28話「報復 その3」
「ふ……ふふっ……ぁはははっ……! あっはははははははははっ!!!!」
「「「「……!」」」」
その場にいる全員の視線が一斉に私のほうに向きます。
決して騒がしくはなかった場に私の笑い声が響き渡って、より一層静まり返るのが自分でも分かりました。
リーダーの女の子が驚きで攻撃を一旦中断して、ドン引くように笑って言います。
「大丈夫? 狂っちゃった?」
私は返しました。
「私は元より狂ってますよっ……! 私はすでにおかしいんですっ……! だからぁ……」
私は持てる限りの力を使って、自身を縛るその手を振り解こうと暴れます。
「全力で抵抗しますっ……!」
「なっ……こいつ……!」
私ごときの力では当然振り解き切ることはできません。
それでも、彼女達の手を煩わせることくらいは可能です。ジタバタと暴れられるのは押さえている側としてはストレスでしょう。
私の側にいた女の子は、
「う、動いたら殴るよ! 二度と立ち上がれないようにするけどいいの!?」
何とか静止しようと脅しをかけてきます。
私は、
「はい、構いません! お好きなだけどうぞ! 顔でも肩でもお腹でも! 何なら……」
脅しに屈することなく、
「やれるものならやってみろ、です……!」
そう言い放ちました。
「ふっ……ざけるなぁっ……!」
女の子は私の煽りを真に受けたようで、怒号を飛ばしながら羽交い締めにされた私のお腹を強く殴ってきました。
「……っ」
お腹に突如走る強い衝撃。私は初めて知るその痛みに悶絶しそうになります。
不快感の混じった、お腹の中にぽっかりと穴を開けられたのではないかと錯覚するような感覚。
私は今すぐに倒れ込みたくなるくらいの辛さを抱えることになりました。
それでも私は、
「ふへへっ……あははははははっ……!」
「……!」
笑い続けました。暴れに暴れて、抵抗する意志を示し続けました。
笑い続けられたのは、自身にかけた暗示が機能していたからでした。
この痛みはサヌちゃんをいじめた罰である。そう思い続けることで、私はこの痛みを幸福として何とか享受することができました。
痛い、気持ちいい、痛い、気持ちいい。気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。
(幸せっ……!!!!)
私は心の底から笑って、殴られたあととは思えない笑顔を見せました。
「気色悪……!」「何こいつっ……!」「やばいって……!」
女子達がいよいよ本当にドン引きし始めて、気味の悪さから私を殴り始めます。
顔、肩、胸、お腹、腕、太もも。前面に見える隅から隅まで殴って殴って殴られます。
一発一発の痛みを、私は噛み締めるように味わって、決して笑顔を崩さずに笑い声を漏らし続けました。
(ああ、これだ……! これが私の罪なんだ……!)
サヌちゃんは優しすぎるんです。
私のことを殴りも蹴りも首を絞めてくれたりもしません。
要領が悪いとか生きる価値がないとか、私を罵ることだって、お友達になってからはしてくれなくなりました。
私はそれが申し訳なくて仕方がありませんでした。いくらサヌちゃんがそれを良しとしても、私は嫌でした。
だからこそ嬉しかった。サヌちゃんから直接暴力も暴言も受けられないのは少し残念ではありましたが、ようやく罰を与えられている気になれて、とっても嬉しかったんです。
女の子は、散々暴力を振るったせいからか、しばらくして息を切らして殴るのをやめました。
散々暴力を受け止めた私は……
「ふふっ……ふふふふっ……!」
相変わらず笑っていました。
先ほどまで感じていた恐怖が嘘かのように、私の心は満たされていました。
痛いです。本当はすっごく痛いです。泣きたいですし逃げたいですし早く終わってほしいです。
でもそれ以上に嬉しいです! 気の持ちようだけでまさかここまで変われるとは思いませんでした。
体が限界を迎えない限りは、いつまでも笑い続けられることでしょう。
もっともっと殴られて、私は幸せに…………
(あ、違う……)
私はハッとして、冷静になります。
そうでした。私は罰を受けるために変わろうとしたわけではありませんでした。
本当に私がしたかったのは、もっと別にあります。私はサヌちゃんのほうを向いて、大きく声を上げました。
「サヌちゃん……! 私、大丈夫だよ……! 殴られても平気……。だから、私のことなんて気にせずに、自分のことに集中して……! が、頑張って……!」
「…………!」
サヌちゃんはその言葉を聞いて、大きく目を見開きます。
一方的に暴力を受け入れるしかなかったサヌちゃんが、少しずつ体を起こし始めました。
「な……こ、この……!」
リーダーの女の子は立ちあがろうとしたサヌちゃんを殴ろうとしますが、
「ん……」
サヌちゃんはそれをあっさりと手で受け止めました。
サヌちゃんは、その受け止めた手をがっしりと掴んだまま、相手の懐に潜り込みながら、
「はっ……」
体重の乗った重い一撃を、女の子の脇腹目掛けて打ち込みました。
「がはっ゛……!」
女の子は、たった一撃でしばらく立ち上がれなくなるほどの痛みを負いました。丸まり込んだまま、言葉も発さずに俯き震えます。
サヌちゃんが言いました。
「本当にこのままやられるかと思っていました。まさか、ユガミさんがあんなに強いだなんて……」
サヌちゃんは苦しみ悶える女の子を仰向けにして、喉を靴のつま先で勢い良く突き刺します。
喉を突かれた女の子は意識を落として、そのまま動かなくなりました。
残った二人のほうを向いて、微笑みながら続けます。
「嬉しい誤算ですね。私もそれに応えなければなりません。いきましょうか……」
「ま、待ってぇ……!」「い、嫌だぁ……!」
残った二人は、自分の行く末がどうなるかを自覚して、恐怖に支配されてしまいました。
もはや側にいる私の存在すら忘れている様子で、ガタガタと震えながら本能的に逃走を始めようとしていました。
しかし、サヌちゃんを目の前にして逃げ切れるわけもなく……
「逃げないでください。ここまできて……。ちゃんと倒しますから、ご安心くださいね」
「ひ……ひぃ……!」
サヌちゃんは相手の進行方向の先に現れて、まっすぐ向かってくる相手の頭蓋に蹴りを加えて、地面に叩き落とします。
「うっ゛……」
残されたもう一人は、自身がもう逃げられないことを悟って、その場に伏せて震えていました。
サヌちゃんはそんな一人を見下ろしながら、
「何度来ても結果は同じのようですね。これに懲りたら、大人しく学生生活を過ごすようにしてください。いいですか?」
握り拳を作って話しかけました。
相手は、
「ゆ、許して……! 許してくださいっ……!」
泣きながら懇願を始めます。
サヌちゃんは最後に、
「はい、許しません」
そう呟きながら、拳を強く振り下ろしました。
相手の意識が落ちるまで何度も何度も。作業をこなすように淡々と殴り続けました。
少しの間、拳が服の布を巻き込んで肌にぶつかる音と、女の子の痛みに苦しむ声が微かに響き続けて、やがてどちらも音がピタリと止みました。




