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三十六話 大精霊討伐1/6-⑪


 ディランはガングレトを倒したあと、セオドルの元へ向かっていた。

 その途中、彼は何かを口ずさむようにして、何かを唱えていた。

 彼は、詠唱していた。


「──大蛇を斬りし、その刃をここにッ!「十拳の剣(トツカノツルギ)」」


 彼の拳には、長い一振りの刀が現れた。


 彼が、使ったのは魔法。

 精霊魔法とは、別種の魔法である。

 一般には、創成魔法と呼ばれるものだ。


 透き通るような抜き身を刀を彼は、大精霊エーリューに向けた。

 すでに、セオドルまでもが視界に入る位置まで来ている。


 そして、少し奥を見れば神樹に短剣が突き刺さっている。


 エーリューの視線は、セオドルにくぎ付けだが、流石に迫りくるディランにも注意を向けていた。


「いくぜ。しっかり受け止めろよ!」


 ディランは、詠唱して現れた刀を放った。

 エーリューに向けて放たれたように見えたそれは、攻撃ではなかった。

 ディランの腕からすっぽ抜けるように、宙を舞ったのだ。

 無論七剣聖のディランがしたことだ。

 ミスなどではない。


「受け止めろ」と言う言葉は、エーリューの向こうセオドルに送られたものだった。


 セオドルは、ディランより渡された刀を取ろうと手を伸ばした。

 だが、その時には、エーリューは動いていた。

 そもそも、ディランの動向を見張るために、一瞬とは言え止まったのだ。

 その目的が、ただ、刀を渡すだけならば、警戒し止まる理由もなかった。


 だが、だ。

 セオドルたちも、何も考えていないわけではない。

 ここで、巫女であるフェイスによって、第三の力が行使される。


「──パテーマ」


 それは、大精霊に特化したような能力だった。

 効果は、大精霊自身の理力を自らにも強要すること。

 つまり、大精霊エーリューの場合、自身の『理力』の最大の特徴である落下のエネルギーが自らに降りかかることとなる。

 その効果により、伸ばされた手は、封じられた。

 だが、効果時間は五秒である。

 すぐに決める必要があった。


 そして、さらなる秘策があった。


「【理力】裏面鏡──合わせ鏡」


 それはエインセルによる『理力』であった。

 エインセルの理力は鏡に関するものである。

 例えば、先に使用されたものは、鏡に映る虚像を具現化したものである。


 そして、今発動された能力は、動きの模倣である。

 対象にしたものの動きをトレースする。

 対象者は、ディランで、トレース先はセオドルである。


 これの意図は、攻撃力を補うことにあった。

 そもそも、セオドルがオドに馴染んだ短剣を使用し攻撃していたのは技術不足のため大精霊に刃が通らないからだ。

 これに必要とされる技術は、そもそも、剣聖と肩を並べるほどであるため、研鑽でどうにかなる類のものではない。

 だが、この技術さえあれば、短剣を用いずとも攻撃を与えることが可能なのだ。


 だから、無理やり、使えるようにする。

 正確には、技術を持つディランと一挙手一投足まで、同じ動きをさせる。


「キチケ・ゾアスア・ダ・ファースッ!」


 必要なのは力ではなく、耐久力だ。

 身体は力があろうとなかろうと操り人形の様に動くことが出来る。

 だが、剣聖と十二歳の剣も使えない少年では、体のつくりが違う。

 使う筋肉もそうだが、体格からして違うのだ。

 身体が持つわけがない。

 だから、強化する。

 それも全身だ。


 そして、体格の関係で足りないリーチは、ディランが急増した刀の長さで埋める。


「居合──」


 ディランは、腰をかがめた。

 それと同時にセオドルも、刀を腰に当てて腰を落とした。

 だが、その時エーリューが嗤った。

 今から斬られると言うこの状況で。


 そして、セオドルは視界の端でとらえた。

 巫女であるフェイスに近づく人影を。


 フェイスが力を発動するのはたったの五秒。

 それでも、妨害されては、解除されてしまう。

 ゆっくりと流れる時間の中で、セオドルはナイフを持った人物の顔を捉えた。

 そして、その顔を驚愕の色に染めた。


「ア、リア……?」


 アリア。

 そう呼ばれる少女がそこにいた。

 ここに来る前に一泊させてもらった村にいた巫女。

 何故そこにいるのか、考えをめぐらして。


 きっと、あれが、エーリューの巫女なのだと気付いた。


 そして、セオドルが思考すると同時に、エインセルもアリアと言う少女の正体に気付いた。

 いや、より深く迫った。

 あの時、アリアのフルネームを聞いて何か引っかかりを覚えた。

 その正体が分かった。


「アリア・ズニル……」


 その名前は、「ズニル」と言う名前は、かつてエーリューが使っていたもの。

 エインセルが、エインセル・キオネなら、エーリューの本名は、エーリュー・ズニルである。

 そんなことに今更気付いた。

 そもそも、これは直接彼女から聞いたことではなく、人づてにそう名乗ったと聞いてあたことからか、エーリューに結びつくことがなかった。

 いや、そもそも、エーリューには巫女がいないと言う話ではなかったか?

 だが、アリアがエーリューの巫女であるならばすべてに筋が通る。

 始めに、結解が張られておらずおびき寄せられていたことも、眷属を先んじて召喚していたことも。

 すべては、アリアから情報が洩れていると考えれば、納得がいった。


 ただ、そんな思考も、目の前の光景にふっ飛ばされる。

 ナイフを持ったアリアが、フェイスを狙っているのだ。

 フェイスが死ぬ。

 そんなことは、エインセルには許容できなかった。


 だから、次の瞬間。

 安堵した。


 デリックが、その間に割って入ったのだ。

 そして、深くナイフは突き刺さった。


 だが、セオドルは、気が気ではなかった。

 サイラスの次にできた友達が、刺された。

 冷静でいられるわけがなかった。


 彼は、デリックがガングラティと戦っていたのも一番近くで見ていた。

 だから、知っている。

 もうすでに、護符の力はないと。

 彼はあのままだと死んでしまうと。


 そして、不幸にも、デリックが割った入った甲斐もなく、フェイスによるエーリューの拘束は解かれた。

 巫女の力は邪魔をされれば解除されてしまう。

 それは、デリックがその身で庇っても意味をなさないほどだった。


 その一瞬で、エーリューは動いた。

 なによりも速く。

 セオドルは、反応できない。

 目に映るのは、デリックの刺された姿。


 だから、腕を掴まれた。


「【理力】・落華死(ファランダ・フォラズ)


『理力』は発動した。

 触られた右手には膨大なエネルギーがかかることとなる。

 大精霊エインセルをも死に貶める力。

 それを、腕に受ければ、怪我をしたでは終わらない。

 護符がすべて消費されて、直接肉体に負荷がかかる。


 そして、意図もたやすくセオドルの腕は消し飛んだ。


「あ゛あ、ア゛ァ゛ア゛ァァァ!!!!!!!!」


 血を噴き出す腕を見て、セオドルは発狂する。

 そして、ディランは静かに敗北を悟った。

 覚悟が出来ていないことを曖昧にして、戦いに臨んだことのつけだった。

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