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三十九話 やるべきこと


 現在、商業都市ロプトの宿にて、何故かボクは女ものの服を着せられていた。


「似合ってますよ。セオ」

「素敵です」


 そんな二人の声を後ろから受けながら、ボクが見つめるのは鏡だった。

 そこには、当然ボクが映っている。

 女装したボクが。

 大き目の服に下はショートパンツ。

 

「これおかしくない?女の人でも此処まで短いズボン履いてる人なかなかいないよ」

「そんなことないですよ。ほら、シエンナさんも履いてましたし」

「そうです。そうです」


「うーん」とボクは唸る。

 確かに、シエンナは黒を基調とした足が出るような服を着ていた。

 でも、いないとは言わないけど、決して多くはないファッションだと思う。

 そんなボクを見かねたのか、エインセルはボクの顔を掴んで目を合わせた。


「セオ。これは大事なことなんです」

「大事?」


 確かに、彼女の眼は真剣そのものだ。


「そうです。大精霊討伐と言う偉業を成し遂げた今、それがバレないように偽装をすべきなのです」

「まあ、ボクもそう思うけど」


 確かに、バレてはいけない。

 エインセルのことに関しても、彼女が手を打ってばれないように偽装したと言ってはいたけど、エーリューに対してだってそれは必要だろう。


「でも、それとこれは関係あるの?」

「あります!ねぇ、フェイス」

「あります」


 エインセルがフェイスに聞くと、彼女も頷く。

 二人が言うならそうかもしれない。


「セオ、エーリューの聖域は、私の聖域と違って、本当に誰にもバレていないはずです」


 誰にも、と言うのはアリアを除くボクたち以外の者にだろう。

 エインセルの聖域を恐らく国にはバレている。

 それは、ディランさんが警備の仕事についていたことから分かる。

 でも、それすらないのなら、恐らく本当に知られていないのだろう。


「ですので、私たちがすべきは、大精霊エーリューが倒されてしまったことの隠蔽ではなく、もし、それがバレてしまったときに、私たちに結び付かないように偽装をすることです」


 大精霊エーリューと言うのは、恐らく国内にいる事だけが把握されてる情報なのだろう。

 だから、別に隠そうとしなくても、討伐されたことはバレないだろう。

 なら、ボクたちに出来ることは、それが万が一バレた時の犯人捜しを妨害することと言う事だろうか。


「そのための女装です」


 彼女はそう言い切った。







 昔、テオドール・アレクシスは、魔法の天才と呼ばれるほどに多くの功績を残したと言う。

 そして、その裏には、大精霊との契約という秘密があったとされることも、ボクは学園で習った。


 それをもとに、エインセルは考えたらしい。

 大精霊エーリューと契約したものに扮して目立とうと。

 そして、その時契約者役のボクが女性に扮せば、完全にセオドル・キオネと言う人物とは結び付かない。


「そして、私が髪の色を金に変えれば」


 そう言って、彼女の髪の色は変わっていく。

 純白の髪はみるみるうちに金色の髪へと変わっていった。

 その見た目は、目こそアイスブルーの色のままだが、人にその特徴を聞きまわれば、とてもボクたちにはたどり着かないだろうと思えた。


「魔力がいるので長くは出来ませんが、これで十分でしょう。これで、目立てば、オッケーです。現状目立っても誰も大精霊がらみだとは思いませんし、暫くたって、大精霊討伐がどこかにもれても、私たちの情報を隠すおとりになるでしょう」


