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九話 サイノウ開花


「ボクに本当に魔法が使えるなんて未だに信じられないよ」


 魔法が使えるとエインセルが言った。

 でも、ボクは学園で全く使うことが出来なかった。

 いや、出来ないとか、出来るとか以前にボクはスタート地点にも立つことは敵わなかった。


 そんなことを思って、出たのが今の言葉だった。


 でも、そんな考えを吹き飛ばすように彼女は口を挟んだ。


「ただ、謝らなければならないことがあります。今の発言に嘘はありませんが。それでも、恐らくあなたの考えているものとは違うのでがっかりさせてしまうことになるでしょう」


 ボクの考えているものとは違う?

 そんな言葉に、ボクは一瞬不安になる。

 思わず、焦ったような声がでた。


「どういうこと?もしかして、みんなが使う魔法とは仕組みとか使い方とかが違うってこと?」

「いえ、仕組みも使用方法も同じです。ですが、見方によっては違うと感じると思います。……そうですね、セオは精霊魔法の仕組みを知っていますか?」


 唐突な問だった。

 その意味は測りかねるけど、それでも、それくらいなら知ってる。

 基礎の基礎だ。


「えーと、可視化して。呪文を詠唱して、使用者の魔力を使って、魔法を打つだよね」


 ボクは頭の中で、学園の講義を思い出すようにして、口に出した。

 そして、それに彼女は頷いたが、訂正するかのように、話を続けた。


「そうです。ですが正確には、精霊とコンタクトを取り、呪文と言う形で精霊に指示を出し、使用者の魔力を使って精霊が魔法と発動する。では、この精霊を大精霊である私に置き換えると、どうなるかは分かりますね」


 大精霊であるエインセルに置き換えると言う事。

 きっとそれが、ボクが通常の魔法とは違うと感じるであろうと、エインセルが忌避する箇所だろう。

 そうして、ボクは少し考えた末に、口を開いた。


「つまり、実際はボクが魔法を使っているわけじゃなくて、エインが使うってこと?」


 ボクが、思い至ったのはそんな当たり前のことであった。

 基礎の基礎、学園でも一番最初に習うであろうをそれをボクは言った。


 ただ、それで、正解だとエインセルは頷いた。


「まあ、そうなります。そもそも一般的な精霊魔法も同じではありますが、大きく違うのは、下級精霊である中精霊と小精霊は思考能力がないと言う事。だから、人間は道具のように使うことが出来ます。しかし、私の場合、個別での魔法の行使が可能なため、原則私が魔法を使っているときは、セオが発動することはできません。ですので、下級精霊を用いての魔法が、人間が道具として精霊を使って発動するのに対して、大精霊を通しての魔法行使は言い方は悪いですが、大精霊が使用者の身体を使って任意で発動させるようなものです」

「なんだ、そんなことか」


 長い彼女の説明を聞いて出たのはそんな言葉だった。


「そんなこと?」

「いや、だって、つまり、ボクに魔法の制限がかかるくらいのデメリットしかないってことだよね。別に魔法がボクの身体から発動できないわけじゃないんでしょ」

「まあ、そうですが」

「なら、早速使わせてよ。ボク早く使いたくて仕方ないんだ」


 少し勝手が違うくらいでボクが文句なんていうわけないだろう。

 

「わかりました。では──」

「新しい魔物が接近してきました」

「なら、その魔物にしよう」

「わかりました。では、安全を期すためにセオが詠唱する際に私は被せるようにして呪文を発動します。これから、魔法発動の際に声が重なった時は魔法発動が出来ると考えてください」

「わかった」


 本来、詠唱は契約者であるボクが居れば必要がない。

 でも、彼女が魔法を発動できない状況にあった時に、簡単に判断するためにはこれくらいは必要だろう。


 茂みが揺れる。

 大きさ的にホーンラビットか。

 飛び出してくる瞬間を狙う。


 ボクは、獲物に向かって手を突き出した。

 そして、ボクとエインセルの声が重なった。


「「──ガ・ローオ!」」


 ボクの初めての魔法。

 詠唱すらしてこなかったボクがいきなり魔物に向かって打つ。

 

 魔力が抜ける感覚。

 手のひらに集まる感覚。

 そして、目に見える形でそれは現れる。


 火球。

 それは、通常三セリオ(三センチ)、天才と名高いサイラスが初めて発動した時でも十セリオ(十センチ)

