19話「おでかけ」
やがてお昼になりました。
私はサヌちゃんからもらった絵を早速額縁に入れて飾り、サヌちゃんもクリアファイルに入れてリュックの中に大切に保管します。
私達はお昼ご飯を食べにダイニングへと赴きました。
机の上にはすでに料理が並べられていて、お母さんが座って待っていました。
「お腹空いたー」
お姉ちゃんがそう言いながらお母さんの横に座ったので、私とサヌちゃんが隣り合わせで座りました。
全員が椅子に座ったので、揃って言います。
「「「「いただきます」」」」
食卓に並ぶは種類に富んだサンドイッチの数々です。
たまごだったりトマトだったりツナだったり、机の上がサンドイッチ一つでカラフルに彩られていました。
各々が各々の食べたい物を手に取って、口に頬張ります。
「おいしい……」
口全体に広がるツナの味。噛む度に追加で濃厚な味が何度も何度も広がります。
飲み飲んで喉元を過ぎると、口の中にほのかに味が残って、またあの味を欲するようになります。
止まりません。たまりません。勢い良くサンドイッチを貪って、あっという間に食べ切ります。
「やっぱりこれだよねー」
正面からお姉ちゃんの声が聞こえます。
お姉ちゃんが手に持っていたのはたまごサンドでした。私はたまごサンドも美味しそうだなと思いながら、ツナサンドを手に取りました。
黙々と食べていると、お母さんがサヌちゃんに話しかけます。
「サヌちゃんはサンドイッチで良かったかしら? お口に合うといいのだけれど……」
「ええ、とても美味しいです。食べやすくていいですね」
「そう? 遠慮せずどんどん食べちゃってね」
いつの間にか、サヌちゃんはこの家にすっかり馴染んでいました。
お姉ちゃんもお母さんも、きっと今日のお泊まり会を心の内では心配していたはずです。
でも、いざ蓋を開けてみればこの通り。険悪な雰囲気に陥ることもなく、お互いがちゃんと楽しめています。
これなら何のアクシデントもなく終えられるでしょう。二人に余計な負担を強いる心配もありません。
私は今現在うまくいっていることに安堵しながら、一つ思います。
(ただ、何の意味もなくお泊まり会なんてするのかな……?)
それは目的。
お友達である以上、本来ならこうして遊ぶことにいちいち理由は必要ありません。
しかし、私とサヌちゃんの関係性を考えると話は別です。
元々いじめいじめられの仲で、サヌちゃんとはまだ再会して一週間程度しか経っていません。
そんななかでお泊まり会。距離の縮め方が不自然極まりないです。
何かしらの意図を疑うのは必然。まあ、それを話してくれるとも思えませんが……。
食事を続けていると、サヌちゃんが私に話しかけてきました。
「そういえばユガミさん。昼から予定はありますか?」
私が返します。
「いや、ないよ……。あまりになさすぎて、お昼寝大会を検討しようとすらしてたくらい……」
「なら、昼からおでかけいたしませんか?」
「おでかけ……?」
「はい、おでかけです。少し行きたい場所があるので、一緒に来てほしいんです」
「わ、分かった……」
「それに、積もる話もありますから……」
「……!」
最後に付け足されたその言葉で、私は察します。
他の人には決して漏らせない話を、その行き先でされるであろうことを。
私は一気に気を引き締めて、戦の前の武士のように、目の前にあるサンドイッチを食べました。
「どこに行ってもいいけど、六時までには帰ってきてね」
「はい……」「はい」
お昼ご飯を食べ終わると、私達は一旦自室へと戻ります。
サヌちゃんのおでかけは急用というわけではないらしく、食後数十分は部屋でまったりとしていました。
「この絵のこの部分が大好きなんです……! これが絵に強い個性をもたらしていて、ユガミさんの絵柄特有のかわいさが……」
「へ、へえ……」
午前で描いた私の絵について、改めてベタ褒めされます。
嬉しい反面、褒められ慣れていないので、少し素っ気ない引き気味の態度で返してしまいました。
逆に私が褒める番になっても、
「めちゃくちゃすごい……! とにかく……すごいっ……! すごく……すごい……」
絵に関して知識があるわけでもなかったので、感じたことを言葉で表現することができませんでした。
一応、
「気持ちはちゃんと伝わってますよ。見せ合った直後のユガミさんの反応は、これまで見たことがないくらいに幸せに満ちていましたから。安心してください」
「うぅっ……」
理解のあるサヌちゃんが自らフォローをしてくれたおかげで何とかなりましたが、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
(読書で鍛えた語彙力が何の役にも立っていないだなんて……)
私に本当に必要なのは語彙ではなく対話であることを強く実感しました。
そうしてしばらくゆっくりしていると、
「ではそろそろ行きましょうか。準備を始めてください」
「うん……」
突然サヌちゃんがそう言います。
私は手頃なサイズの鞄を用意して、最低限の荷物を詰め込みます。それを肩から腰にかければあっという間に準備は完了です。
私の準備が整ったのが分かるとサヌちゃんは、
「それではついてきてください。行き先については着いてから話します」
微笑みながら言いました。
私は鞄の紐をぎゅっと握りながら、部屋を出るサヌちゃんについていきました。