17話「案内と提案」
最初はこの部屋について説明します。
「まずはここ。私とお姉ちゃんが共同で使っている部屋……。寝るのもこの部屋になると思うけど、ベッドの数に限りがあるから、サヌちゃんは私のベッドを使ってね……」
「すると、ユガミさんはどこで寝られるので?」
「地べたです。布団があるのでお気になさらず……」
「分かりました。では一緒に寝ましょうか。少々狭いかもしれませんが、重量的にも問題はないはずです」
「な、何も分かってないっ……!?」
こんな調子でどんどん案内をしていきます。
階段を降りて一階に行き、浴室やお手洗いの場所を教えたり。意味もなく物置と化している空き部屋をわざわざ紹介したりして、あからさまに時間を稼ぎます。
決して広い家というわけではなかったので、十分としないうちに隅々まで説明できてしまいました。
最後にリビングを紹介します。リビングにはお母さんと先ほど部屋から出て行ったお姉ちゃんが、それぞれくつろいでいました。
「ここがリビング……。ソファーだったりがあるから自由にくつろげる……。まあ、見たままの通りかな……。以上だよ……」
私の話を聞いてお姉ちゃんが反応します。
「案内中?」
「う、うん……。やることがなかったから家を紹介してた。それも今終わったところだけど……」
「へえ、どうだった? サヌちゃん。この二日間窮屈にはならなさそう?」
サヌちゃんが返します。
「はい、むしろ窮屈とは無縁の快適な場所ですよ。それに、私の目的がユガミさんである以上はそこが楽園ですから」
「仲……良いんだね……?」
「はい」
お姉ちゃんが私のほうを見てきます。
それもそのはずです。過去にサヌちゃんをいじめたのはこの私なのですから。
であるにも関わらず、自身をいじめた相手に対してここまで大胆な発言ができる時点で、何かあったと思うのが普通です。
その何かを問いかけるように私のほうを見てくるのですが……。
(そんなの私が知りたいっ……!!!!)
私はべつに何もしていません。
この上ない真心を込めて謝罪を行ったら、なぜかお友達になることを提案されて今に至ります。
一応、理由としてもっともらしいことを述べられはしましたが、いじめてきた相手を許すにしてはあまりに不十分です。
あれ以来、なかなか聞く機会に恵まれないですし、本人も話そうとはしません。いつか聞けるといいですが、一体いつになることやら……。
私が複雑な気持ちになっていると、サヌちゃんがお姉ちゃんに問いかけました。
「そういえば、姉上様はここで何をしていらしているのでしょうか?」
「ん、ネノでいいよ。私はスマホで絵を描いてた。そもそも趣味が絵を描くことでね、よくSNSにイラストを投稿してるんだー」
「どんな絵を描いておられるのですか? 興味があります」
「こんな絵だよ」
そう言って差し出してきたスマートフォンの画面には、制服を着た女の子の絵が映っていました。
少し癖のある特徴的な絵柄で、見る人によっては思わず心を奪われるかわいい系のイラスト。描き慣れていることが分かります。
サヌちゃんは、
「おお、すごくお上手です。自分らしさが形に表れていて羨ましいですね……。もしかすると大人気なのでは……?」
絵を好評していました。
お世辞などは抜きで、単に本心からくるものなのが、言葉選びや態度から何となく察せられます。
私はサヌちゃんの反応に心の中で驚きつつも、黙って見守ります。
お姉ちゃんが答えました。
「大人気ってほどではないかなー……。でも、四桁いいねは手堅いよ。ファンの人がそれなりにいて、いつも応援してくれてるんだよね」
「ええ、納得です。それなら、イラストレーターとしても活動していけるのでは?」
「たしかにそれが夢ではある……。けど、できたとしても兼業になりそうだね」
「ですか……。現実は厳しいですね」
「……サヌちゃんは絵を描くのが好きなの?」
お姉ちゃんが、私の気になっていたことを代弁するかのように訊ねます。
「はい。今はたまに描く程度ではありますが、昔は死に物狂いで描いていましたね」
「そうなんだ。……じゃあこういうのはどう?」
お姉ちゃんがそう言って、私とサヌちゃんに指を指します。
「二人でお互いの似顔絵を描き合って見せる。時間潰しにはなると思うけど、どうかな?」
遊びの提案でした。
ちょうどいいくらいに時間を潰せて、かつお互いが楽しむことのできるお手頃な遊び。
サヌちゃんが反応を返します。
「それは妙案ですね。描いた絵を交換すれば、宝物として保管することができます」
ですが私は、
「わ、私……全然絵描けないよ……?」
四桁いいねを容易くSNS上で獲得するお姉ちゃんや死に物狂いでお絵描きに励んでいたサヌちゃんと違って、はるかに画力に劣ります。
時間潰しとしては申し分ないですが、申し訳なさを感じたのでささやかなる抵抗を示しました。
しかし、
「大丈夫だって。こういうのは込めた気持ちが大切なんだから。上手だとか下手だとかは関係ないよ」
「そ、そうかな……」
「それに、家にいる間、ユガミたまに絵を描いてたでしょ? 覗かせてもらったから分かるけど、結構上手だったじゃん」
「な、ななっ何でそれをっ……!?」
「普通に机の上にノートが見開きになってたから」
「ああああああっ……!!!!」
「というわけで、参加ね」
誰にも言っていなかった秘密をバラされて、参加は確実なものとなりました。
私達は、最低限の画材を用意して、再び自室に向かいました。