25話「弱み」
教室を出た私達は、そのまま職員室に向かって他の先生方に帰る旨を告げて、学校を出ました。
気が付くと空には夕焼けが広がっていて、今は目に染みる黄金の太陽が、私達を照らしていました。
私達は、太陽のポカポカとした温もりを感じながら、まっすぐ帰路に着きます。
先生に対してあれだけのことを言ってのけたあとでしたが、サヌちゃんは普段通りの余裕のある表情で歩いていました。
私は、そんなサヌちゃんの横につきながら、静かに歩きます。
サヌちゃんの過去を知ってから見るサヌちゃんのその微笑みは、とても穏やかには感じられませんでした。
(今のこの姿も言ってしまえば偽り……。せめて、私の前だけでは素の自分でいられるようにしてあげたいな……)
もしかすると余計なお世話かもしれません。
それでも、サヌちゃんのお友達である以上は、サヌちゃんに幸せになってほしいと思うのは当然です。
私は、サヌちゃんの欲を満たしてあげられるように、少しずつ対等な関係を築けるように努力していこうと決意しました。今はまだ少し気が引けますが……。
私が心の中でそう決意していると、
「今日はありがとうございました。思い出したくもない場所にむりやり連れてこられたのに、文句も言わずに中まで着いてきてくださって……。感謝してもしきれません」
私が返します。
「き、気にしないで……! 本当に辛いのはサヌちゃんだし……。そ、それに……私こそサヌちゃんの話が聞けて良かった……。あ、ありがとう……」
「……いえ、隠したままで仲良くはなれませんから。それよりもいいのでしょうか……?」
「え、何が……?」
私が問い返すと、サヌちゃんは重く口を開きながら話し始めました。
「友達であり続けることについてです……。あのとき私は、一方的に仲良くなるようにユガミさんに強いました……。私を怖がっているユガミさんに対して、友達であることを強制し続けました……。今日だってそうです。過去の出来事を話すことで、後に引けない形にまでもっていきました……。今の私は、友達という鎖でユガミさんを縛り付けているに過ぎません……。それでも、ユガミさんは私が嫌にはならないのですか……?」
「……!」
突然の質問に、私は驚いて立ち止まります。
これまでになかった『私が嫌にならないのか』という感情的な言葉に、私は目を見開きます。
(サヌちゃんは弱みを見せることを良しとしなかった……。心が読めなくて、何を考えているか分からなかった……。でも、これは……)
サヌちゃんは今不安な気持ちになっている。頭を巡らせずとも、容易く理解することができました。
一方的に押し付けたことに実は申し訳なさを感じていて、それが形としては今も続いていることに耐えきれなくなったのでしょう。
サヌちゃんが続けます。
「もしユガミさんが嫌なら、私はこの関係を解消しようと考えています……。やはり無理をさせるのは良くありません。いかがでしょうか……」
自信のなさそうな表情に声。
普段通りに見えたサヌちゃんも、心の内では人並み程度の悩みを抱えていたようです。
(ここで関係を解消しても、サヌちゃんがそれを拒むことはない……。ここで関係を解消しても、もうサヌちゃんは関わりを持とうとはしてこない……)
今後の未来が、この返答一つに委ねられている。
私はそれを自覚した上で返しました。
「私は……。私は今後もサヌちゃんとお友達でいたい……!」
「え……?」
「た、たしかに始まりこそ歪だったかもしれない……。けど、少しずつ仲は深まってる……と思う……。少なくとも、サヌちゃんは私のことを信頼してくれているし、私もサヌちゃんを信頼してるよ……!」
「……!」
「きっとこれからも仲良くあり続けられる……。だから、えっと……決して私は嫌なんかじゃない……よ……!」
「ユガミさん……」
私の返答を聞いたサヌちゃんはしばらくして、
「ありがとうございます……。そう言っていただけてとても嬉しいです……」
微笑みを取り戻しながら言いました。
サヌちゃんは続けます。
「では、改めてこれからもよろしくお願いします。今はまだぎこちないかもしれませんが、少しずつ自然と会話できるようにお互い頑張りましょう」
私は、
「う、うん……!」
ぎこちない笑顔で返しました。
これまでは得体のしれないサヌちゃんのことが少し怖かったですが、今はもう違います。
サヌちゃんの過去に何があったのか。再会してから今まで、私に対してどんな気持ちで接していたのか。
そういった未知からくる不安が解消されることによって、苦手意識がかなり薄れました。
少々辛い思いもしましたが、結果的にはお友達としての仲をより深められる充実した一日になった気がします。
時間はかかるかもしれませんが、いつか真に仲良くなれるように、努力していこうと思いました。
「あ、せっかくですし、今夜はユガミさんの過去について聞かせていただけませんか? 夜闇に紛れながらこっそりと」
「え、私の……?」
「はい。夜更かしはお泊まり会の醍醐味ですし。女子トークというやつです」
「お、重くない……? 女子トーク……。絶対違うような……」
「明確に定義はされていないそうですよ。ですから、間違いではありません」
「て、定義って大事だなあ……」
帰ったあとの話をしながら、私達は歩いていました。
そんなときでした……。




