三十四話 大精霊討伐1/6-⑨
大精霊エーリュー。
それに、ボクが勝つことはできない。
恐らく、魔法を使っても不可能だろう。
皆の力を貸してもらって出来るかどうか。
「キチケ・イス・ダ・ファース。クアヌケ・イゲレ・イス・ダ・ファース」
ボクは、再び無魔法を使用する。
なにをするにしても、素の身体能力、いや、フェイスによって多少マシになったくらいの力では、太刀打ちできない。
だから、これは必須だ。
いくら強化したと言っても、慣れない力を使うのは疲労が伴うため、あまり長くは使うことはできない。
でも、ボクはやらなきゃならない。
ボクは地面を蹴る。
走ることなど端から不可能。
超速度で動くのに合わせて足を地面に出すなどボクには出来ない。
精々一歩二歩だろう。
それに、一回地面を蹴れば、それなりの距離を詰めることが出来ることを考えれば長距離の移動でも考えない限り、必要ないだろう。
だからまるで、ピンボールかのように、ボクは地面を蹴って、その先で更に角度を変えて再度蹴る。
こうすることで、エーリューに的を絞らせない。
そして、裏を取りやすくなる。
ただ、それだけじゃない。
「ナカヌ・ナゴ・ザ・ゲルン」
来た!
エーリューの魔法だ。
黄魔法によって生成された土の棘が隆起する。
そして、どれをボクは利用して、立体的な動きを加える。
相手の魔法を足場にすることで、空中にも中継点を作るのだ。
そうすることで、エーリューは地面をかけるだけ平面的な前後左右の注意だけでなく、上法からの攻撃も注意せざる負えない。
そしてより、ボクにとっては動きやすい状況となる。
だが、相手もそんなことを承知している。
で、あればどうなるだろうか?
生成した魔法を消して足場をなくすか。
それとも、足場に端からされない様な魔法を使うか。
答えは、それ以外にあった。
ボクは、先ほどと同じように隆起した土の棘を足場にしようとして気付いた。
いや、それが、いともたやすく崩れた時にやっと気づいた。
「っ!?」
エーリューがとった方法は、敢えて足場に出来る魔法を再度生成し、ボクがそれを利用しようとした時に、力を入れると壊れる程度の強度で作ったと言うものだった。
足場自体を使えなくするより、足場を使えると思わせて、失敗させる方が隙が生まれるのだ。
やられた。
そう思ったときにはもう。
足場を無くしたボクは、空中に放りだされるていた。
「ザ・ローオ」
目の前で、火球が作り出される様は、妙に遅く感じた。
時間が引き延ばされるような感覚なのは、これを受ければ致命的なダメージが入ってしまうからだろうか。
それとも単にフェイスのおかげで動体視力が上がっているのか。
ただ、どちらにしても、もう一つ。
もう一つ魔法が発動されたのが分かった。
「ナゴ・ザ・ゲルン」
土の棘。
一瞬のうちに生成されたそれは、ボクの足元に丁度届くことになる。
エーリューが発動したものとは違い、円錐のような形ではなく、しっかりと面があった。
明確に足場として、発動されたものだった。
そして、それをしたのは、もちろんエインセルだった。
後方から支援するように、魔法で助けてくれたのだ。
ボクは、寸でのところで、足場を利用し何とか攻撃から身を守った。
ただ、それでは大精霊エーリューの攻撃は終わらない。
足場を利用し何とか攻撃を受けたボクは、上手く体勢を取れていない。
そんなところに、彼女の手は伸ばされた。
「【理力】・落華死」
確かに彼女は、そう呟いた。
可能性としてはあると思っていた。
だけど、これはきっとボク以外の強い人たちに向けられると思っていた。
景色の奥でエインセルが手を伸ばしている。
そう認識するほど長く難じられた一瞬は、衝撃と共にかき消えた。
「ザ・グリュプッ!」
わかっていた。
先ほど見ていたんだ。
だから、すぐに対応した。
この攻撃は一定の範囲にしか効果がない。
だから、そこから無理やり身体を弾けば避けられると。
「でも、今ので、三つか」
それは、護符の消費数だった。
始めの、バ級の攻撃でニ、今ので三と考えれば、残りは一。
なにを受けても致命傷になりかねない。
ボクは着地した場所で、体をかがめて相手を見る。
地面に突き立てた、短剣を支えに立つことは出来ないが、それでも腕に体重をかけて、倒れないようにした。
そして、そこにエインセルの声が入った。
「セオ!気を付けてください。恐らく先ほど私に使ったのは全体の半分ぐらいの威力です。ですので、今のは恐らく四分の一程度、まだ、一回分くらいは残しているはずです」
情報をロプトで聞いた時から分かってたつもりではあったけど、まだ、もう一回同じのが来ると思うと怖くなる。
当たれば、確実に死ぬ。
「わかったよ」
短く返事をした。
大精霊エーリューは、脅威だ。
それは、分かった。
「でも、やっと、着いたよ」
今いるのは、霊脈、そしてそれが集まる神樹の根本。
つまり、ここは、エインセルで言うボクであり、そして、魔力の源だった。
「なかなか近づかせてもらえなかったからね」
先ほどの戦闘すべてにおいて、エーリューは自身の力の源であるここにボクを使づけなかった。
その理由は、きっとこれだろう。
ボクがエインセルにもらった短剣。
ラートの街で、柄と鞘を付けてもらったこの剣は、もともと、エインセルのいた聖域でオドを浴びてできたものだ。
それは、剣が上手くないボクでも、大精霊に攻撃を与えることが出来るほどの力を有し。
そして、その最大の特徴は、魔力との親和性によって、魔力を吸い寄せる。
なら、それを魔力の集合体とも言える神樹に刺した日にはどうなるだろう。
答えは簡単だ。
魔力の一部は、それにパスをつなぐ大精霊に届かず、剣に集まることとなる。
そうなれば、エーリューはともかく、眷属であるあの二体の魔力供給は難しくなる。
さらに、だ。
これをすることで、フェイスの巫女の力に必要な最後の条件が満たされる。
つまり。
「ボクたちの勝ちだ」
ボクは、短剣を逆手に持って、背後の神樹に短剣の切っ先を叩きつけた。
それは、とても深いとはいえないまでも、幹を傷つけ、それに反応した神樹が、繊維を根をはるかのように短剣に絡みつけた。
それと、同時に、聖域の一角では、男と少女に見えるそれは、相手を見据えていた。
ディランと、ガングレトである。
一方は、居合の構えをし、もう一方は魔法を唱えて、大剣を構えた。
先に、ガングレトが動いた。
一瞬のうちにその場から姿を消した。
もとより驚異的な身体能力をもつ彼女が、魔法で強化すれば、まず、目で追うことは難しいだろう。
彼女の軌道を追うには、後に残された大剣を引きずった跡を見るほかない。
彼女自身が、そうまでしないと上手く制御できないほどに、速度を上げる魔法なのだ。
一方ディランは、目を閉じていた。
集中し、相手を見据える。
そのために、視界を塞いでいる。
ただ、彼女が動くと同じ瞬間に、ディランは、居合の構えから、刀を抜いた。
一閃。
そう言うにふさわしい、滑らかな刀の軌道宙に描かれる。
そして、それと、ガングレトの身体は交差したように見えた。
すれ違うようにした二人。
そして、一拍置いた末に、大精霊エーリューの眷属、ガングレトが地面に膝をついた。
「悪いな。剣神打倒が目標の俺が、こんなところで苦戦何てしてられねぇからな。それと、強かったぜ。お前」
彼はそれだけ言うと、刀を鞘に納めた。




