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三十一話 大精霊討伐1/6-⑥


 目の前で行われる高速戦闘。

 シエンナが、突き出す槍とガングラティの持つ片手剣が交差する。

 武器の相性で言えば、シエンナが優位に立ってるように見えるだろうか。


 シエンナこの攻撃をガングラティは、剣で受ける。

 火花が散り、金属特有の甲高い音もなる。

 空を切り、相手を貫かんとする槍は、相手を防戦一方と言えるほどに追い込んでいた。


 もし、魔法がなければだが。


「──ガ、ガ、ガ・ヴァイツ」


 単純な白魔法。

 それは、光を発した。

 ただの目くらましだ。

 その一手だけで、シエンナはハンデを背負う。


 途端に、守りの態勢に入ったシエンナを、ガングラティは剣で斬る。

 槍が、長いこともあって、比較的攻撃を受けやすくいのか、防いではいるが、きっとそれも長くないだろう。

 先ほど軽く、状況を聞いた時には、彼女の護符はあと一つしか残ってないと言っていたし、無理も出来ない。


「ガ、ガ・シュツ」

「また……!」


 黒魔法。

 それは白魔法とは対照的に闇をもたらす。

 手元を暗くして、剣を放つ。


 視認を難しくして、剣を当てようと考えたのだろうか。


「ガ・ヴァイツ」


 いや、そうではない。

 シエンナの視覚を阻害し、更に白魔法を使うことで目を潰す気だ。


 ボクは咄嗟に魔法を使った。


「ヤレ・ガ・ゲルン」


 いや、使おうとして、使えなかった。

 恐らくエインセルがすでに発動しているのだ。

 あらかじめ決めた時間内であるため当たり前ではあるのだが、わずかにすがった希望は打ち砕かれた。


 それでも、シエンナは構えている。

 目を潰された状態でも、槍で戦おうと。


 そして、ガングラティは、構わず剣を振った。

 視認するのがやっとな横凪の剣。

 それが、シエンナを襲おうとする。


 当たるかに見えた。

 躱せるわけがない。

 そんな攻撃がシエンナを切ろうとして。


 またしても、槍の柄に阻まれた。


「っ!……目が見づらくても、空気の動きと音を見ればわかるって──」

「──ナゴ・ガ・ゲルン」


 言い切る前に打たれたのは、次の一手。

 地面が隆起し、鋭い針の様になって槍で攻撃を受けた反対側、つまり、左わき腹を貫くようにしてそれは発動した。

 反応できない。ただでさえ視界が戻っていないのだから。

 槍を間に合わせるのも難しい。あるのは真反対。さらに、そこには未だ相手の剣を受けている。

 

