15話「おつかいJK」
「行ってきます……」
数日後のことでした。
土曜日。高校生活始まって以来の初めての休日。私は声をかけると鞄を手に持って外へと出ます。
メモと財布の入った鞄を肩にかけて、住宅街の中を歩き始めました。
「えっと、今日はじゃがいもと……」
メモには食べ物や日用品が書かれています。見て分かる通り、私はお母さんからおつかいを頼まれていました。
目指す先は近所のスーパー。老若男女に関わらず、たくさんの人が集まる場所です。
元々は高校への入学への慣らしとして、外へ出る習慣をつけるために始まったこのおつかい。今では、休日に限っては私が買い出しをすることになっています。
もっとも、料理を作るのは基本的にお母さんなので、私は本当にただ買い出しをするだけなのですが……。
私はのんびりと歩きながら、やがてスーパーへとたどり着きます。
(むぅ……)
近所のスーパーは、この辺りではとくに人気なお店。人の出入りが活発でとても賑やかでした。
おつかいは何回もしていますが、未だに慣れることはありません。
私は鞄の紐を少し強く握りながら、恐る恐るスーパーへと入ります。
野菜や肉のコーナーなど、できる限り効率良く最短で回り、食品をかごの中に詰めていきます。
(何か今日は食材がいつもより多いような……。気のせいかな……?)
おそらく気のせいでしょう。
あらかた詰め終えると、レジに並んで順番を待ちます。問題はこのあと。店員さんとの会話です。
返事をするだけではありますが、向こうから何回か声をかけられることがあります。
これまでの私であれば、首振りで意思を示すしかありませんでした。しかし、今の私は違います。
私はこの一週間の高校生活を得てかなりの成長をしました。サヌちゃんとの会話や、クラスメイトからの一方的な質問ラッシュ。授業中の問題の指名など、ありとあらゆる無理難題を乗り越えてきました。
ほとんどは荒療治的なもので、克服したというよりかは、むりやり耐えられるようになっただけですが、結果的には同じなので良しとします。
気長に待っていると、少しずつ順番が近付いてきて、とうとう私の番になります。
店員さんが、カゴの中から商品を清算済み用のかごへと移しながら言いました。
「ポイントカードはお持ちですか?」
私は拳を強く握りながら答えます。
「も、持って……ないですっ……!」
「はい、失礼しました」
店員さんが笑顔で返して作業を進めていきます。
(や、やった……! 言えた……言えたよ……!)
私は心の中で叫びました。
ついつい表情に出てしまいそうになるのを我慢しながら、じっと待ちます。
これが成長です。その歩幅は非常に小さなものですが、偉大なる一歩を確かに踏み込んでいました。
私は、ちゃんと返答できたことに酔いしれながら、高揚する気分を胸にしまって待ち続けます。
そのせいでしょうか。
「では、お会計は二番のレジにてお願いします」
「…………」
「……お客様?」
「えっ、あ、ごめんなさいっ……!?」
私は浮かれすぎていたために、店員さんからの返事を一度無視してしまうことになります。
それはすなわち、ここまでのスムーズな流れを断ち切ったり、後続の方々にご迷惑をおかけすることになるわけで……。
私は慌てて二番のレジへとかごを運びました。少し泣きそうになりながら反省します。
(調子乗っちゃった……。やっぱり私なんて……)
打って変わって沈んだ心で自虐タイム。普段は私の悪い癖ですが、ここでは戒めとして機能しました。
私は自虐に浸りながら、財布から札束をいくつか取り出してレジのお金挿入口に突っ込みます。
現金支払いを済ませて、お釣りをとっとと財布に入れて、食材や日用品を鞄にスピーディーに詰めたら、逃げるようにスーパーをあとにしました。
JK