 そんな、自信満々の彼女について、ボクは街に出た。


「やっぱ、恥ずかしいよ」


 エインセルとフェイスが一緒にいてくれるから何とかなってるけど、ボクは早く帰りたくて仕方がなかった。


「皆変だと思ってボクのこと見てない?」

「いいえ、見惚れているんです。と言うか、セオを勝手に見るなんて失礼ですね」

「落ち着いてくださいエイン様」


 エインセルとフェイスは大丈夫何て言うけど、ボクは絶対そうは思えない。

 よく、女の子に間違えられるボクだけど、流石に男なのだから、こんな服を着れば怪しまれてしまうだろう。


 なんて思っていたのだけど。


「娘三人でとは珍しいな」

「一人は、脚の露出が多いな売春か?あの歳では苦労も多かろう」

「いや、ここは商人どころか貴族すらも使用する商業都市だぞ。あのような美貌ならどこかの令嬢のお忍びと言う可能性も」

「ありえるな。間違っても手を出せば、ただじゃすまないだろう」


 全然バレなかった。

 むしろ、なんだかいつもより人目を引いた。

 いつもは、もちろんボクは男物の服を着ているし、エインセルはフードを深くかぶっているから、あまり目立つことはない。

 でも、今日は髪の色を変えているせいか、エインセルはその端麗な顔を見せて、フェイスも顔が整っているから目を惹きやすい。

 そして何より、この異様に短いズボンが視線を集めていた。


「はぁ。エイン、これからどうするの?」


 ボクはため息をついてエインセルに聞いた。

 実際上手くいってしまっているため、女装については文句を言えないけど、これから何をするかくらいは聞いておきたい。

 さっさと終わらせて早く着替えたい。


 そんなボクの気持ちとは裏腹にエインセルは随分とゆっくりとした様子で口を開いた。


「そうですねぇ。態々調べようと思われない程度に目立っておきたいのですが」


 ただ、そこまで具体的な計画があるわけではないようだ。


「フェイスは、何か案はありますか?」

「はい。でしたら、彼方の区画で行われると言うちょっとしたゲームに参加するのはどうでしょうか」


 その言葉にボクは首を傾げた。






 商業都市ロプト。

 この街はいくつかの区画に分かれている。

 そんな区画の一角が盛り上がりを見せてた。


「さあさあ、もうすぐ受付終了だよ!」


 メガホンを持った男が、高らかに叫ぶ。

 その横で、皆が何かにサインをしていた。


「あれが、ゲーム?」

「そうです。先ほど耳に挟みまして、どうやら二人前に出て自分の技能を披露してそれを見た観客がどちらが優れているか決めるそうです。それをどんどん続けて言って、最終的に残った人が勝ちとなります」

「なるほど」


 まあ、なんとなくわかったような気がする。

 早速ボクは、受付に行ってサインをして参加することになった。


「よおしっ!今の嬢ちゃんで受け付けは終わりとさせてもらうぜ!」


 ボクが名前を書き終わると、先ほどから宣伝を大きな声でしていた男が受付を締め切った。

 どうやら彼が司会をするようだ。


「早速、始めさせてもらうぜ!ワイアット・カータ!ヘンラ村のジャック!二人は、前に出てきてくれ!」


 男がそう言うと、野次馬を掻きわけるように、二つの人影が現れた。

 片方は恰幅のいい男、もう片方は小柄な男、いや、青年だった。


「じゃあ、改めて、ルールの説明をさせてもらうぜ!簡単だ、この二人がお互いの特技を見せて、お前ら観客の声の大きさで勝敗は決まる!」


 男がそう言い放つと、観衆は沸き上がった。


「まずは、ワイアット・カータ、お前の特技を披露してくれ!」


 ワイアット・カータと呼ばれた男に注目が集まる。

 彼は恰幅の良い方の男であった。

 そして、そこに野次馬が野次を入れる。


「俺はお前に賭けてんだ。負けてくれるなよ!」

「やっちまえ!」


 そんな風に場が温まってきたころには、ワイアットは剣を抜いていた。

 そして、見せたのは。


「おっと、なんてことだ。こいつは剣でジャグリングしてやがるぜ!」


 剣でのジャグリング。

 何回転もさせたのちに手を切ることなくそれをキャッチする。

 

