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十八話 勝機はある


 とある宿屋の一室。

 会議室の様になったその大きな部屋で男は口を開いた。


「じゃあ、全員が揃ったところで、大精霊エーリューについて話そうか」


 恰幅のいいその男は、剣聖ディラン・ブラントと言い、この国有数の剣の達人だ。

 そんな彼が今回エインセルに頼まれ此処までのお膳立てをし今もなお進行役として発言してくれている。


 しかし、その発言に異を唱える者がいた。

 いや、正確にはその発言の前に行っておきたいと言う風だったが。


「まず、皆気になってると思うから私のことについて話していいかな?」


 そう口を開いたのはシエンナだ。

 彼女が、少し首を動かすと、その黒髪がはらりと揺れた。

 どこまでも黒いその髪だが、短く切りそろえられているせいか重みは感じない。


「ああ、それは俺も聞きたかった。他の奴らもそうみたいだし、断る理由もねぇよ」


 ディランさんはシエンナにそう返答した。

 どうやらボクらも気になっているだろうと言うことは薄々気付いていたのか一瞬こちらを見たようだった。

 腰に携えた剣は年季が入っていて、いかにも剣一筋と言った風貌だが、周りを見る能力にも優れているようだった。

 いや、だからこそかもしれないが。


「じゃあ、作戦会議の前に私のことを話させてもらうね。この瘴気についても」


 そう言った彼女は自分に注目を集めるようにして、その場に立った。

 それだけで、彼女に引きつけられてしまいそうになるのは天性の才能か。

 スタイルのいい誰が見ても綺麗だと言うだろう身体がそうさせるのか、それともその見せ方が彼女がうまいのかはともかくとして結果として彼女は皆の注目を一瞬で自身に集めた。


「じゃあ、一応自己紹介から、改めて、私はシエンナ・シエラ。反精霊教組織「断罪の光」の構成員ってことで良いのかな?取りあえず、私の両親が精霊教の遠征で被害を受けた人、で、私がその間に生まれた子供。だから、大精霊を倒す。まあ、別に私個人には恨みも何もないけど」


 そう言った彼女はちらりとこちらを見た。

 恐らく、エインセルは大精霊で敵対する関係にあるためだろう。

 それでいて、恨みがないと言うのはあくまでシエンナの目的はエインセルではないと言う事だろう。

 そして、彼女は続けた。


「それで、皆気になってるのは瘴気についてだと思うんだけど。魔力みたいに気付かれなければ楽なんだけど……」


「まあ、瘴気だって、一般人は普通気付かないんだけど」と付け加えて笑った。

 確かに、体に内包された魔力は他人には量などを測ることはできない。

 知覚できるのは、その魔法が発動して目に見えるようになってから。

 それに比べて瘴気は、何もせずとも「嫌な気配」として他人が感じてしまう。

 どうやら、感じることが出来るのは一部の限られた人たちだけらしいのだが、それでも大変だろう。


「じゃあ、何故こうなってるかってところから話そうかな」


 シエンナは、順序を頭で組み立てていたのか人差し指を顎につけて、少し目だけで上を見た後にそう言った。


「まずなんだけど、みんなは精霊が嫌いな人たちは何に祈ると思う?」


 そういわれて、ボクは首を傾げる。

 国中の人間の大半が精霊を尊んでいるこの国に生まれた僕は、それ以外に祈るものなど考えて事がなかった。

 

