二十三話 出発
大精霊討伐。
そんな目的を元に、このロプトの街に集まったボクたちだったが、情けない話、それは一時ボクのせいで中断されていた。
とは言え、ほんの一日、それだけで済んだことは良好ではあった。
最悪の場合、ここで時間を使ってしまえば、巫女の力の関係で、チャンスは減ってしまった可能性もあった。
巫女の力は、今作戦の中心となることは想像に難くないが、それだけの力と言う事もあって、回復には多くの時間が必要となる。
そして、「大精霊の業」による、時間の制限もあり、効率的にエインセルを除く六柱の大精霊を倒さなければ、最高の戦力で叩くことはできないだろう。
七回程度という少ないチャンスを潰すことになれば、失敗は許されなくなる。
いや、場合によっては、巫女の力なしで戦いに向かう必要も出てくるだろう。
とは言え、そんな最悪を防ぐことに成功したボクは、テーブルに着いて作戦を聞いていた。
「一応、話し合った結果、これが作戦の最終確認になる。そのつもりで聞いてくれ」
ディランさんは、皆を見渡してそう言った。
ボクたちは、すでに戦力の確認、さらにわかる限りの大精霊エーリューについての力の分析を終えていた。
そこから皆で案を出し合い作戦を練ったのだ。
そして、これは最終的な確認であった。
「まずだ。大精霊と戦う前、つまり、この街から出て、どの経路を通って聖域のあるレターバの森に行くかだが」
彼は、剣の柄を押さえつけていた手を放して、地図を広げる。
広げられた地図は、大雑把なものであったが、それでも位置関係が別れば十分であったため、不便はなかった。
彼は、指をロプトの街があるあたりに指す。
「比較的近いってのは、前も言ったが、それでも、日帰りで行って帰ってこれるわけじゃねぇ。それに、馬も途中までしか使えない」
それは、話し合って早々に、皆に提示されていたことだった。
近いと言っても、それは、早く着くと言うわけではない。
「それに加えて、魔物の群生地帯があるから、それを避けて進まなきゃなんねぇ。まあ、商人が普段使っている道もあるだろうが、それでも遠回りには変わりねぇ」
「実際、あっち方面に魔鉱石の産地なんかが無きゃ、道すらないから、もっと道中辛くなっただろうな」とディランさんは言った。
確かにそうだ。
商業都市が、ここにあり、それでいて、魔鉱石という資源を態々こちらに運ばなければ、こういった道はなかった。
それだけ、魔鉱石が貴重な資源であると言う事ではあるのだが、それでも道があるのとないのでは随分と速度が変わってくる。
足場が悪ければ、さらに時間がかかるだろう。
「こうして、言った先に、村があるはずだ。まずはそこを目指す」
地図上で、迂回するような形で滑らされた指が、ある一点で止まる。
そこは、空白で何も書かれていないが、きっとそこに村があるのだろう。
まあ、別に地図上に記載されていない村など珍しくもない。
「集落という集落はこの辺りに、この村しかない。だから、エーリューを打つのは、ここについて体制を立て直してからだ。まあ、ただ、恐らく宿なんかはないから屋根の下には入れないだろうがな。少人数だったら、剣聖の地位も生かしようがあるんだが、この人数だとキツイ。良くて、納屋とかだろう」
確かに、村と言うのは、人を収容する造りにはなっていない。
ボクも村出身だから、分かるけど村には宿などないのだ。
もし、人がたくさん来るような場所なら、とっくにそこは街になってるはずである。
そのため、数少ない来訪者である行商人は自身の馬車で寝るのが主だった。
「で、次だ。こっちが本題。大精霊討伐のプランについてだ」
彼は、改めるようにそう言った。
ボクたちは、作戦を確認した後、日を改めて出発する準備をしていた。
支度が出来たボクたちは、街の外へと足を運んでいた。
そして道中エインセルが口を開いた。
「それにしても、幸運でしたね。商人の馬車に乗れることになって」
「確かに、ボクたちが、地図通りに進むより、道を知っている人に連れてってもらった方が良いしね」
そんな言葉に、ボクも返す。
「ばーか。幸運でも何でもねぇよ。あの野郎、乗せる代わりに、時期を逃した商品をまるまる買わせてきやがって」
