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27話「報復 その2」

 急所を的確に突かれた彼等は、痛みに悶えながらその場に倒れ込みます。

 痛む箇所を押さえて、完全に動けない状態になってしまいました。


「ふう……」


 サヌちゃんがほっと息を吐くと、


「なっ……なな……何でっ…………!?」


 リーダーの女の子が叫びます。


「何で……とは何のことでしょうか?」

「おかしい……! おかしい絶対にっ! いくら何でも一人で男子三人を倒すなんてありえないからっ……!」

「……ありえないと言われましても、実際そうなっているので仕方がありません。事実を感情でねじ曲げることはできませんよ?」

「それくらい分かってる! でもおかしいでしょっ!? 何でそんなに強いのよっ!」


 女の子の返答に、サヌちゃんは答えました。


「鍛えたから……でしょうか? もしこんな事態になったとしても対処できるように、私は最低限いじめられないための努力を積み重ねてきました。来る日も来る日もトレーニング。自分を守れるように頑張りました。その結果がこれです」

「はっ……?」

「いじめられないための努力を行なった結果、集団に囲まれても一般人相手なら問題なく全員倒せるくらいには強くなったのです。ですから、私が負けることはありません。私の実力を見誤りましたね」

「嘘……でしょ……」


 残された女子三人組が、途端に絶望し始めます。

 絶対に勝てると確信して挑んだ戦い。希望が潰えたリーダーの子が、頭を掻きむしりながら歯軋りをして怒りを露わにします。


「ああああああっ゛!!!! 何で何で何で何でっ……!? 人間じゃないでしょっ!? あんなの化け物じゃないっ……! くっそぉ……!」


 勝利を確信して調子付いた頃とは違って、追い詰められて獣のような鋭い目つきをしていました。

 側にいる二人の女子も、悔しさを前面に押し出ていました。

 サヌちゃんはそんな彼女等に言葉をかけます。


「では終わらせましょうか。報復の野望は潰えることになりますが、大人しく諦めてください」

「くっ……」


 女子達は、ぐっと腕を握って待ち受ける運命に忌避感を覚えていました。

 私はそんな光景を見て思います。


(すごい……六人相手に圧倒しちゃうなんて……)


 相手の油断もあったとは言え、体格差のある三人を一切攻撃を喰らうことなく完封。

 そして残ったのは、前にも一度返り討ちにしたことのある女子達。

 こうなれば、たどる道はもはや決まったも同然です。ボコボコにされることなく、無事に終わることができます。

 当初は絶望視していた未来が、サヌちゃんの努力によって切り開かれたのです。

 サヌちゃんは歩き始めて、少しずつ彼女等に近付きます。女子達は頭を抱えていました。

 しかし、サヌちゃんとの距離が半分ほど縮まったとき、リーダーの女の子が突然はっとして、それから笑みを浮かべ始めます。


「ふふっ……あはははっ……」

「……?」


 奇妙な行動に、サヌちゃんは一度足を止めます。

 女の子は少しの間笑い続けると、隣にいた二人にあからさまに耳打ちをします。

 何かを聞いた二人は、呼応するようににやりと笑みを浮かべて、構えを取りました。


「いくよ、二人とも!」

「うん!」「任せて!」


 三人はタイミングを見合わせると、一斉に駆け出しました。

 サヌちゃんは少し呆れながら、


「何人で来ても結果は変わらないのですが……」


 同じく体勢を取って、三人の猛攻撃を対処する準備を始めました。

 三人は前方向から囲むようにして突っ走って、そして……


(え……?)


「今だ……!」

「なっ……!」


 何と二人がサヌちゃんを無視して、まっすぐ私のもとへと向かってきました。

 予想だにしなかった行動に、サヌちゃんは目を見開いて冷静さを崩します。

 しかし、ただ一人残ったリーダーの女の子がそんなサヌちゃんを狙って、


「行かせないに決まってんでしょ!」


 飛びついて上半身にしがみついて、完全に身動きを封じました。


「くっ……!」


 下手に攻撃を仕掛けても容易く対処されると分かっての行動。

 身動きさえ封じればサヌちゃんは私のことを助けることができません。

 たとえ自分を犠牲にしてでも、サヌちゃんに一矢報いようとする強い意志が感じられました。

 取り巻きの二人はそのまま私を囲んで、一人が私を羽交い締めにして、もう一人が拳をチラつかせてきます。


「ひっ……」


 私は突然訪れた絶望の状況に涙目になってしまいます。

 私ごときではこの二人をどうすることもできません。返り討ちにするどころか、力をいっぱいに込めたところで、まったく振り解くことはできないでしょう。

 サヌちゃんが身動きを封じられているなかで、リーダーの女の子が言いました。


「まんまとかかったわね……! もしあんたがあのノロマを少しでも助けに行こうってのなら、迷わずあの二人が再起不能にするまでボコボコにする……。あいつがどうなってもいいのかなあ?」

