32話「真実」
「私はその日、ユガミさんのお家でお泊まり会をする予定でした。家でお絵描きをして遊んだり、かつての母校にお邪魔させていただいたりしていました。そして学校からの帰り道で、集団と鉢合わせすることになりました」
先生がそれに返します。
「鉢合わせ……。話の途中で悪いがいいか?」
「はい、何でしょうか」
「集団側も二人が待ち構えるようにと言っていたが、お前達は互いに面識でもあったのか? 説明の限りだと、お前達は相手を前から意識していたことになるのだが」
サヌちゃんは一切言葉を詰まらせることなく正直に答えました。
「はい。実のところ、入学式の日にも私はそこの女子三名と鉢合わせしたことがあるのです。長くなるので簡単な説明にはなりますが……。ここにいるユガミさんが、校舎裏でそこの女子三名に詰められていました。理由は分かりませんが、とにかくユガミさんが暴力を振るわれかける事態に陥っていたのです」
「それでどうなったんだ?」
「それを偶然見かけた私が、ユガミさんを助けるために暴力をもって彼女等を追い払いました」
「……」
「黙っていて申し訳ありません」
「……言いたいことは山ほどあるが、それはあとにしておこう。で、そんな因縁があってばったり出会ってしまったと?」
サヌちゃんは話を再開します。
「いえ、ボコボコにしにきたと向こうが出会い頭に宣言してきましたね。この一週間あとをつけて家を特定したから待ち伏せをしたそうです。そして男子の一人が、『今から私をボコボコにするけれど、もしかしたらいけないところを触ってしまうかも』とわいせつな発言をしながら近付いてきました」
「……」
「そこで身の危険を感じた私は、やむを得ず顎を殴って気絶させることになります。一人倒すと、今度は二人の男子がきたので、その二人も倒しました。あとは残った女子三名を倒すだけです。途中、ユガミさんを人質に取られたりもしましたが、ユガミさんの自己犠牲精神のおかげで何とかなって、全員返り討ちにすることができました。以上です」
「…………」
サヌちゃんは説明を終えました。
個人の感情を極力交えずに、淡々と事実だけを述べます。そこに嘘は一つも交えられていません。
先生はしばらくの間黙り込んで、また少しして口を開きます。サヌちゃんに問いかけました。
「全員を返り討ち……。まったく現実的ではないが、それは本当に可能なのか?」
サヌちゃんが返します。
「はい、可能ですよ。私も彼等彼女等も似たような主張しているので、すべて事実となります。私は身を守る術に長けているのです」
「そうか……。じゃあ二人があのときボロボロだったのは、集団側から焔を人質にされたからということか?」
「……!」
先生の口から発せられたのは、先生が知る由もないその日の状況でした。
サヌちゃんは目を見開いて、それからすぐに返します。
「……そうですが、なぜ先生がそれをご存知なのでしょうか?」
先生は、
「ああ。ここまで意図的に情報を伏せさせてもらったのだが、実は現場を目撃していた生徒から証拠の映像を渡されていてな。ひとまずこれを見てくれ」
そう言って私達生徒にその映像を見せました。
その映像には、サヌちゃんが逃げ腰になっている女子生徒二名を一方的に蹂躙する様が映っていました。
サヌちゃんの服はたしかに汚れていました。途中からの映像になるので、これだけではサヌちゃんが悪者のようにも捉えることができてしまいます。
サヌちゃんに関して悪い噂が立っていたのは、目撃した生徒がこの映像の辺りからしか見ていなかったからなのでしょう。
これではサヌちゃんが一方的に悪者扱いされてしまうのも無理はありませんでした。
最後に、サヌちゃんがひたすら女の子を意識がなくなるまで殴り続けて、サヌちゃん自身もその場に倒れたところで、映像は途切れました。
先生が言います。
「まあこういうわけだ。それ以前のことはまったく分からなかったのでこうしてお互いから聞いてみたわけだが……。正直、どちらもこの映像に至るまでの辻褄は合うといえば合う。つまり、どちらかの嘘を私達は見破らないといけないわけだが……。不甲斐ないことに私の手には余るようだ」
「……」
「今の話を聞いて、他の先生方はどう思いましたか? 良ければ意見をいただきたいのですが」
来栖先生が他の三人の先生に問いかけます。
生徒指導の先生は、
「難しいな……。だが、俺としては来栖先生の答えづらい質問にも一切躊躇することなく答えられた清水香のほうが信じられるような気はする……。作り話だったら、あんなにパッとは答えられないだろうしな……」
「……!」
(や、やった……。これなら……)
私は心の中で歓喜します。
しかし、その一方で他の二人の先生は、
「いやいや、でもあの清水香さんですよ? 新入生代表を務めていて、文武両道で頭が超キレる本校始まって以来の天才。これくらいのことは事前に想定していてもおかしくはない。はっきり言ってその結論は間違っていると思います」
「ですよねぇ……。こんな状況で顔色一つ変えることなく話し切る。逆に怪しさ増し増しですよぉ……。これなら、集団側みたく感情が昂っちゃうほうが私は正常だと思いますけどねぇ……?」
「……!」
私達のことを疑っている様子でした。
しまいには、
「う、うむ……。まあ、たしかに校舎裏で他生徒をボコボコにしたことを隠してたくらいだしな……。何を考えているか分からないし、申し訳ないが、少なくとも集団側に嘘をつけるだけの機転はなさそうだし……」
「……っ」
生徒指導の先生まで向こう側についてしまいました。
私は途端に焦りを覚えました。どれだけ本当のことを述べたって、それが相手に伝わなければまったくの意味がありません。
嘘泣きまでして感情に訴えかけた集団側の策略が、ここにきて功を成し得ようとしているのです。
焦っていたのはサヌちゃんも同様のようで、
「あの……。何を考えているか分からないとか、私が新入生代表だからどうとかって、あまりに私に対する見方が悪すぎやしませんか? 公平に判断いただくのは当然として、おかしくはないとか。思いますだとか。主観まみれの憶測で語らないでいただきたいのですが……」
必死に抗議をしていました。
側から見れば冷静を装えてはいますが、内心穏やかでないのは確かでしょう。
ですが抗議も虚しく、
「んー……そう言われましてもぉ……。自分達の身を守るだけで十分なのに、必要以上に相手を追い詰めてボコボコにする人を公平に見るなんてとてもできませんよねぇ……? 証拠として残っているのは、あなたが不必要に相手を痛め付けている部分だけなんですよぉ……。これを元に考えるならば、集団側の意見を中心に取り入れてしまうのも無理はありません……。ご理解いただけますかぁ……?」
先生側からの返しにすべてかき消されてしまいました。
こうなれば返しようがありません。なぜなら、必要以上に相手を懲らしめてしまったのは事実なのですから。
サヌちゃんは感情を押し殺しながら、
「はいっ……」
悔しそうに返事をしました。
「ご理解いただけて何よりですぅ……。学校側はこれでも最大限あなたに寄り添っているのですよぉ……。分かってくださいねぇ……」
「…………」
そのまま一連の話は終わり、その場には静寂が流れます。
様子を見て、来栖先生は言いました。
「──では、結論を出そうか」




