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二十九話 大精霊討伐1/6-④


 天に放たれた火球は肌を照り付ける。

 いや、そんな表現では生ぬるい。

 一瞬のそれは、まるで太陽の再現。

 もしかしたら、対衝撃の護符を消費してしまうのではないか。

 そんな不安を抱く間もなく、間もなくそれは霧散する。


 ただ、その時にはすでに、二撃目の魔法が紡がれていた。


「ダ、ダ、ダ・ブラト」

 

 超至近距離での、魔法の発動。

 ガングラティはこちらに手を向けている。

 

「またダ級かよ!?セオドル!」

「わかってるよ!ダ・グリュプ!」


 デリックの声に、ボクは答えるようにして、魔法を発動した。

 相手がしようとしてるのは、ダ級の青魔法。

 と言う事は、膨大な水を発生させることとなる。

 で、あれば、ボクらは容易に水に流されて、態勢を崩されてしまう。

 それは、ボクらの背後にいるディランさんとシエンナも同様である。


 ならば、ここで止めなければと、ボクは緑魔法による強風を発生させる。

 使うのは、先ほどエインセルが行っていたのと同じものだ。

 一方向に向けて風を発動させるのではなく、破裂するようなイメージで発動させる。

 本来それに適した詠唱もあるのだが、先ほどのエインセルと同じだ。

 一秒でもその工程が惜しい。

 だから、最低限の魔法で、出来るだけ変質させて打つ。


 その結果、魔法の発動は阻止できないまでも、ガングラティをこの場から引き離すことには成功する。

 破裂音と共に、後方に打ちあがった。

 そこまで、体勢は崩しておらず、難なく滞空しているが、それで十分だ。


「キチケ・イス・ダ・ファース。クアヌケ・イゲレ・イス・ダ・ファース」


 ボクは、無魔法を使用し、脚の強度と筋力を強化する。

 そして、同時に踏み込んだ。

 足で地面を蹴る。

 それだけで、ボクはガングラティを捉える。

 そして、自分が意識する間もなく、脊髄反射のようにして、ボクは短剣を振りぬいた。


「────ッ!」

「ぐっ!?」


 だが、それは防がれる。

 相手は、空中で身動きが出来ないとは言え、体勢が崩れていないのはボクも把握していた。

 そのため、これも予想の範疇と言えた。


 だから、ボクは止まらない。


「キチケ・ゾアスア・ファースッ!ダ・グリュプッ!」


 魔法の詠唱により、先ほどと違い、身体全体の強化。

 それと同時に、右手に短剣を逆手に持ち、左手を天に突き出す。

 そして、緑魔法の詠唱により、左手から発生する風を破裂させる。

 それによる推進力を利用し、ボクは、地面へこの身もろともガングラティを叩きつける。


 落下による浮遊感。

 思ったより自分が、それが苦手なことに気付くが、その手を止めることはない。

 短剣を押さえつけたまま、地面からの衝撃をガングラティ越しに受けた。


 そして、一息つくことなく、ボクはガングラティから一歩二歩と下がった。

 体力を消耗し過ぎたことにより、体が酸素を取り込もうと呼吸が荒くなりながらも、それを見た。


「まさか……」


 まるで、何かにつるし上げられるようにして、手をつかず立ち上がるガングラティを見る。

 その身体は、先ほどと違い、使用人服が砂で汚れ、胸の辺りに斬られたような跡が残る。

 ただ、それでも、その身体に着いた傷は浅く、とても致命打には見えなかった。


「────」


 そして、剣を構えた。

 ボクは、避けようとして、必死に動こうとするが、まだ魔法の反動か動けない。

 なら、魔法で迎撃しようとして、今は使えないことを悟った。


 そして、その次には、ガングラティの剣がボクを捉えて──


「────ッ!」

「ぐっ──!?」


 それをまたしても、デリックの剣がはじいた。

 それでも、彼は、受けきるのが精いっぱいで、体ごとボクの隣まで後退させられる。

 膝をついて、息を整えるデリックだが、それでも、体を無理やり起こして、剣を振るう。


「セオドルが居なきゃ、負けちまうだろうからな。ちょっと、足掻かせてもらうぜッ!!」


 彼は、剣をはじきながらそう言う。

 一撃一撃が、彼の体勢を崩すだけの攻撃となる。

 弾かれるようにして、剣が上に打ちあがるたびに、脇を閉めなおして彼は何とか打ち返す。

 ただ、ガングラティの、得意とするところは、魔法である。

 で、あるならば、それも考慮に入れなければならなかった。

 使うのは、恐らく青魔法。


「ダ、ダダ、ダ・ブラ──」

「ハァッ!!」


 そして、突き出される手、それにデリックは臆することなく、剣を突き付けた。

 それによって、起こるのは、魔法のキャンセル。


「へっ!やれば出来るじゃねーか。セオドルたちが、さっきからそらしてるからどんなものかと思ったら、魔力をかき回す程度で霧散するとはな」


 彼は、そう言うと攻撃に移るために、剣を再び構えた。

 そして、また剣戟が始まる。

 デリックは、剣を振るさなかに差し込まれるようにして、発動されようとする魔法を中断させていく。

 ただ、それにも、欠陥は多く、発動前の魔法を妨害するように差し込まれた、剣は耐久値を大きく減らされていた。

 いや、それだけでない。

 その剣を支えるデリックの腕も、すでに限界であった。

 痺れたのか、小刻みに震える手で、彼は、攻撃を防ぐが、次第に被弾していく。


 そして、それは長くは続かなかった。


 剣が弾かれ、大きく隙を見せることになった彼は、腹部を横凪の一閃で切り裂かれた。

 

