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三話 七第属性


 最初の魔法実技の授業を受けた翌日、気合十分なボクは授業を受けていた。

 とは言っても、実技の授業ではなく座学だが。

 実技の授業が始まったと言っても、座学がなくなるわけじゃない。

 入学初日からの怒涛の座学のようなことにはならないが、実技と同じだけあると考えていい。


 気合いを入れていたのにと肩を落としそうになるが、魔法を使うためには座学も大切だから真面目に取り組もう。


「算術なんかはいいから、今みたいな魔法学の授業を増やしてほしいよな」


 魔法学以外の授業を受ける態度は不真面目としか言いようのない彼だが、こと魔法学については実習も座学も真面目に取り組んでいた。

 今も算術の授業なら寝ててもおかしくない彼だが、しっかり起きてノートまで取っている。


「そうだね」


 ボクはそっけなく返答をして手を動かす。

 ボクは彼ほど優秀ではないから少しでも多く学ぶことの出来るようにしよう。

 そんな考えを持っていたボクは、魔法学では特に真剣に座学を受けていた。


「──では、実習も始まったので魔法の基礎について復習しようか」


 授業冒頭、教諭はそんなことを言った。

 隣に座るサイラスは「新しいことが学べない」と不満げだったが、彼自身基本は大切だとわかっているのか聞く姿勢は崩さなかった。


 この国で言う魔法と言うのは、主に精霊魔法を指す。

 これは親霊国家であるノーンド王国に精霊魔法が歴史や成り立ちに根強く残るからだという。

 だから、ボクも魔法と聞けば精霊魔法を思い浮かべる。

 これは辺境の村でも同じだ。


 ただ、ノーンド王国以外では様々らしい。

 精霊信仰が根強く残るこの国だからこそ精霊魔法と言うものが魔法の代表格として挙げられることがほとんどだが、そうでない国もある。

 魔法と言えばすべての種類の魔法を指すという国は少なくない。

 むしろ国際的に見ればそれが多数派の様だ。


 しかし、その事実が他国における精霊魔法の地位を下げるわけではない。

 と言うか、ノーンド王国に限らず精霊魔法はメジャーなものだ。

 ただ、精霊を崇めるこの国では魔法と言えば精霊魔法だと浸透しているだけの話だ。


「では、属性の話から入ろう」


 魔法属性。

 七第属性とも言われるそれは、その名の通り七つの種類がある。


 赤、青、黄、緑、白、黒、無。

 これが魔法の大まかな基礎的な区分になる。


 例えば、前回の実習で使ったのは「赤」の魔法だ。

 単に赤魔法とも言われるそれだが、主に火の属性として使われる。


 青は水。黄は土。緑は風。白は光。黒は闇。無はそれ以外。

 大まかなイメージとしてはこんな感じだろう。


 これ以上詳しく語ろうとすると次は呪文のことも知らなければならない。


「基礎的な呪文の要素は属性詞と出力詞で出来ている」


 属性詞については先ほどの七つに対応する呪文がある。

 赤ならローオと言うように。


 そして出力をあらわす呪文である出力詞、それがガ級、ザ級、ダ級、バ級と区分されるときにも使うそれぞれの単語だ。

 ガからバに向かって出力が大きくなると考えて良いが、覚えるのは初めの三つだけで良い。

 バ級はまず歴史上でも類を見ないほどに使い手が限られるから、一生生きているうちに見ることが出来たら幸運と言った代物だ。


 最小の詠唱は先ほどの属性とこの基本三つの単語を使用することで可能となる。

 炎を出したければ「ガ・ローオ」、水を出したければ「ガ・ブラト」と言うように。


「そして最後に魔法の幅を広げるのが拡張詞」


 これは先ほどの二単語での魔法発動に関わってくる。

 わかりやすく「赤」ではなく「青」の魔法で例えよう。


 青という属性を簡単に表せば水だと先ほど言った。

 しかし、ここで言いたいのは水だけではなく例えば氷なんかもここに含まれるということだ。