ディランさんは、ボクたちの会話に反応してそんなことを言う。
そして、そんな彼をなだめるように、デリックが口を開いた。
「まあまあ、ごみを売りつけられたわけでもないですし。それに値引いてくれたじゃないですか」
「値引いただ?アイツはしっかり原価分は回収しやがったよ」
ただ、それもむなしく、ディランさんは更に言葉を漏らした。
「二人とも、落ち着いてよ。まだ出発もしてないんだからさ」
そんな様子を見て、言ったのはシエンナだ。
「ね、フェイスちゃんもそう思うでしょ?」
「エイン様、今日の服もいつもと違って可愛らしいです。へへ……何か言いましたか?」
「う、ううん。何でもないよ」
フェイスは、エインセルに夢中で、話を聞いていなかったようだ。
そんな、様子を見てかシエンナは首を振った。
そうこうしているうちに、街の外へ近づいていた。
そして、衛兵が立っているところを見ると、その脇に手を振る一人の男がいた。
「いや~、皆さん待ってましたよ!」
そう言ったのは、今日ボクたちを乗せてくれる商人のジェイコブ・ケイリーだ。
細身で、それでいて若々しい彼は、ボクのイメージする商人とは少し違った。
とは言え、中身は商人そのものであった。
誰にでも人当たりが良いのだ。
「ささ、ただの荷馬車ではありますが乗ってください。行き先が同じなのは途中までですが、ディランさんには御恩があります!丁重に運ばせていただきますよ!」
いや、人当たりが良いと言うか、テンションが高いと言うか。
まあ、とにもかくにも突っ立っているわけにもいかないので、ボクたちは荷台に乗り込んだ。
六人という人数は多いように感じが、それでもぎゅうぎゅう詰めになるわけでもないようだ。
二頭の馬が引いているだけあって、荷馬車も大きかった。
「それにしても、ディランさんにはなんだか親近感がわきますねぇ!」
出発して少し、彼はそんなことを言った。
道中も場を盛り上げるつもりなのだろうか。
「いや、わかねぇよ」
「いえいえ、そんなことありませんよ。ディランさん、この国の人じゃないんですよね。実は私もそうで、なんだか湧いちゃうんですよね」
「沸いてんのは頭だろ」
そんな言葉をディランさんは言い返す。
「そりゃ、酷い事言いますね。私そんなにされる筋合いないと思うんですが?」
「お前、忘れたのか?馬車に乗せるってだけでどれだけ俺に払わせたか?」
「いえいえ、覚えてますけど。ですが、私も商人、それも仕方がないですよ。対価をもらわなければ、客に嘗められてしまいますからね」
ディランさんの言葉に、ジェイコブさんはそう返した。
確かに、商売する立場なのだ仕方がないのだろう。
金に変わるはずの荷物と引き換えに、ボクらを乗せる。
それは、当然のように思えた。
「そうじゃねぇよ。明らか吹っかけてんだろうが。こっちは、移動中の護衛までするってんだぞ」
「まあ、確かに。ですが、それで乗せてくれるのは、都市間を移動する商人だけでしょう。私は、魔物群生地を迂回して、遠方まで向かう商人です。それに、私以外に、あの方面に行く馬車がいないのをわかってディランさんも頷いたのでしょう」
「わかってんだよ。そう諭すように言うな」
「それも承知ですよ。これくらいの悪態なら、まだいい客だとわかります。酷いと、殺そうとしてきますし。何より、貴方が剣聖と言う立場でありながらそれを利用しなかった」
ジェイコブはそう言った。
「それに、苛立っていたあなたに執拗に絡んだのも私ですし」
「おい、わざとかよ」
「すみませんね。一度話して見たかったのですよ。剣聖と会える機会などこれから生きていてそうないでしょうし」
「喋りたがりかよ」とディランさんは言って、剣に触れた。
「どうかしましたか?」
「魔物だ。恐らく、群れかなんかからはぐれた個体だろうが」
ふいに、立ち上がったディランさんに、ジェイコブは疑問を呈し、それにそう答えた。
「すみませんね。安全なルートを通っても、時々遭遇するんです」
「ああ、分かってる」
そう言って、ディランさんは、スピードを緩めた馬車から降りた。




