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三十七話 大精霊討伐1/6-⑫


 デリック・フラン。


 その人生は奇妙な物だった。


 彼は、十四年前に反精霊教組織「断罪の光」の幹部の子供として生まれた。

 しかし、その肩書きに見合わず彼の地位は組織内でそれほど高い位置にはなかった。


 組織幹部である父親は、物心つくころには、すでにデリックに興味を示していなかった。

 会うのだって、実の親子だと言うのに年に数回の機会しかない。

 それも、直接話すなんてことはなく、何かのついでに顔を合わせる程度だった。


 そして、母はと言うと、デリックを生んですぐに死んでしまったために、顔すらも記憶になかった。

 だから、自分の親と言ったって、お世話をしてくれた組織内の血のつながってない他人の方がふさわしいくらいだった。


 そんな、毎日を過ごす中、デリックは一人の男と出会った。


 男の名は七剣聖ディラン・ブラントと言った。

 十代少しで剣聖に名を連ねた天才だ。

 その時のデリックはまだ、年齢は一桁で物心がついて間もないころだった。


 いま、思えばおかしな話ではあった。

 彼がこの場所に来たのは、組織を通してであったからだ。

 精霊信仰が盛んな国であるノーンド王国に曲がりなりにも所属している彼が、王国の敵とも言える「断罪の光」とつながりがあるなんて。


 ただ、当時は気にせずにデリックは彼と接した。

 そして、ひょんなことから師事を受けることとなった。

 名誉中の名誉、弟子である。


 とは言え、彼も忙しいのか、会える日は限られていた。

 理由を聞けば。


「あー、まあ、ちょっとな。警備みたいなことしてんだよ」


 そんな返答が返って来た。

 剣聖が警備となればどんな大物だろうか。

 ふとそんな風に考えた。


 そして、彼の指南のもと、デリックは剣を磨いた。

 組織最強と言われるシエンナと比較してしまえば、お粗末なものだが、それでも相当に腕を上げていた。


「剣聖なんかとは流石に比べられないが、まあ、それなりの腕の騎士とかとなら張り合えるくらいじゃねぇか?」


 ディランもそう言っていた。

 そして、このころになると、ディランの口調が少し移って乱暴な話し方になってしまったように思う。

 流石に、師匠と仰ぐディランには、敬語であるが。

 やめろと言われたが、流石にそれは断った。


 そして、少し、ふと気になったことを訊いた。

 このころになれば剣聖の地位もあり方も分かるようになっていた。

 だからこその疑問。


「ディランさんは、剣聖なのに何で大精霊の討伐を掲げる「断罪の光」と接触をもったんですか?」


 知識があれば一番初めに訊いて居たであろう言葉。

 そんな言葉に、意外とあっさりとディランは答えた。


「俺はな。剣神ってのと戦ってみてぇんだ」


 そう言った。

 曰く、剣神と呼ばれるものの正体は大精霊の内の一柱と言う説がある。

 でも、親霊王国ノーンドでは少なくとも、大精霊討伐などと言って手伝ってくれるものはいない。

 秘匿された聖域は普通では、知ることはできない。

 剣聖であろうとも。

 だから、それを探すにも人手が必要だが、それは現実的ではなかった。

 そして、その人手を求めて、ディランはこの「断罪の光」という組織を訪ねたのだ。

 デリックは、疑問が解けたことで、納得した。

 まあ、頼られれば協力しよう位に考えた。


「お前は、俺と関わっていたせいで、そこまで組織に洗脳されてないと思うから話すが」と、そんな前置きのもとに、ディランはある日会って早々話し出した。


「大精霊に愛される人間ってのがいたとして、どう思う?」

「大精霊に愛される人間ですか?」


 いきなりの言葉に、デリックは言葉を詰まらせ、やっとの思いでオウム返しをした。

