七話 エレメンタルカルマ
一応前話でプロローグ的なものは終了です。
ここから新たに話が動き始めます。
ちなみに、ストックは結構あるので、少なくともこの章は毎日更新します。
「本当に行くのか?」
「うん。少し用があって」
「もう少しゆっくりしてってもいいんじゃないの?」
翌日、ボクは引き止められるようにして、両親と話していた。
事の発端はボクが長期休暇の間、家を空けると言ったことからなのだが。
「本当に用は少しだよ。それに休暇中にはもう一度帰ってくるし」
別に今生の別れどころか、休暇が終わって学校に戻る前に返ってくるつもりだ。
それも顔を見せるだけじゃなくて、数日間滞在するつもりでいる。
とは言え、親にとっては違うのだろう。
「二人ともセオが困ってるだろ?そろそろ、兄さんに今日の勉強はしないのかって言った方が良いんじゃない?」
「おい、言うなって。はあ、まあいいか。それよりセオ、気を付けて行けよ」
そんな風に声をかけてくれるのは、兄さんたちだ。
大人程心配性ではないらしい。
「うん。分かってるよ。兄さんたちも父さんも母さんも元気でね」
「ああ、お前もな」
「怪我には気を付けるのよ。何かあったらすぐ帰って来なさい」
「気の利くこと言えるようになったな。こりゃ兄さん越えも遠くないか」
「……否定できねーな」
皆からの声を受けてやっとドアに手を掛ける。
「行ってきます」
あの日学園に旅だった時とは反対にボクの声は明るかった。
家を出てボクは歩いた。
目指すの聖域だ。
いつもの道を通って、いつもの彼女に会いに行く。
途中見かけた見張りの剣士の人は変わっていたけど、それ以外は変わらない。
いつもいた人はやめたのかな?
隠居には早いような気もしたけど。
「セオ。待ってました」
「おはよう、エイン」
なんだかこうして挨拶するのも久しぶりだ。
学園に行っていた間だから、三か月ぶりくらいだろうか。
そんなことを考えながら、ボクは口を開いた。
「もしかしてそっちの人が?」
ボクはエインセルの隣にいる人に気づいて、そう聞いた。
すると、エインセルではなく、本人が口を開いた。
「初めまして、フェイスと申します。セオドル様のことは村で見かけることがあり以前から存じていましたが、挨拶が遅くなり大変申し訳ありません」
「え、えっとよろしく。あと、ボクは貴族じゃないし、かしこまらなくてもいいよ」
茶髪の女の人──フェイスさんは頭を下げてくる。
そんなにかしこまられても困ってしまう。
平民で、しかもこの村で位をつけるにしても、巫女である彼女の方が上だろうに。
あと、エインが彼女のことをよく話すけど、確か十六歳で年上だと言っていたはずだ。
「いえ、それは出来ません。私は大精霊様を尊んでいますが、そんな御方と契りを交わした貴方様にも同じ思いを抱いているのです」
「え?」
そんな彼女の言葉に何故かエインセルは変な声を出す。
「いや、待ってダメですよ。セオは私のですからね」
「エイン、心配し過ぎじゃない?」
いきなり、そんなことを言い出す彼女にボクはそういう。
恐らく「同じ思いを抱いている」という部分に反応したのだろうけど、少し過剰だ。
「いえ、ダメです。セオ、この子は違うのです」
「違う?」
「そうです。この子が私を見る目はですね。えーとなんて言うか。凄ーく好きな感じと言うか。それをセオにも向けると言うのは流石に……」
「確かに、それは困るけど。でも、ボクがどうにかなるようなことじゃない様な気がするけど」
「そうではなくて。例えば今日なんか、私の寝床に忍び込んでいましたし」
「仲良くていいじゃん」
様子がおかしい。
でも、そんなに心配しなくてもボクはエインセルじゃなくてフェイスを好きになったりは絶対にしないのに。
「うーんと。私を見る彼女の目は何というかとても同性に向けるような視線ではないの──」
「セオドル様。つまり、大精霊様は、私のような巫女などに目移りしないでくださいねと言っています」
なんだか、話がまとまらない様子のエインセルの言いたいことを、フェイスは要約してくれた。
流石長年巫女をしているだけある。
「わかったよ、エイン。絶対にそんなことしないから」
「それはとてもうれしいのですけれど」
「よかったですね。大精霊様、では、行きましょう」
フェイスは先陣を切るようにして、歩き出した。
「尊んでいると言いながら、昔から我が強い子ですね」
「エインとフェイスは仲がいいんだね」
彼女がボク以外と話すのは見たことがないから、今のやり取りを見てボクはとてもうれしくなった。
元から、エインセルから話だけは聞いていたけど、聞いてた人柄より愉快そうな人だ。
ボクたちは、馬車の乗り合いまで歩いていく。
どこに行くにしても、そこに行かなきゃ始まらない。
歩きながら、景色を見ていると、ふと手を握られる感触があった。
エインセルだ。
ボクもうれしい気持ちになって握り返す。
