。最後にサヌちゃんの笑顔。

 約束を守るためにも、精一杯頑張る必要があります。サヌちゃんのことだけを考えて、必ずサヌちゃんを安心させてみせます。

 私は覚悟を決めながら帰路に着きました。

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