 一方、ボクが発動したそれは、その全てを超えるニ十セリオ(ニ十センチ)ほどの大きさ。


 しかし、驚く暇もなく、それはホーンラビットに打ち込まれる。

 派手な音を立てて、黒焦げになったそれは、ボトリと落ちた。


 その光景にボクは一瞬放心するも、我に返り、エインセルの方を見た。


「で、できた。できたよね?エイン?」

「ええ、出来てました。かっこよかったですよ」

「二人の愛の結晶、熱々ですね」


 そうか。

 ボクは出来たんだ。

 

「よし。やった」


 つい口から出てしまった言葉、子供っぽいかななんて、いつも気にするようなことも今は頭によぎりもしなかった。





 翌日、そして、また翌日と、僕たちは森に来ていた。

 ボクたちが、冒険者として魔物の討伐をしに来た理由は一つ目は魔法の試し打ち。

 そして二つ目が金策、最後の三つ目、それは、これからの戦闘にあたっての技術向上。

 戦い方や、連携の仕方。

 考えればいくらでも出てくるが、とにかく、そんなようなことをしに来ていた。


「お疲れ様です。今日はこれで引き揚げましょうか」

「そうだね」


 そんな会話をするボクたちの目の前には、大きなイノシシが転がっている。

 グレイボアと言う名前の魔物で、ボクたちが倒したホーンラビットとは比べ物にならないほど強い魔物だ。


 ここ数日、ボクたちは冒険者のまねごとをして、この程度の魔物なら、問題なく狩れるようにようになった。


「私も最近目利きが出来るようになりました。提出部位はずばり牙ですね!毛皮何て捨てていくのが正解です!」

「いえ、エイン様。毛皮も捨てきれません!ここはひっかけで牙こそ捨てていくべきです!」

「提出部位は牙だけど、グレイボアはそこそこ強くて流通も少ないから、毛皮も貰って換金しよう」

「……私たち二人の答えを合わせれば正解ってところですね」

「そうですね」


 二人は随分と初めに比べると色々と覚えたように思う。

 流石大精霊と巫女と言う関係だけあって、二人の答えを合わせたら正解と言ってもいい。


 ボクはこのため込んだ知識くらいでしか二人の役に立てないから、二人がいろいろ成長していくのを見ると嬉しい反面、寂しくもある。

 それはそうと、必要なものは回収したし、帰るとしよう。


 ボクたちは街に着いてすぐ、組合に向かった。

 その道中、エインセルは不意に口を開いた。


「大体、魔法の使い方は覚えたようですし、組合の昇級試験を受けてみませんか?」


 それは、提案であった。

 その言葉に、ボクは少し考える。

 冒険者のことに多少の知識のあるボクならその単語が意味することもよく知っている。


 昇級試験。

 つまり、冒険者組合におけるランク昇級試験のことだ。


 冒険者組合にはランクが存在する。

 一から四級の四つであり、数字が少ないほど高ランクとされる。

 

 大まかな目的としては、不要な死傷者を出さないため、また、依頼などの振り分け、それに臨時パーティの招集の目安などである。

 まあ、いろいろと、理由はあるけれど、ランクと言うのは基本的にその冒険者の強さの指標となる。


 そのため、ランクが高い冒険者ほど、優遇される傾向にあるし、ランクは高ければ高いだけ良いとされる。


「これから旅をするにあたってお金の問題もありますし」


 エインセルの考えにボクは同意する。

 そう、組合の優遇の面には、金銭的な話も含まれるのだ。


「うん。わかったよ。ボクも昇格には興味があったし」


 そう言ってボクは頷いた。


 ただ。


「昇級試験については、この街では行われていないんです。この近くで受けられる場所だとラートで数日後に行われるとは思うのですが」


 組合の建物に入って、依頼の処理と換金を終わらせた後、受付で昇級試験についての話を聞いたボクたちに返って来たのはそんな言葉であった。


 昇級試験と言うものは、定期的に行われているもので、冒険者組合の施設で受けることが可能なのだが、どうやらそこまで大きな町ではないからか、此処では行われていないと言う事であった。