 遅れる判断。遅れる反応。


 それは、確実に貫く気配を見せて。


「ハァアアア!!!!」


 デリックが、剣で防いだ。

 隆起する地面からの鋭い針に、デリックの剣は砕け散る。

 だが、それだけで、シエンナには十分すぎるほどの時間稼ぎだった。


 槍で、剣を押し返し、自身も後退した。






 聖域に入り、戦闘開始時からフェイスはずっと天に祈るかのようにして、手を結んでいた。

 作戦の核となるほどの強力な力である「巫女」特有の力。

 それは、強大であるがゆえに、準備に時間がかかった。


 敵地で無防備な姿をさらしても、此処までしても未だ使用可能になったのは、三つある力の内二つ。

 残りの一つを使用するには条件が足りなかった。


 だが、それでも、二つも力を使えるようになったことには変わりなかった。

 それは、戦況をひっくり返すほどの力であるゆえに、彼女の紡ぐ一つ一つの言葉でこの場の生死の天秤は傾いた。


「──その栄光司る御手によって、彼の者たちの肉体に力を与え給え」


 巫女であるフェイスが行う詠唱は、精霊魔法のそれとは違う。

 人の言葉で、それは達せられる。


「──セオドロス」


 それは、第一の力。

 この場にいる大精霊エーリューとその臣下以外に対して効果を得る。





 その効果は、単純な身体能力と基礎能力の強化である。

 つまり、相手が自身より高いスピードを誇っていた場合、その差を縮めることが可能になる。

 さらに、相手とほぼ同格だった場合はどうなるだろうか。


 例えば、シエンナとガングラティのような剣の力が拮抗している場合は。


「────!」

「ふん!フェイスちゃんのおかげだね。余裕をもって打ち合えるようになってきた」


 ガングラティから放たれる剣を槍で滑らせるように受け流して、追撃を加えてそう言った。

 先ほどまでの様子と違い随分と余裕が出て来たようにも見えた。

 ボクとデリックを庇うようにして戦う彼女には負担が多くかかってるだろうから、今の状態は幾分かマシと言ったぐわいだろうけど。


 剣を振り回すガングラティにシエンナは槍でそれを受け流し、そして、攻撃の影響で出来た隙を取った。

 今度は槍が攻める。

 突き刺すような攻撃は、剣を降ろさせることはせずに、左右に振らせるにとどめていた。


 ただ、そんな状況をガングラティは許すわけもなく、隙を縫って魔法を発動した。


「サ、サカル・ガ・ブラト」


 足元に向けたその魔法は、氷を発生させてシエンナの足を地面に固定する。

 ただ、それも一瞬だ。

 だが、それだけで隙は出来てしまう。


「クアヌケ・イゲレ・エド・ガ・ファース」


 ボク以外に初めて詠唱された無魔法。

 それは、腕力を高める物だった。

 掲げる剣に力が入る。

 ガングラティはそれを振り下ろした。


「────!!」


 先ほどまでとは比較にならないほどの速さ、そして力でそれはシエンナに向かった。

 強化をしていないせいか、腕から血のようなものがにじむ。

 だが、それが、強靭な体をもつガングラティがそこまでになるほどの力だと言う事が、より分かりやすくもあった。

 ただ。


「ぐっ!?」


 シエンナは声を漏らしながらも、その攻撃を槍で受け止めた。

 ミシミシと、音を立てる槍を無理やり引きはがして、そして振るうと、ガングレティは攻撃を避けるように後退した。


「そっちが力を上げても、すでにフェイスちゃんのおかげで身体能力上がってるからね。それに、いくら攻撃が早くてもそんな機械みたいにパターンが決まってたら、流石に癖を覚えちゃうよ。次、何が来るかってね」


 そう言って不敵に笑った。

 そして、ボクは、今の攻撃を見て一つ確信したことがあった。


「シエンナ。さっきからガングラティとかいうそこの眷属、ガ級しか使ってないよ」


 ボクは、気付いたことを言った。

 先ほどからおかしいと思ってたんだ。

 それが確信に変わった。

 

「あ、やっぱり?」

「うん。今の攻撃は明らかに、ザ級を使う場面だったはず。そうしないと、確実に攻撃は防がれてしまうから。それに、二の手、三の手もないなら尚更に」

「まあ、そうかも。でも、そもそも、あの無魔法ってセオドル君くらいしか使えないって聞いてんだけどっ」


 ボクと話している間にも、相手の攻撃は止まらない。

 そのため彼女は、器用に戦いながら話している。

 これも、余裕が出来たおかげだろうか。


「正確には、上手く扱えないと言った方が良いかもしれないけど」


 ボクはそう言って訂正した。

 別に使えないわけではないのだ。

 使っても、ほぼ意味がないだけで。


 ボクの様に、昔からそれをするために特訓していたなら別だけど、そうでないのなら大精霊の眷属だとしても難しい。

 中には、出来る人もいるかもしれないけど。


 走るのだって一苦労なこの魔法を使おうとは思わないだろう。


「でも、今みたいな、単純な振り下ろしみたいなところでなら、使えると言っても良いと思う。走るのと違って、その一工程に収まるのならね。足を強化して踏みだしたら、もう一歩で支えなきゃだけど。今のはそうじゃない。気にせず力を振るえるはずなんだ。だからこそ、おかしい」


 ガ級で、腕を負傷している時点で、ザ級による消耗を恐れているとは思えない。

 いや、ガ級で仕留められないときのことを考えれば不利になる状況では、確実にザ級を使い相手を殺した方が良いだろう。

 だって、仮にシエンナを倒せたとして、残るのは、ろくに戦えないボクと、負傷して剣もおられたデリックだ。


「だから、恐らく。何らかの影響、または条件によって、ガ級しか使えなくなっている。少なくとも、魔力切れではない。霊脈に関節的につながっている彼らにはその概念はないだろうし。考えられるのは、やっぱり、ボクと同じように、大本である大精霊が魔法を使用している場合に制限がかかること」


 契約した大精霊エインセルが、魔法を使用している間、ボクは魔法を使えない。

 それは、出力機は一つであり、エインセルと共用で使っているようなものだからだ。

 先客が居れば使えない。

 仮に使おうとしても、キャンセルなど出来なく、何も起こることはない。


「ガングラティに、精霊と同じ器官がある可能性も考えられるけど、恐らくそれはない。それなら、同時に魔法を使って全滅も狙えたはずだし」


 よく考えれば、順番に魔法を使うなんてことをしなければ、初めから、大規模な魔法でこちらを殲滅できただろう。

 それに、足止めを行うために、ガングラティの魔法に重ねるようにした氷を発生させる青魔法もあったが、それも、厳密には同時ではなかった。


「それと、これは、ないだろうけど……『理力』の発動時には、ガ級以外の魔法は撃つことが出来ない」


 そんな、予想をボクは言った。

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