 意図が分からず、聞き返してみたが、それ以降は教えてくれなかった。


 そして、暫く立った後、デリックはあの時の言葉の意味が分かった。


「デリック。大精霊の討伐の目途がついた。準備を任せられるか?」


 詳細を聞けば、それは信じられぬと言ってしまいたいほどのことだった。

 そもそもディランは警備と言っていたのは聖域の守護であった。

 それだけでも驚きだったのだが、何でも巫女が接触してきたのだと言う。

 そして、もっと驚きだったのは。


「大精霊と契約する!?」

「ああ、そうだ。イカレてやがるよな。正気じゃねぇ」

「そんな所業は、罪人テオドール・アレクシス以来なんじゃ」


 セオドルと言う少年の話。

 何でも、膨大な魔力と大精霊エインセルから寵愛を受ける存在だと言う。

 でも、その男がいるのなら、大精霊討伐という偉業を成し遂げられるかもしれない。

 そうも思った。


 そして、正直組織最強を引っ張りだすのは気が重いと思いながらも、準備をすることを承諾した。


 根回しをして、ラートの街行って、件のセオドルと言う少年に出会った。

 まあ、初めはデリックも気付かなかったが。

 女の様に髪が長いと聞いていたが、顔まで女のようだとは聞いていない。

 性別すらも一致しない状態で分かるはずもなかった。

 写真があれば別だが、そんなものは持っていない。


「すげー。七剣聖ルイス・エーベル、それに七賢者ソフィ・ウィロウまで……」


 デリックが、純粋に凄い光景だと見入っていた時に見つけた。


「あれが七剣聖……」

「ん?何だお前、見るのは初めてか?」

「え、あ、はい」


 気まぐれに、近くにいた少年に話しかけた。

 普段から、剣聖とあっているデリックが、珍しい思う光景。

 少年はラッキーだと教えなきゃならないと思った。

 その方が感動も倍になるとお節介を焼いて。

 まあ、少女だと思っていたから、優しくしたのもあるが。


 そして、暫く教えた後、デリックは「じゃあな」と言って去った。

 少年は心ここにあらずと言って様子で呆けていて言葉は帰ってこなかったが。


 そんな少年と別れて少し、デリックは街を徘徊した。

 わかるのは、名前と特徴。

 地道に探すしかない。

 落ち合う場所を決めればよかったが、ディランとエインセルという大精霊は決めなかったらしい。

 

「ラートで集合つっても、広いんだぞ」


 そんな悪態を一人でついて、その日は寝た。

 そして、翌日、冒険者組合に入って見つけた。

「エイン」だの、「セオ」だの「フェイス」だのと、先ほど大通りであった者たちが話していたのだ。

 試験中だったので、終わってから話しかけようと思ったのだが、実力を示した彼らを勧誘しようと人が集まり、なかなか近づけなかった。

 そして、結局人だかりの中心に行ったときには、彼らは人を避けるように逃げてしまっていた。


 やっと、会えたのは、何時間か経った後だった。

 そして、フェイスにあったデリックは一目ぼれと言うのをしてしまった。

 なかなか、会話をしてもらえなかったが。

 流石に、気持ちは抑えて、本来の役目を行った。


 それから少し、いろいろあったが、ロプトへ向かった。

 そして、ついて早々、ディランと合流し、更に一度自由行動を許されたため、街へ繰り出した。

 意外なことに、セオドルはデリックを指名したため、驚きはしたがそれでも承諾をした。

 

 何でも、彼はプレゼントを買うために、デリックにアドバイスをもらいたいを言う。

 そして、話の流れで、好きな人を聞かれた。

 最初は渋ったが、剣聖でも命が危険な戦場に行くのだ。

 で、あれば、誰かに言う機会もない、そう思って「フェイス」と答えた。

 実際は、聞き逃されてしまったが。


 そして、なんやかんやあって、合流したシエンナも含めて、プレゼントを探した。

 