「わかりました。ラートの街に行けば受けれるんですよね?」

「はい。日程こそ決まっていますが、彼方の組合の施設に行っていただけましたら可能です」


 エインセルは、頷いて受付を離れた。

 それに、ボクたちもついて行って、余裕のあるスペースに出たところで止まった。


「よかったの?エイン」

「ええ、元々、次の目的地はラートの街でしたからね。特に支障もありません」

「次の目的地?」

「はい、少し当てがありまして」


 彼女の返答にボクは首を傾げた。




 

 そんな会話をして少し、ボクは荷物をまとめていた。

 荷物と言ってもそんなに多くはないけど。


 それにしても、宿なんて初めて止まったけど少し楽しかったな。

 何か盗まれたりしたら危ないと言ってエインセルとフェイスと同じ部屋だったけど楽しかった。

 ボクだって流石に男女だし良いのかなって思ったけど、彼女が言うには、将来を誓い合ってるんだからよいとのこと。フェイスは巫女だしエインセルと一緒にいなきゃいけないのだとか。

 とは言えベッドは別だったけど。

 でも、朝になるとエインセルの布団にフェイスがもぐりこんでいて、仲がいいんだなと、微笑ましくなった。


「セオ、忘れ物はないですか?」

「多分大丈夫だよ」

「私も確認しましたが、大丈夫でした」

「ならいいです。では、セオ、フェイス、行きましょうか」

 

 早朝、ボクたち三人はムラマエの街を出発した。


「そう言えば、こっちからでいいの?」

「はい。このまま、まっすぐ行けば、ラートの街につきます」


 ラートの街。

 組合の受付で聞いた限りでは、この街より大きな街なようだけど、あまり聞いたことのない名前だ。

 

 ボクが村に住んで居たころに聞いたことがある街は基本的に近くにある街か、大きな街くらいだ。

 近くにある街は当然として、大きな街の場合は行商人の人がそこで流行った商品や被服品などをその街のものだと宣伝して売るので必然的に覚えてしまう。

 でも、きっとそんな商品が出回っているような街なら、大きいだけじゃなくて商業も盛んなはずだから、そうそうないのだろうけど。


「ラートという街はどんな場所なの?」

「そうですね。大きさ的には、先ほどまでいたムラマエとほぼ変わりませんね。特徴と言うと商業都市に近いので人が少し多い事でしょうか?」

「そうなんだ」


 その話を聞いてなんとなく想像していると、フェイスが口を開いた。


「街も離れましたし、野盗や盗賊がいるかもしれません。少し警戒していきましょう」

「そうですね。馬車を引いているわけではありませんが、一応女二人、セオもカッコいいですけど、えーっと、大男と言うわけではないので嘗められる可能性もあります」


 確かに、ボクはあまり大きくないから狙われやすいかもしれない。

 もっと背が早く伸びればいいんだけどな。






 

 ボクたちの目の前には、ムラマエの街と比べると多くの人が行きかっていた。

 建物は高く、それに道は広く感じる。

 ただ、ボクたちの目を惹くのは、この街に充満する浮かれた空気であった。


「なんだか賑やかだね」


 その言葉が、ラートと言う街に来て初めてボクが呟いた言葉であった。


「そうですね。お祭りと言ったところでしょうか」

「ラートの収穫祭だそうです」


 ボクたちが街の景色を見て推測しているとフェイスが教えてくれる。

 長生きしているエインセルと言えど動けなかったことを考えればフェイスの方が詳しいのも道理かもしれない。


「収穫祭?まだ少し早いんじゃ?」


 ボクは少し気になったので突っ込んで聞いてみた。


「村の収穫時期と比べると早いです。何でも土地にめぐるオドの影響で気候などに変化があるのだとか」

「オドが?」


 確かに魔法の源たる魔力、そしてそれの集合体であるオドであれば不思議でないかもしれない。


「はい。ですが、それも昔の話で現在では通常の周期になっているようです。さらに言えば農業もあまり盛んな街ではなくなっていて祭りもただの名残のようです」

「オドがなくなったってこと?」

「どうなんでしょうか。私自身も旅の行商人に聞いた程度ですので詳しくは……」

「ううん。十分だよ。ありがと」


 「私も知ってましたよ」とアピールしてくるエインセルを微笑ましく見ながら、何故か申し訳なさそうにしているフェイスにお礼を言う。

 それにしても派手なお祭りだなと、宙に舞っていた紙吹雪を掴んだ。

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