「……っ」


 サヌちゃんは脅しのせいで、しがみついてくる女の子を振り落とすことができませんでした。

 女の子は、


「もしあいつを無事に家に帰したいならさ、分かってるよね?」

「…………」

「殴らせてよ、私の気の済むまでさ。一切の抵抗なくあんたは受け入れる。分かった?」


 サヌちゃんは、


「分っ……かり……ましたっ…………」


 隠しきれていない怒りをむき出しにしながらも、屈辱をしまって女の子の言葉を呑みました。


「あはっ、いい気味! まあ嫌かもだけどさ、大人しく諦めてねー?」


 女の子はサヌちゃんから降りると、動かないサヌちゃんのお腹の辺りを服の上からさすり始めます。


「うんうん、抵抗できなくて悔しいね? 自分よりも圧倒的によっわい私に手玉に取られるってどんな気持ちなのかなー?」

「…………」

「あんたの無様な泣き顔。写真に残して額縁にでも飾ってあげる。楽しみにしててね!」


 しばらくさすると、女の子はその手のひらで握り拳を作って、


「喰らえ……」


 勢い良くサヌちゃんのみぞおちに拳を沈めました。

 容赦のない一撃がサヌちゃんに襲いかかって、サヌちゃんは思わず声を漏らします。


「……ぅあっ゛」


 前のめりになってお腹を押さえます。

 辛うじて立てていましたが、かなり痛そうでした。

 女の子はサヌちゃんを見て、


「へえ、まだ立てるんだ。まああんたかなり化け物染みてるもんね。でも苦しそう……。良かった! まだまだいくよ!」


 サヌちゃんの押さえる手を剥がして、休む間もなく二発目をまったく同じ箇所に沈めました。


「あぁっ゛ぅぅ……」


 サヌちゃんは痛みに耐え切れず、ついにその場に前のめりになって倒れ込んでしまいます。

 俯いて、相手の女の子に(ひざまず)くような体勢で、痛むみぞおちの辺りを必死に押さえていました。

 女の子は、そんなサヌちゃんの後ろに回り込んで、今度は背中を足で押しながらサヌちゃんの髪を全力で引っ張り上げます。


「痛いね……! 痛いよねー……!」


 そう言いながら、女の子はどんどん暴力行為をエスカレートさせていきました。

 数十秒以上髪を引っ張り上げられてうつ伏せになったサヌちゃんの脇腹を、振り上げるように全力で蹴り。

 蹴りの勢いで横たわったサヌちゃんのお腹を何度も蹴って、頭を踏みつけます。

 何度も何度も踏みつけられているうちに、サヌちゃんの綺麗な髪や服が次第に汚れていきました。

 サヌちゃんの表情も、すでに完璧さとは程遠いものになっていて、ぐちゃぐちゃで苦しそうな姿に様変わりしていました。


 私はそんな光景を羽交い締めにされながら、目の前で見せつけられ続けます。


(そんな……私のせいで……)


 私がいなければ、とうにサヌちゃんは勝っていました。

 私がすくむことなく逃げていれば、あるいは私が強ければ、こんなことにはなっていませんでした。

 サヌちゃんは今、私のせいで苦しめられているのです。


「ねえ……」

「……!」


 私が自分の弱さを自覚していると、私を捕まえていた女の子が、腹立たしい笑顔を見せながら私に話しかけてきます。


「全部お前のせいだよ。お前が足を引っ張ったからこうなった。わざわざ私達を助けてくれてありがとね?」

「あ……ぁぁ……」


 他人から言葉を突き付けられて、改めて再認識します。

 私は誰かに迷惑をかけることしかできないのだと。自分には誰かを救う力はないのだと。

 何もできない。何もできない。とにかく何もできない。足を引っ張ってマイナスを生むしかできない不必要な存在。

 そういうものに私は……


(いや、違うな……)


 私は卑下をやめます。

 そもそも、この人達が襲ってこなければ私達は今日という一日を平和に過ごすことができました。

 この一件は私のせいではなく、すべてこの人達に責任があるではありませんか。

 そんななかで、こんな状況下で、今自分を責める道理はどこにもありません。

 何もできないなんてはなから分かっています。それを今さらどうこう言ったって仕方がありません。

 私が今すべきことは……。


(変わろう……)


 私は深呼吸をして、心を落ち着かせて体の震えを止めました。

 全身を脱力させて。大きく息を吸って……。

 それから私は、大きな声で笑いました。

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