 そこで使うことになるのが「拡張詞」と言うものだ。

 水は「ムゼ」、氷は「サカル」、霧は「クル」と言った具合に対応する単語がある。

 だから、例えばこれらを詠唱すると──


『ムゼ・ガ・ブラト』

『サカル・ガ・ブラト』

『クル・ガ・ブラト』


 こういうふうになるわけだ。

 そして、ここで当然の疑問が出る。

 それは、「青」で言えば水、赤で言えば火を詠唱するときに二通り方法があると言うことだ。

 つまり、「ムゼ・ガ・ブラト」と唱えても「ガ・ブラト」と、唱えても結果は変わらないと言うことだ。

 どちらも「水」が生成される。


 ただ、厳密には違うと()()()()()()


「これは有力な説であり、我が学園、ひいてはノーンド王国含む周辺国のほとんどがその説を採用している」


 実験をして得た根拠はなく、ただの仮設。

 しかし、世界中で多くの国がその節が有力だとして採用している。


 リノア歴205年に学者のアルフィー・オーガストが考案した仮設の一つだ。

 そしてその仮説が「属性詞における概念的属性説」と言うものだ。


 彼は魔法の第一人者とも言われる人物で七第属性の呼称も元をたどれば彼の研究から来ているほどである。

 そんな彼が提唱した説の内容は七第属性には大まかな特徴があるのではないかと言うことだった。

 それが、先ほど言った「赤」が火だったり、「青」が水だったりと言う大まかなイメージだと言う話だが、彼は実際に拡張詞が干渉する前の七第属性として存在する魔力がそのまま火や水ではないかと言う説を唱えたのだ。

 見た目も特性も限りなく火に近いものが「赤」と言う属性の純粋な魔力だとした。


 ここまでが魔法の基礎的な話だ。

 






「やっぱりダメか」


 二回目の実習の授業が終わってしまった。

 周りでは前回成功していなかった生徒も成功し始めて少し焦りを感じる。

 相変わらず、ボクは精霊に遠ざけられて詠唱工程にまで行っていない。

 

「セオドル、次回頑張ろーぜ」

「そうだね。まだまだ時間はあるし」


 サイラスに元気づけられてしまった。

 学園生活が始まるまでは不安もあったが彼に会えてよかった。






 そう意気込んで、挑んだ三回目もうまくいかなかった。

 精霊が逃げてしまうのはなぜか。

 そう考えることが多くなり、真剣に取り組んできた座学も授業中に集中出来ないことが増えてきている。

 このままではまずいと感じていながらも受けた座学で久しぶりに余計な考えに邪魔されることなく聞くことができた。

 理由はやはり大精霊についての話だったからだろうか。


「──人間が契約できるのは小精霊と中精霊と言うのは今までの授業で何度も話した。では、サイラス・クライヴ、その他の微精霊と大精霊がここに含まれない理由は?」

「はい!微精霊は精霊としての力が乏しく魔法の行使ができないことがあげられます」


 座学の授業ではサイラスが当てられるのがおなじみと言えるほどに恒例化していた。

 それは、教諭に嫌われているからではなく、その逆で期待されてのことだった。

 実力もあって、授業も真剣に受けるサイラスはさぞ教諭にとって可愛いのだろう。

 彼も彼で、その性格や魔法について深く学びたいという姿勢から、それを好んでいた。


「では、大精霊は?」

「大精霊はオドの発生する神樹などにパスを繋ぎ、その土地を聖域と言う形で結解で覆っているため、人間と契約を交わすことが不可能だからです」

「そうだ。まず、大精霊様と接触できないと言うのは大前提だが、それ以前に大精霊様は言ってしまえばその土地と契約しているようなものだ。だから、それを強制的に破棄させることはできないし、破棄させたとして自身が契約した場合、人間ごときがその分の魔力を補うことは不可能だ」


 そして、それが、エインセルたち大精霊が聖域を出ることができない理由だ。

 基礎的な知識なので特に歓声があるわけでもなく、彼は静かに座る。

 

