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ボーイフレンド

ボーイフレンド~ありがと

「なんだよー、やっぱ、ここにいたのかよ」


 なんで、あんたが?


「全く……東京からここまで、車で何時間かかったと思ってんだよ。おかげで、せっかくの休日が台無しじゃんか」


 展望台への石段を、あいつは学生時代と同じようにように悪態をつきながら登ってきた。

 慌てて涙を拭う。

 なんで、あんたがここに?


「旦那が心配してあっちこっちに電話かけまくっているぞ。せめて、家を飛び出すときはスマホくらいは持てって。オレのとこまで連絡してくるってことは、よっぽどだぞ」


 私と並んでベンチに腰掛ける。

 だから、なんであんたがここに来てるのよ。でも、驚いて声にならない。

 星をばらまいたような夜景を見ながら、呟いてる。


「でも、ここ久しぶりだなあ。高校ン時にお前が教えてくれたんだよな。カノジョ出来たら連れてきなって」


 そういえば、そんなこともあったっけ。当時の私が先輩と付き合いだしたことをここでコイツに話した時だ。

 私たちの通っていた高校は山の中腹にあって、その山の頂上に神社がある。その神社の裏手にベンチがたったの二つと、飲料の古い自販機が一台だけある展望台がここだ。

 ここから見る景色は、夕方の赤く染まった街並みも、夜に光が灯った夜景もとっても素敵で、キレイで、私は大好きだった。


「結局、連れてきたカノジョはいなかったけどな」


 あれ? あれ以降に付き合ってた何人かのコたちは連れてこなかったんだ。


「そういや、昔、お前が例の先輩とケンカした時もここでボロ泣きしていて、先輩が住み込みバイトしてた山中湖まで何時間も運転させられたこともあったな」


 恩着せがましいなあ。この話、いつまで言うつもりなんだって言い返そうと思っても、今はまだ泣き声になりそうなので黙っていた。だいたいあんたが、泣いていた私を無理矢理に拉致ったんでしょうーが。


「お前、ケンカとか、何かあるとここに来るんだな。そういや卒業式の後もこっそり一人で来て、ここで泣いてただろ。声かけなかったけど」


 知っているよ。あんたもあっちの木の陰で一人で泣いてたこと。


「まあ、何があったかしんないけど、仲良くやれよな、旦那とは」


 ふーん、聞かないんだ。ケンカの理由。

 彼があんたと私の仲を変に勘ぐって、男の強がりからなのか、茶化しながら言ったもんだから、頭にきて一発頬に平手をお見舞いしたのよ。驚いていた彼の顔を見ていたら、無性に切なくなって、一人になりたくて、家を飛び出てここまで来た。

 大事な話もあったのに。


「いい旦那じゃねーか。マジ、すげえ心配してるぞ」


 わかっているよ。私にはもったいない位の優しいご主人様ですよ、確かに。


「ねえ、男女の間に友情って成り立つの?」


 やっと声が出たけど、最初の一言がこれなんて、我ながらトホホだよ……。


「ハハ、何高校生みたいなこと言ってんだよ。もう幾つだよ、オレたち」


 でも、私の顔をちらっと見てから少しおどけて続けた。泣き腫らした目、バレたな……きっと。


「あるよ……ありますよ。だいたい、オレたちがそうじゃん」

「……だよね」


 よかった。私だけ感覚がおかしいのかと思った。男女の間だって、信頼し合えたり、相談し合える関係ってあるよね、恋愛とは全く別で。

 よかったー! 確認できた。


 車のライトが一台、山道を登ってくる。


「じゃ、オレもう帰るわ」


 急に立ち上がって、階段へ歩き出す。


「もう?」


「ああ、明日朝から大事な打合せなの。今日中に東京帰って、はよ寝るわ」


 私も立ち上がる。そして、あいつの後ろ姿に呼びかける。


「ねえっ!」


 あいつは立ち止まって振り返った。


「私、できたんだ、赤ちゃん」


 一寸の間。


「旦那は知っているのか?」


「まだ。言おうと思ったら……その前にケンカになっちゃって」


「そういう事は、一番最初に旦那に話せ」


「うん」


「それから、親兄弟に言ってだな、親類縁者に言って……そのあとでオレとか友人一同に報告でいいんだよ。オレなんか、ただの男友達なんだから」


「うん」


 笑顔で応える私。何故なら、実はこいつも今、私のオメデタを自分のことのように喜んでくれているのがわかる。長い付き合いだからねえ。


「ああ、お祝いにあれ買ってやるよ。あれ……」


「なに?」


「あの……寝ている赤ちゃんの上でグルグル回るやつ」


「うん?……ま、ありがと」


 展望台へ続く階段の下に車が止まった音がする。


「じゃ、ちゃんと旦那さんと仲直りして、その嬉しい知らせを伝えて、それから……それからな……幸せになれよな、ちゃんと」


「うん。ありがと」


 階段を下りていく後ろ姿に感謝した。

 やっぱり、あんたは「ただの」男友達じゃないよ。私にとっては「大切な」ボーイフレンドだよ。

 きっと、あんたにとっての私も同じようなもんでしょ?




 その後、勝手にやきもちを焼いていた旦那とはちゃんと仲直りした。そして、今まで以上に私とお腹の子の二人を大事にしてくれている。

 出産予定はまだ半年も先だけど、なぜか家には既に「赤ちゃんの上でグルグル回るやつ」ーーメリーがぶら下がっている。

 同封のカードには短い一文。

「おめでとう、お幸せに」


 東京ってあっちかな? 

 親友ではなく、恋の相手にもならなくて、でも大切で大事なやつへ。

 窓を開けてから、空に向かって言う。

 ありがと。

 あんたも、ね。


お読みいただき、ありがとうございます


拙作「ボーイフレンド」に別サイトで「続きがよみたい」とリクエストをいただき書いたものです

蛇の足にならなかったならば、幸いです(汗)

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