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三十話 大精霊討伐1/6-⑤


 大剣を担ぐ少女。

 そんなチグハグな見た目をしたそれは、目にも留まらぬ速度で、その巨大な剣を振った。


 大精霊エーリューの『理力』によって現われた、ガングレトと呼ばれる眷属。

 剣に特化していると言うそれは、剣聖と打ち合えるほどに強かった。


 いとも簡単に、その身体よりデカい剣を振り回し、攻撃をしてくる。

 それをディランは、剣でいなすが次の攻撃にはつなげられない。

 すぐに、二撃目がディランを襲う。

 均衡した、二人。


 だが、ここにいるのは、三人だ。

 シエンナが、隙をつくようにいして槍を差し込んだ。


「────」


 ただ、その攻撃もガングレトの蹴り上げられた足によって、腕ごと逸らされる。


「くっ!その体勢からっ!?」


 驚愕に顔を染めながら、体勢を崩すシエンナは、地面を蹴ることで二撃目を回避する。

 次の瞬間には、先ほどまでシエンナの腹部があった場所に剣が飛んできていた。


 そして、ディランは更にシエンナにガングレトの意識が飛んだのを見て隙をつき。

 さらに役目を交代しての攻撃を二人は繰り返していた。


 そして、暫く、挟み撃ちをするような位置取りから、攻撃をする。

 連携のとれたディランとシエンナの攻撃は、隙を作り、そこにピンポイントで攻撃をする。

 ガングレトからしてみれば、攻撃を凌げば、後ろから攻撃され、それを対処しようとすれば、また背後を取られるようなものだろう。


 ただ、それが出来たのは二人の実力あってのことだった。


 一方は剣聖であり、もう一方は反精霊教組織最強の座をほしいままにする少女。

 この二人でやっとなのだがら、他の物が再現など出来ないだろう。


 それに、だ。

 彼らは、ただ、相手を翻弄していたわけではない。

 戦いの中で、ガングレトが他の二人以外の誰かに攻撃を向けないように移動していたのだ。

 それは、セオドルもガングラティで行っていた為、遅いか早いかの違いではあったが。

 魔法の得意なガングラティは、魔法で一気に吹っ飛ばせるとは言え、こちらのガングレトは剣の太刀人とも言えるほどである。

 労力と、必要な技術が違った。


 だが。

 いや、だからこそと言えばいいか。

 一瞬とも言えない様なミスが、相手に反撃をゆるすことになる。


 シエンナは、わずかに槍の狙いを外した。

 先ほどまで、行動を制限するように戦っていた為、それは、相手の制限していた行動をさせてしまうことになる。

 さらに言えば、しない前提で動いていたのだから、当然それに反応が遅れる。


 突き出した槍は、わずかに体をそらしたガングレトに摑まれる。

 そして、そのまま投げるようにして、引っ張られた。

 大剣を振り回すようなものだ。少女の姿をしてても、大男なんて目じゃないほどに力を出せる。

 それは、瘴気によって超人的な力をもったシエンナが抵抗できないほどの力を。


「────」

「ッ!?」


 腕が引っ張られる。

 槍を話そうとした時には、もう遅かった。


 シエンナは、ディランに叩きつけられるようにして、飛ばされた。

 そして、ディランはそれを受け止め、そこにガングレトが、二人まとめて薙ぎ払おうと剣を振るった。


「くっそ」


 そう短く溢すディランは、攻撃が直接当たったシエンナごと吹っ飛ばされた。

 ディランは、体を起こし剣を握った。


「シエンナ。いくつ削られた?」

「けほ、けほ……二つ」

「マジかよ」


 シエンナが、真っ二つにならなかったことに安堵していると、彼女の答えにディランは驚いた。

 シエンナほどであっても二つ。

 これを他の者たちが受けていたらまずかっただろう。

 こっちを受け持ったのは正解だったのだろう。


 だが。


「残りは?」

「初撃で一、次の至近距離ローオでニ、今のでニ。残りは一つ」

「笑えねぇな」


 ディランは現状を聞いて言った。

 大精霊とはそれだけの相手だ。

 それは、分かっていた。

 だが、このままじゃ死ぬ。


「とりあえず。お前は、デリックたちのところへ行け」


 ディランは意を決したように言った。

 そして、当然シエンナは不満を漏らした。


「それって、後がないからってこと?あと一回あるし、それに、ディランさん一人じゃそれこそ死ぬでしょ」


 ディラン一人では死ぬ。

 それは、正論であった。

 今は何とか、二人でいなしているために、攻撃が届いていない。

 いや、それでも今一撃受けたのだ。