 大精霊と言えば、魔法の実習が始まったあたりからエインセルのことを思い出す機会が減っていたと思う。

 始めは精霊と聞くたびに思い出していたけど、最近はそれが日常になっていて、そのたびに思い出すことは少なくなっていた。

 少し心の余裕がなかったように思う。


「ただ、歴史上それを成したものがいる。罪人テオドール・アレクシスだ」


 テオドール・アレクシスと言う名前はボクも知っている。

 何でも凄い魔法使いだったが、大きな罪を犯した人物だと。

 辺境の村ですら語り継がれるほどの罪人だ。


 しかし、名前と経歴が先行し過ぎたせいか、ボクは彼が何をしてしまったのか知らなかった。

 両親も知らないようだったので、ボクが知る由もなかったけど。

 でも、今の話を聞く限り、彼が犯した罪とは、大精霊との契約だろう。


「彼について残っている記録では、凄腕の魔法使いであったと記されている。しかし、実は大精霊様と契約したことによっての功績だったのではないかと、現代の歴史家たちは考えている。一説には、彼はそれまで魔法が使えなかったなんて話もあるくらいだ」


 伝説的な魔法使いが実は大精霊の力を使っていた。

 にわかには信じられない話だ。


「しかし、ここでその方法について疑問を持っただろう。聖域には結解がある、しかも大精霊様のパスを破壊する。そんなことが出来るのかと」


 確かに当然の疑問だ。

 

「ただ、この時テオドール・アレクシスは九歳だったという。その為結解内に侵入可能だった。そして、彼はパスの切断にこれを使った。絶霊の短剣、そんな大層な名前がついているが、特に特別な魔道具と言うわけではない。実際の用途は果物ナイフ程度だったと言われている」


 そう言って振り上げるのは、一振りの短剣。

 光に照らされたそれはきらりと輝く。

 少し、騒がしくなる生徒たちに注釈を入れるように教諭は口を開いた。


「もちろんこれはレプリカだ。ただ、文献をもとに出来るだけ忠実に再現している」


 流石に偽物だとわかり教室の雰囲気は落ち着きを取り戻す。


「ああ、それと今回は特別に持ち出しただけだから、普段は資料館に資料としておかれている。興味があるものがいれば言ってみればいい」


 資料館と言うのは、先ほどの短剣のような、歴史的資料や文献が多くおいてある場所だ。

 敷地内にあって、ボクは利用したことないが、生徒は誰でも使えるらしい。


「これを使い、彼の罪人は大精霊様を刺したという。狙ったのは、神樹とパスをつなぐ魔力供給機関である臓器だ。まあ、とは言え、大精霊様は結解から出れないと言うが、それでもただの人間、当時九歳の少年が傷一つ与えられたかについては未だ疑問の残るところだ」


 話を聞きながらボクは短剣を見つめる。

 大精霊の神樹とのパスを切ったとされる短剣。

 レプリカとは言え禍々しく見えた。


「そして、最大の疑問として、多くの歴史家が首を傾げるのは、その後のどうやって膨大な魔力を補たかだ。天才と片づけるものも多いが、何か理由があるとして研究している者もいる。人間がそれを補うには膨大過ぎるエネルギー量だからだ」

 

 そんなこんなで授業が終わる。

 とても興味深い話だったし、エインセルのことを久しぶりに思い出してなんだか落ち着いた気がする。


「お、なんか、顔色良いじゃん。なんかあったのか?」

「特に何かあったわけじゃないよ。でも、故郷の知り合いを思い出して」

「おーいいなそーいうの。で、女か?」

「まあ、一応そうだけど」

「マジかよ?美人?」

「うん。でもどっちかって言うと可愛い系かな」

 

 ふと、エインセルに会いたいと思うが、ボクは彼女に結局離れることを言えずに来てしまっているから、顔を合わせづらいなという気持ちもある。

 でも、ボクの心は幾分か晴れやかで、なんだか魔法の方もうまくいく気がする。

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