「こっちがいいんじゃないか?」


 デリックは、指を指した。

 微妙にセンスのないものを狙って。

 シエンナに否定されるも、心のどこかで、本当にフェイスに似合うものはデリック自身が上げたいと思っていた。

 自分のすることが最低であることは重々承知で行った。

 どうせ分かっているのだ。

 プレゼントが何であろうと、フェイスの気持ちは変わらないことくらいは。


 そんな目論見も失敗して少し、セオドルはディランに連れられてどこかに行ってしまった。

 何か、剣聖の立場から見て心配なことでもあったのだろうと思いながら、その時は見送った。

 と言うか、エインセルがついて行かないわけがないので、何とかそれをとどめるのに必死だった。


 そして、帰って来たディランに話を聞いた。

 何でも覚悟を問うたらしい。

 少し気になり、探しに行った。

 これでも、友人だと思っている。

 そして見たセオドルは、酷く落ち込んでいた。

 こんな少年に自分は、プレゼント選びとはいえ、貶めようとしていたと思うと、酷く罪悪感が湧いた。


 だから、何とか立ち直れないかと、いろいろ言ってみた。

 ただ、元気づけるのではだめだ。

 セオドルが、考えているであろう覚悟のヒントになることを必死に考えて言った。


 恥ずかしくもあったが、自分がフェイスが好きで、守りたいから戦場に行くのだと言った。

 結果はダメだったが。

 翌日シエンナと話せば、どうやらディランと同じことを思っていたらしい。

 やはり、デリックは彼ら天才とは違うのだと思った。


 結局のところ、セオドルはエインセルと添い寝しただけで何か腹を決めたような顔をしていた。

 覚悟はできていないとは言っていたが、ディランが大精霊討伐に連れて行くだけの顔をしていたようだ。


 そして、街を出て、村に立ち寄って、聖域に来た。

 大精霊は強く、その眷属にすらデリックは敵わない。

 恐らく自分が、この中で一番使い物にならないことは分かっていた。


 戦闘力の話ではない。

 それで言えば、デリックはセオドルはもちろんフェイスよりも優れている。

 だが、こと大精霊戦については話が違うのだ。

 だから、自分を犠牲にしてでも、セオドルを守ったし、フェイスを守ろうと考えていた。

 一回目の攻撃はシエンナに先を越されてしまったが、今度フェイスが狙われてしまうのなら、自分がすぐに盾になろうと。


 眷属をすべて倒し、エーリューの動きを止めたかに思ったとき、その瞬間は訪れた。

 フェイスを狙った攻撃だ。

 作戦的にも、デリックの個人的な感情としても、何としても、守らなければならなかった。


 フェイスが、刺されれば、巫女の力は一時的にも解除されて、エーリューの拘束を解かれる。

 そして、何よりデリック自身が許せない。

 

 姿を見せた人影の正体はここに来る前に、一晩止まらせてもらった村の巫女アリアだった。

 少女はナイフを持ってフェイスを襲った。

 だが、そうはさせない。

 デリックは間に割り込んだ。


 剣などとうに折れた。

 するなら、自分の身体を盾にするしかない。

 護符もないから、それは確実に傷になる。

 それでも、動かなければならなかった。


「ぐっ!?」


 ナイフが突き立てられた腹部が痛くてしょうがない。

 だが、それでも、視界の端で動かずこちらを驚いたような顔で見るセオドルを見て、泣き叫ぶわけにもいかなくなった。

 セオドルは、確実にデリックが刺されたことを見て、動揺して止まっている。

 『理力』で身体を無理やり、動かすにしても、それは致命的な行動だった。


 そして、デリックが身を挺して、攻撃を受け止めるも、フェイスの力の発動にも一瞬影響が出る。

 その一瞬で、大精霊エーリューは動いた。

 手を伸ばして、セオドルの腕を掴んで『理力』発動した。

 それは、残る護符すらも吹き飛ばして、セオドルの肘から先を消し飛ばした。


「あ゛あ、ア゛ァ゛ア゛ァァァ!!!!!!!!」

 

 あれでは、刀は握れない。

 あれでは、大精霊を倒せない。


 でも。


「──セオドル!!!!」


 デリックは叫んだ。

 叫べば臓物がで出来てしまわないかと考えが浮かぶほどに痛む腹を抑えて、それでも叫んだ。






 そして、その声は、ボクに届いた。

 歯を食いしばる。

 発狂してしまうのを抑えて、ボクはもう一度、刀を握ろうとない右手を刀に伸ばす。

 

 そして、前を見れば、エーリューの動きは止まっていた。

 今の一瞬でフェイスが立て直したのだ。

 なら、行ける。


「──ソーテーリア」


 重ねて、フェイスが発動したのは、第二の力。

 効果は、欠損した部位の回復。

 魔法をも凌駕したその力は、再びボクに右手を与える。


 そして、ボクは刀を握った。

 そうすれば、再びエインセルの『理力』ボクにディランさんの動きを模倣させる。

 

「居合──水斬りッ!」


 それは、一瞬の出来事。

 放たれた剣は、大精霊をも凪ぐ。

 前後から迫る刀は、交わるようにして大精霊を斬った。

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