エインセルと道を歩くだけでも新鮮だ。
よく考えてみれば、聖域では頭をなでてもらったけど、こうやって手を繋ぐのは初めてだった。
新鮮と言えば、彼女の服も新鮮な感じがする。
聖域では、白い布みたいな服を着ていたから、こうやって普通の服を着ている姿は目新しいものがある。
ボクも学園に行く前に初めておさがりじゃなくて、穴の開いていないそれなりに良い服を着た時は感動したっけ。
ちなみに、ボクは今その服を着ているのだが、フェイスもなかなかな服を着ているので、これで村にいては浮いてしまいそうなほどだった。
とは言え、これから向かうのとは街らしいし、そこでは特段珍しくもないだろうけど。
「そう言えば。セオは「大精霊の業」のことは分かっていますよね」
横を歩く彼女は切り出すようにしていった。
その名前からして、大精霊に深くかかわっている言葉であり、そして、その大精霊であるエインセルと契約したボクにも関係した事柄であった。
それを理解した上でボクはその問いに答えた。
「うん、その為に家を空けてきたわけだし」
その言葉の通り、ボクが帰省して早々に家を出て、エインセルたちと行動を共にしている事にもつながることだ。
そして、ボクは確認をするようにして、その詳細を語ろうと口を開いた。
「大精霊の業。エインたち大精霊に掛けられた呪い……みたいなものだよね」
呪いと表現した通り、それは大精霊を縛るものだ。
そして、それは契約したボクにも課されることとなる。
「大体、その認識であってます。大精霊の業には七つの業が課せられています」
「確か──」
肯定したエインセルに対し、ボクは続ける。
大精霊の業。
それは学園でも習ったことだ。
昔、世界を世界の支配を企んでいたという悪魔によって彼女たち大精霊に課されたもの。
一つ、他の大精霊の五年以内の抹殺。
二つ、魔力の供給は人間種以外からはしてはならない。
三つ、契約者の変更はしてはならない。
四つ、精霊との多重契約者と契約してはならない。
五つ、契約者に寿命を依存する。
六つ、上記五つの業を契約者にも背負わせ、遂行できない場合は契約者が死亡する。
七つ、ただし龍脈に根を下ろし結解を張り魔物の殺生をしないのであれば、上記の六つは適用されない。
この七つがその内容だ。
「さすが、学生ですね。よく勉強しています。まあ、これがどんなものかと言うと、最大限私たちを弱体化させて、同士討ちをさせるって感じですかね。回復などさせる気もないのでしょう。それが嫌なら、人のいないとこに引きこもって誰とも接触せずに出てくるなってとこですかね。七つ目に該当しない大精霊が一柱でもいたのなら、最低でも一柱は大精霊をこの世から葬り去って、運が良ければ、他の大精霊たちにもダメージを与えられるかもしれない。本当に趣味が悪い事です。そして、私たちは仕方なく一柱目を倒すための旅に出たわけです」
彼女はツラツラと説明をしたあと、一度間を開けてこちらを見て再度口を開いた。
「しかし、今更ですが、良いんですか?」
「覚悟はできてるつもりだよ。エインと一緒にいるためならこれくらいするよ。それに、嫌と言っても、拒否はできないしね」
七つ目に該当しない場合、六つ目によって、一から五つ目を破ることとなれば、契約者もろとも大精霊の命が尽きると言う。
だから、ボクたちが、幸せに暮らすと言うのならば、世界に六柱いると言う大精霊をすべて倒すしかない。
学園に行った時と同じだ。
拒否はできない。
でも、その時とは違うこともある。
それは、ボクが決めたと言う事だ。
「カッコいいです」
「絵になりますね」
パシャパシャと光を発しながら、ボクへと両手で持った箱のようなものを近づけるフェイス。
そんな突然の様子に、ボクは首を傾げふと、思い出した。
「それって高いってやつだよね」
確か、サイラスが言っていたのだ。
カメラと言って、写真と言うものを撮れるとかなんとか。
「そうなのですか?謙譲されたものに入ったのを使わせていただいているので何とも。知り合いの剣士の方にいらないと言われて譲っていただいたので」
ただ、フェイスはあまり詳しくないのか、首を傾げて返答した。
と言うか、その剣士と言うのはいったいどんな人なんだろう。
「まあ、ボクも聞いたことがある程度で、どれくらいか分からないけど。とは言っても、村出身のボクには基本安いものはないけどね」
正直サイラスの話を聞いていて高いんだろうなくらいの認識がないからよくわかってない。
「私も知らないうちにこんなものが出来て驚きましたが、撮ったものを見るには街に行かなければなりませんね」
「そうですね。大精霊様のお姿をこんなもので映すことが出来るかは疑念が残るところではありますが。現像と言うものをしないことにはどうにもなりませんね」
詳しいなと思って聞いていると、説明書も一緒についてきたのだと言う。
そうしてしばらく、写真屋があれば寄ろうなんて話をしていると、乗り合いに着いた。