「ぐぁあ!?」


 そうして、彼は、吹っ飛ばされるようにして、後退した。







 対して、大精霊であるエインセルとエーリューは、向かい合っていた。

 そして、再び二人は動いた。

 魔法──ではなく、肉弾戦である。


「はぁ!」


 エインセルは、小さく声を出して、腕を突き出す。

 そして、それはエーリューは首を後ろに倒すようにして、難なく避ける。

 流れそのままに、体を低くして、エインセルの足を払うようにして、蹴った。

 

「ッ!」

「──ッ!?」


 それを、エインセルは、小さくジャンプをして躱し、更に、自身も蹴りを出して、相手の低い位置にある顔を狙った。

 エーリューは、よけきれず、いや、避ける必要がなかったのか、顔を背ける事さえせずに、自身の顔の横に持ってきた手で受け止めた。

 そして、そのまま、掴み、エインセルを投げた。

 それに対して、エインセルの受け身を取って着地した。


 そうして、また、両者の距離は放れた。


 エインセルは、相手を観察する。

 次はどこから攻撃をされるか。

 いや、どのタイミングで魔法を使われるかを。


 そして、それは、難なくエーリューに見抜かれる。


「貴方にしては、珍しく積極的に魔法以外で攻めて来るとは思ったけれど。そう言えば、そうだったわね」


 なにかに思い至ったように、エーリューは声を紡いだ。


「契約者がいるのならば、その契約者が、魔法を使っている間は使えないものね。魔法」


 そう言って笑った。

 なんとも滑稽だと。

 その身を落としてまで得た対価に見合わぬそれを。


 契約者であるセオドルが、魔法を使用しているときは、使えない。

 正確には、セオドルは、エインセルの身体を経由して魔法を使っているために、その状態でエインセルは魔法を発動することが出来ない。


 ただ、憐れんでも情をかけることなどない。


「残念だけど、まあ、手間が省けたと思えばいいか。──ナカヌ・サカル・ユル・ガ・ブラト」


 魔法を防ぐ術を持たない大精霊エインセルにそう投げかけた。

 そして、例え魔法の行使が可能であろうとも、霊脈からの供給を得ないエインセルには、防げない魔法を使用する。


 彼女が、魔法を発動すると同時に、宙に浮かぶようにして氷の塊が形成される。

 数は、十二、とおの昔に人間が使える範疇を超えている。

 そして、それぞれが、細く引き伸ばされるようにして、槍の形を象っていく。


 一瞬して出来たのは、氷でできた槍の包囲網。

 大背霊エインセルと言っても、霊脈の力なくして、これは使えない。

 そして、必然的に、これを防ぐ術もないと言えた。


「あっけなかったわね」


 それだけ言うと、エーリューは、槍をエインセル向けてはなった。

 ただ、エインセルは、この瞬間、魔法を発動した。


「──スツ・キボ・ガ・グリュプ」


 僅かに差し込まれるようにして、発動した緑魔法は槍が到達するギリギリで顕現した。

 エインセルを、守るようにした風の盾は、エーリューの放ついくつかの氷の槍を防いだ。

 いや、正確には逸らすことに成功した。


 実際、同じガ級と言えども、その威力は霊脈に接続しているエーリューとでは違ってくる。

 結局のところ、これは発動時の加減程度の話に収まるほどであるが、それに加えて発動時間短縮のためにあまり魔力を使わなかったのが原因であった。

 そのため、風の盾は氷の槍を防ぐも、壊れる結果になった。

 

 ただ、エインセルが展開した盾は七つであり、エーリューが使用した槍は十二本である。

 と、なれば、無論すべてを捌き切れているわけではなかった。


「くっ」


 残りの、五本。それらはそれぞれにエインセルへと矛先を向けて飛来した。

 それを掠りながらも躱すので精いっぱいだった。

 

「ギリギリで、魔法の使用に間に合うか」


 エーリューは、エインセルを見てそう言った。

 そして、少し遠くを見れば、契約者であるセオドルは、デリックの後ろにて、息をついた居た。

 今は使用していない。そのおかげだろう。

 だが、それにしても、今の魔法の発動を見れば、カウントか計算をしていたのだろう。

 魔法を使用してから後退するタイミング。

 それを、決めておけばスムーズに発動も可能だ。

 まあ、理論上はだが。


 ただ、エーリューはどちらでもいいかと言う顔をして、エインセルに向き直った。


「今度は、倍。これなら対応もできないでしょ。ヌナエス・サカル・ユル・ガ・ブラト」


 今度は、二十四。

 人間はすでに遠く下に。

 これは大精霊の領域。

 バ級と同様の魔法。


 それは、血をわずかにながす、もう一柱の大精霊エインセルに向けられる。

 四方八方から、槍に射抜かれようとして、また、エインセルは先ほどと同じ行動をとった。


「──スツ・キボ・ガ・グリュプ」


 七つの盾が出現する。

 人間では再現不可能なその代物も、なんとも頼りなく、無意味に見える魔法だった。

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