29話「決着」
戦いが終わって、辺り一面が静かになります。サヌちゃんは大きく息を吐いて、その場に仰向けにごろんと寝っ転がりました。
「久々に冷や冷やしました……」
さすがに疲れたのでしょう。あんなに殴られたあとで無事なはずがありません。
私は急いでサヌちゃんのもとへと駆けつけようとしますが……
(あ……れ……?)
体が思うように動かず、サヌちゃんの近くにきた段階で同じくずっこけて、仰向けに寝っ転がってしまいました。
どうやら私もすでに体が限界を迎えていたようです。道のど真ん中でみんながみんなくたばって、各々の景色を見ていました。
今はアドレナリンでも出ているからかあまり体は痛くありませんが、直に数日間は日常生活に支障をきたすほどの全身の痛みが襲ってくることでしょう。
私が青空を眺めていると、サヌちゃんが話しかけてきます。
「お疲れ様です……。よく頑張りましたね」
私は返しました。
「う、うん……。一番頑張ったのはサヌちゃんだけど……」
「いえいえ、私にとっては単純作業でしかないので……。私がユガミさんなら、覚悟を決めてあんな行動を取ることはできませんでした。本当にすごいです」
「…………」
私はその賞賛を素直に受け取ることはできませんでした。
対等な関係を築いていこうとは思いつつも、やっぱり心のどこかでは私をサヌちゃんの手で裁いてほしいと感じていたのです。
集団から暴力を振るわれたときも、それをサヌちゃんからの復讐と捉えたからこそ耐え切ることができました。
隠していても仕方がないので、私はそれを打ち明けることにします。
「サヌちゃん……」
「ん、何でしょう?」
「私は……サヌちゃんと仲良くありたい……。けれど、これからもサヌちゃんと対等に接せられる自信は……私にはない……」
「……なぜでしょうか」
私は答えます。
「さっきもね……あの人達から受けた暴力を、サヌちゃんからの罰だと思い込むことで乗り切れたんだ……」
「……!」
「私もサヌちゃんと対等な関係でいたいよ……。でも私は……本当は心の奥底ではサヌちゃんとの上下関係を望んでるみたい……。迷惑をかけてしまった分、自分にもたくさん迷惑をかけてほしい。それが私の理想……」
「……」
「私とサヌちゃんの理想の形が異なる以上、私が歩み寄ってもサヌちゃんの理想を満足に叶えてあげることはできない……。それだけはどうしても伝えなければいけないと思った……。本当に……ごめんなさい……」
「…………」
サヌちゃんは、しばらく黙ったまま何も言いませんでした。
何かを考え込んでいるのか、じっと空を見つめて、何もしないまま時間が経ちます。
私はサヌちゃんの口が開くのを待ちました。答えが待ち遠しくあると同時に、答えがこないこの時間に安堵してもいました。
ですがその時間は永遠には続きませんでした。サヌちゃんはいよいよ口を開きます。
「そうですか……」
「……!」
私はごくりと唾を飲み込んで、その答えを耳に入れました。
「よく分かりました。ユガミさんのお気持ち……。そうですよね……。ユガミさんの立場からすれば、私と対等でいたいとはとても思えないですよね……」
「……」
「どうしても……申し訳ない気持ちが拭えないんですよね……。でも、罵倒されたり暴力を振るわれたりして、本当にユガミさんの心は満たされるのでしょうか……? 辛くはありませんか……?」
私は返します。
「うん……辛くないよ……。サヌちゃんから罰を受けられるなら、それが私の最大の幸せ……。私という存在が蔑ろにされて初めて、私は後ろめたさを感じずに生きられる……。本望だよ……」
「……」
サヌちゃんはそれを聞いて言いました。
「では、そうしましょう……」
「……え?」
「蔑んだり、暴力を振るったり……。ユガミさんの心を満たしてあげられるように、努力していきます」
思いもよらない返答に私は、
「ど、どうして……? サヌちゃんが私なんかのためにそこまでする必要は……」
サヌちゃんが答えます。
「理想が異なるということは、当然物事における価値観も違うということです。そんな状態で私の理想を追求しても、ユガミさんの理想は一生叶いません。言いましたよね、私は対等な関係を築こうと。私の理想だけを追い求めるのは、対等ではありません。であるならば、あなたにとっての対等を実現しなければ……双方が双方の理想に歩み寄らなければなりません。ですから、私もあなたの理想に応えます……!」
サヌちゃんはそう言って体を起こします。
指の先一つすらまともに動かせない私の顔を覗き込みながら、
「い、いきなりは無理ですけどね……。それでも、少しずつユガミさんを満足させてあげられるように頑張ります……。ユガミさんの理想が叶ったなら、そこから改めて対等な関係を築きましょう……!」
微笑んで言いました。
いつものとも違う本心からの笑顔。私はそれを感じ取ることができました。
私も、
「サヌちゃん……」
まだ少々ぎこちない。けれども本心からの笑顔で、
「うん……!」
そう返しました。
私はそれからサヌちゃんにゆっくりと体を起こしてもらい、立ち上がりました。
歩くどころか、立つことすらもままならないので、サヌちゃんの肩を貸してもらいます。
「では帰りましょうか。ユガミさんのお家へ」
「うん……」
私達は倒れた六人を背に、家に帰るのでした。
「そ、そういえば……お母さんとお姉ちゃんにどう言い訳しよう……。バレたら確実に問題になるだろうし……」
「ああ……。たしかに、私としても優等生のイメージが崩れるのは勘弁願いたいものですね」
「ど、どうしよう……! 絶対隠し通せないよっ……!」
「大丈夫です。名案があります」
「え、名案……? ど、どんな……!?」
「校庭で疲れてぶっ倒れるほどサッカーで遊んでいたことにすればいいのです」
「…………」
「転けたりボールがぶつかったりすればなくはないですよ」
「いや、ない……。何から何までない……。終わった……」
結局、私達はろくな言い訳も考えられずに家に帰りました。
案の定、衣服が汚れていることに驚かれることになり、私は「遊んでいる最中に転んじゃって……。運動場だから余計に……」と苦し紛れに嘘をつきました。
確実にバレるかと思いましたが……
「あらら……怪我は大丈夫? かなり汚れてるみたいだし、二人とも先にお風呂に入っちゃってね」
意外とバレませんでした。
サヌちゃんがいたからでしょうか。何はともあれ、最大の難を逃れることができたので良しとします。
私達はお風呂に入ることになったので、着替えなどを取りに部屋まで行きます。
用意などはサヌちゃんのほうで済ませてあるらしいので、あとは入る順番を決めるだけ。やっぱりここは私が譲るべきでしょう。
私はサヌちゃんに言います。
「じゃ、じゃあ……お風呂先に入って……。私は待ってるから……」
しかし返ってきた答えは、
「え、一緒に入るのでは?」
「へ……?」
想定外のものでした。
「一緒に……? な、何で……?」
「『二人とも先に入って』と言われたので。私は一緒に入るのだと解釈しました。それに、汚れた格好のままいられるより、まとめて風呂に入ったほうが向こう的にもありがたいでしょうしね」
「で、でも……」
「時間短縮にもなりますしね」
「その……」
「時間短縮にもなりますしね!」
「あ、ああぁぁ……」
一難去ってまた一難。
無理難題に近い試練が、まだまだ私を待ち受けているようです。
私達は、その後も続くお泊まり会を、ハプニングもありつつ満喫しました。
これにて三章完結です。
四章の構想自体はまだ完璧にはまとまっていませんが、あと一章で必ず完結させます。