「神、とか?」


 強いて言えばこれだろう。

 そう思ったボクは発言してみた。

 この国だって、精霊教が広まる前は神を信じていたと言う。

 既存の貴族制度が、壊されて今の精霊魔法の適性の有無で貴族制度がつくられたそれより前はきっと今の精霊の位置に神がいたのだろう。

 でも、その答えは不正解だったようだ。


「ぶっぶぅ~。正解は悪魔でした!」

「悪魔って、あの?」

「そう。瘴気をばらまいて魔物とかを作ったソレ」


 まさか。

 そう思った。

 全くボクの考えにはなかったのだ。

 でも、知っていたはずのデリックはもとより、ディランさんは納得してるようだった。


「ああ、悪魔ね。まあ、この国で育てばセオドルが此処まで驚くのも無理ねぇとは思うが。俺が生まれた国じゃ、大抵頭のおかしい奴がやってたな」


 何か懐かしむようにして彼は言った。

 やはり、育つ場所が違えば常識も違うのだろうか。

 そして、その言葉にシエンナは賛同した。


「そうそう!頭おかしいんだよねぇ。だから、実の娘に悪魔を降ろそうとした」


 その言葉に、ボクは耳を疑う。

 悪魔を降ろすと言う事は、いや、それよりも実の娘を危険にさらしてそんなことを。

 でも、今度は驚いていたのはボクだけじゃなかったようで、ディランさんも思わずと言った感じで驚愕を顔に出していた。


「あーでも安心して。別に私が悪魔に取りつかれてるとかじゃないから。まあ、成功するはずないし」

「確かに、俺の知識でも成功するはずがねぇってのは同じなんだが、それを知ってもなお行うってのは怖いな」

「そうだね。でも、私という成果だけでもっとやる人は増えたよ。そもそもの話、悪魔を降ろすのに成功しないってのは人間の強度では耐えられないから。でもさ。失敗は失敗なんだけど、私、生き残っちゃったんだよね。元々、成功例ゼロのくせに組織内で盛んに行われてたその行為がさ、私が少なからず瘴気によって人間離れした力を出せるようになったせいでそれが成功例として扱われてもっと、皆がするようになって。まあ、未だ生き残ったの私だけなんだけど」


 彼女は少し悲しそうに「身内だけの組織なのに人をどんどん殺すとか馬鹿だよね」と言った。

 確かに、合理性と言う面で言っても、恐らく精霊教軍の被害にあった人と、その子供だけで作られている組織の人数を減らすような行為は彼女に馬鹿と言われても仕方のないように聞こえる。

 でも、それ以上に彼女は自身のせいで加速してしまった事態について悲しんでいるのだろう。


「結論から言うと、瘴気は出てるけど、悪魔につかれてるとかじゃないから気にしないでねってこと。つい組織の人たちとはこんな話できないから必要ないとこまで言っちゃたかもだけど」


 シエンナは最後にそう言うと席に座った。


「それと私から何かを言うのなら、悪魔がとりついた人間であれば、瘴気はシエンナさんのものとは比べ物にならないので、嘘ついてるとかもないです」


 エインセルがそう言ったことでより彼女の話は信憑性を帯びた。







「じゃあ、前置きはこれくらいで良いにして、今度こそ作戦について話そうか」


 ディランさんは気を取り直すようにしてそう言った。


「まず、情報の共有だ。まあ、シエンナが来る前に話した時に少ししたが、確認しよう」


 シエンナは知らないはずだし、それに命を賭ける作戦なのだから慎重にするくらいがいい。

 ボクも同意見なので、異論は挟まず聞く姿勢に入った。

 それをディランさんは全員を見て確認し、再度口を開いた。


「まずだ。大前提に、今回討伐するのは大精霊エーリュー。これについては間違いないだろう。こいつを狙うのは今現在大精霊の中で一番倒しやすいからだ。この認識であってるか?エインセル」

「ええ、それでいいです。正直なところ大精霊自体に優劣をつけるのは難しいですが、数百年前の悪魔の影響を考えれば、彼女が一番倒しやすいでしょう。それに、結解をどこに張るかをお互いに話してはないので、正確な位置は知りませんがどうやらこの近くにいると聞きましたし」


 エインセルは、同じく大精霊だ。

 この中では一番これに詳しいはずだ。

 そして、その彼女が一番倒す安いと言うのならば、それを狙うのが勝率が高い。


 そして、エインセルの言葉を引き継ぐようにディランさんは注目を集めるようにして声を上げる。


「それに関しては、俺が事前に調べた。ちょっと手こずったがな。セオドルの村の様に村長と巫女であるフェイスの家族が知ってれば多い方で、普通の大精霊はそんなことないからな」


 確かに、ボクの村では近づいてはいけないとだけ言われていたけれど、実際今日にいたるまであそこだ聖域だったとはエインセル以外の口からは聞いたことがなかった。

 そんな状態でも、人に知れ渡ってる方で、普通は村に祀られることもなく巫女の家系だけが代々奉仕するのだと言う。

 だから、人気のない場所に聖域があってもおかしくないわけだ。


「まあ、それで分かったのは、ちょうどロプトから少し離れた場所にある、レターバの森の奥にあるとわかった」

「はいはい!しつもーん!」

「なんだ?シエンナ」

「どうやって突き止めたの?」


 シエンナは元気よく手を上げて質問をした。

 さっきまでの悲し気な雰囲気はもうない。


「ああ、オドの流れだよ。この辺り近辺から大精霊が引きこもったと言われたあたりから、オドがある方向へ流れて行ってたみたいでな。そこを追ってみたら聖域を発見ってわけだ。まあ、知り合いの賢者に頼んだから俺の手柄ってわけじゃねぇが。それと、そいつには諸々は教えてねぇから安心してくれていいぜ。一緒に聖域まで向かったわけじゃなくて、あくまでオドがどの方向に行くか見てもらっただけだしな」