「デッケー体のくせに器用じゃねぇか」

「マジかよ!?どんどん剣を増やしてやがる」

「もっと行け!」


 剣の数をどんどん増やすと歓声もどんどんと上がっていく。

 そして、彼がすべてを終わらせるころには、観客は大いに盛り上がっていた。


「これは驚いたぜ。次は、ヘンラ村のジャック!頼むぜ!」


 そう言われて、ジャックは一歩前に出た。

 そこにも、野次は飛ぶ。


「おいおい、さっきのは越えれないだろ?」

「ガキは、村に返んな!」

「意地でも、取り返せよ!」


 半ば否定的なものが多く見えたが、それでも彼に賭けたものは必死に応援していた。

 そして、ジャックは無言で剣を抜いた。


「剣が一本だけじゃ、さっきのはマネできねぇぜ!」

「ギャハハ!」


 そんな声を無視して、彼は剣の切っ先を持つと口に近づけた。

 そして、剣を飲み込んだ。


「マジかよ」

「食っちまった」


 そして、今度は剣を取り出して終了した。


「終了だ!次はジャッジに移るぞ!ワイアット・カータ!」


 名前が呼ばれると、男どもの声が空気を揺らした。

 

「ヘンラ村のジャック」


 次に、青年の名前を呼べば、さらなる歓声が起こった。

 先ほどよりも断然大きい。


「勝者は!ヘンラ村のジャック!!」


 そして、人が入れ替わり立ち代わりゲームは続いた。

 剣術対魔法とか、両者の同意を元に直接の戦闘なんかもあった。

 そんな風な何でもありなゲームは更に進み、ボクの番がやって来た。


「ジュリアン・カーンとやるのは、クレアだ!前に出てくれ!」


 元々ボクにつながらないようにと女装をしているため、当然偽名を使っていた。

 クレアと言う名前はなんとなくだ。

 ボクが前に出ると、皆と同じように野次が飛ぶ。


「おいおい、嬢ちゃんかよ」

「こりゃだめだな」

「服全部脱いでくれたら俺も勝たせてやってもいいぜ!」


 ボクはどうやら期待されてないようだ。

 まあ、ただ、対戦相手に関してはラッキーではあった。

 なんてったって。


「よし。じゃあ、ジュリアン・カーン!もう一度お前の力を見せてくれ!」


 その言葉に彼は答えるように、詠唱をした。


「ザ・ローオ!」


 ザ級の赤魔法が発動して空に火球が打ちあがった。


「こりゃ、勝ちだな」

「嬢ちゃん。恥かく前にあきらめな!」

「そいつのレベルは、学園での通用するほどなんだぜ」


 歓声と共にボクへとまたもそんな声が届いた。

 でも、相手が魔法を使うとなれば、軍配はボクにあるだろう。


「よし!クレア!お前も見せてくれ!」


 ただ、流石司会と言うべきか進行役の男はササッとボクに促した。

 それにボクも直ぐに魔法の発動へと移った。


「ザ・ローオ!」


 敢えて比較をしやすいように同じ赤魔法で対抗する。

 それに、目を付けられるほどのものだと良くないので少し大きさを抑えた。

 それでも、先ほどより遥かに大きい火球は空へと飛んだ。


「おい、マジかよ」

「あんな嬢ちゃんが、使えんのか?」

「ジュリアンなにガキに負けてんだ!」


「では、ジャッジだ。ジュリアン・カーン!」


 観客の声はあまり上がらない。

 別の何かで競ったわけでもなく全く同じもので競ったのだ。

 当たり前の結果ではあった。


「クレア!」


 それでも、ボクは少し心配だったため、この後起こった歓声に少し安堵した。

 そして、最終的に、ゲームを勝ち抜いたボクは、盛大に目立つと言う目的を達成した。







 それから少し。

 ボクたちは、荷物をまとめて街を出た。

 来たときはと逆の順番で、道を戻ってボクたちは村に着いた。

 そして、エインセルとフェイスと別れたボクは、久しぶりに家へと帰った。


「ただいま」


 ボクは、そう言って家に入った。

 これで一章は終了となります。

 ここまで読んでいただき有難うございました。


 書き終わっているから、毎日投稿すると言いながら、途中途中で途切れてしまった事については大変申し訳ないと思っている次第です。

 書き直したら間に合わなくて(言い訳)


最後にこの作品を少しでも気に入っていただけましたらページ下部より評価をしていただけると嬉しいです。

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