 なら、ここでシエンナが抜ければどうなるかは想像に難くない。


 ただ、ディランは何も、シエンナを気遣っての提案をしたわけではなかった。


「今、お前があっちに行かないとデリックが死ぬ。なんとかギリギリで耐えてる状態だ。今この瞬間殺されてもおかしくない」


 そう言われて、シエンナはデリックを伺いみる。

 確かに、魔法が使えないセオドルに代わってシエンナでも簡単に倒せない様な相手と戦っている。

 そして、すでに限界を迎えているのは見て取れた。


「それに、だ。フェイスもそろそろだろう。巫女の力があれば、行ける」


 シエンナはついぞ頷いた。

 巫女の力、その準備が終わったのなら、何とかなるかもしれないと。








 巫女の力。

 その効果は、三つある。

 長い時間準備をした末に、使用することの出来るようになる三つの力。


 それが、今回の作戦のカギだった。


 ただ、その準備をまつ間に、デリックはすでにボロボロになっていた。


「はぁはぁ」


 肩で息をして、剣を構える。

 本当はボクが、一緒に戦いたいところではあるけど、魔法の使用は今は出来ない。

 エインセルが戦闘している今、ボクが使ってしまっては、攻撃をいなすこともできないだろう。

 剣を使って何とか、と考えてみるが、この相手はそんな次元ではない。

 シエンナとディランさんたち七剣聖を抜けば、ボクがあったことがある人でこれを相手取ることが出来る人はいない。

 そう断言できるほどに相手は強かった。


 にも、関わらず、ここまでデリックが相手取っているのは驚愕に値する出来事だった。


 彼も、本来であれば、死んでしまうような攻撃を護符の力で何とか耐えて無理やり戦っているとはいえ、賞賛に値するだろう。


 ただ、そんな彼も、もう相手の剣に反応できない。

 そんなところで、シエンナがそれを防いでいた。


「坊ちゃん、大丈夫?」

「ああ、助かった。でも、あっちは良いのか?」


 お礼もそこそこに状況の把握にデリックは動いた。

 シエンナは、攻撃を受けながら、器用に説明をした。


「もうすぐ、巫女の力が使えるようになる。だから、大丈夫だってさっ!」


 シエンナは剣をさけて、魔法は発動の前に邪魔をして防いでいく。

 そして、デリックは、それを聞いて呟いた。


「あれを使うのか」


 ディランさんの奥の手、そんな言葉がふさわしいそれをボクも思い描いた。







 大精霊エーリューにより、空に浮遊するかの様に氷の槍が浮く。

 展開された氷の槍は、その数二十四本にも及んだ。

 そして、それは七つしかない盾を展開したエインセルへと飛来した。


 到底防ぐことは出来ない。

 待っているのは、死である。

 いくら、六回分の耐衝撃の護符をその身に刻もうとも、七回盾で防いで、五回分無理やり避ける、それだけやっても十二回槍に刺されて死ぬ。

 六回余分に殺されてしまうほどに、その状況は絶望的であった。


 客観的に見ればだが。


 大精霊エーリューをエインセルは知っている。

 そんなものが、この場に来たのだ。

 で、あれば、こんな出来事に対抗するくらいの策は用意しているのは当然であった。


「【理力】・表面鏡──鏡像」


『理力』

 それは、大精霊のもつ固有能力。

 ならば、エインセルが使ってもおかしくはない。


 彼女の周りに出現したのは、空間のゆがみ。

 いや、周りの風景を反射する何か。

 それは、まるで額のない鏡のような見た目をしていた。


 ただ、その間にも、槍は飛来してきている。

 七つの風の盾は壊れてしまい。

 更に、他の槍がエインセルに届こうとして──


 ──それは、まったく同じ見た目をした槍によって防がれた。


 槍が、鏡のような何かに、触れた瞬間、それは決して突き抜けることなく、そこから現れた全く同じ見た目をして氷の槍に真正面からぶつかり、防がれる結果となった。

 そして、それは一本ではない。

 同じ様な、光景が他の氷の槍でも起こっていた。


 そして、それらが収まったあとエインセルは口を開いた。


「貴方も知ってるでしょう。私が、『理力』を使えることくらい」


 そう言った、エインセルを見てエーリューは黙ったように見えた。

 だが、次の瞬間笑って言った。


「それはお互いさま。私が使えるのは眷属の召喚だけでないことも知ってるわよね」


 まるで、お返しとばかりに。


「【理力】・落華死(ファランダ・フォラズ)


 彼女は言葉を紡いだ。

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