 ディランさんがそう言うとシエンナは納得したような顔をする。

 そう言えば、ラートにいた中精霊も大精霊がどうとかって言っていたような。

 ラートのオドがなくなったのもこのせいなのかもしれない。


「で、次にだが、エーリューの能力についてだ。こっちもエインセルの方が詳しいだろうから頼んでいいか?」

「わかりました。まず、です。大精霊はこと魔法戦においては何でもできると思ってくれていいです。聖域にいる限り人類が到達できない魔法を当たり前のように撃ってきます」

「やばいくない?坊ちゃんとか一瞬で死んじゃうじゃん」

「……否定は出来ないが黙れ」


 エインセルの説明を聞いてシエンナは驚愕して、デリックに話しかける。

 デリックのシエンナへの返答を見て改めて仲の良さを感じた。


「それと、こちらは、対策も必要だったので、先にディランさんには伝えましたが、大精霊には固有の能力があります。そのため、それを頭にいれて作戦を立てるべきでしょう」

「固有の能力?」


 シエンナは驚いたような顔をする。

 固有の能力。

 恐らく魔法とは違うものだろうと推測できるそれは、きっと大精霊だけの常識のようなもので、剣聖であるディランさんも知らないようだった。


「ええ、私たちは『理力』と呼んでいます。エーリューははそれを使い空腹を促します」


 その言葉に、シエンナはキョトンとする。

 確かに、すべての魔法が使えると言われた後に、これを言われても拍子抜けだろう。


「それなら、護符を使えば、何とかなるんじゃ」


 護符と言えば、魔法師などがその魔法を込めた札のことである。

 例えばであるが、今の空腹と言った状態に陥りやすくなっていたとしても、それに対処できる護符を貼ればどうってことはないだろう。

 先ほど、エインセルが事前に伝えたと言うのは、その護符を用意するためだろう。


 でも、あえてエインセルが注目を集めるような言い方をしたのだから、それだけなわけがない。

 それは、シエンナだった薄々気付いているのか、微妙な顔をしている。


「護符なら、ディランさんに頼んだので、大丈夫ですが、本題はここからです。彼女の『理力』には他にも、眷属を呼び出すものがあります。運用範囲としては、結解を張る張らないにかかわらず、使役可能な範囲は結解より狭いので、結解内でなければつかえないと考えて良いでしょう」

「ふーん、じゃあ、結解に入るまでは眷属に警戒する必要はないんだね。で、眷属って使い魔みたいな?猫とか?」


 シエンナは疑問符を頭に浮かべて「にゃ~」と猫のポーズをして見せる。

 しかし、エインセルは首を振って口を開いた。


「あれを人と言っていいのかは、甚だ疑問ではありますが、動物や魔物のような見た目ではなく、人型です」


 人型、そう言えばシエンナは真剣な表情になる。


「それもただの人型ってわけじゃないよね。恐らくだけど、ディランさんと私が居ても、不安要素としては事欠かないほどの体術か剣術、あるいは魔法の達人」

「ええ、そうです。数は二体ですが、それでも強敵です。役職に当てはめるのならば、剣士と魔法師でしょうか。ですが、剣士の方も多少の魔法が使えますし、魔法師の方も接近戦が出来ないわけでもないです」


 エインセルがいう、二体の眷属はとても強そうに思えた。

 剣と魔法、両方を使えるのが二体。

 しかも、剣と魔法に特徴が分かれているのならば、連携されればつらいだろう。


 そして、極めつけは、剣聖であるディランさんがこちらにいても不安要素として存在しうること。

 並みの剣士や魔法師ではないだろう。


 そう、ボクは、思っていたのだけど。

 シエンナはまた口を開いた。


「でも、勝機はあるってことだよね」

「ええ」


 彼女は、それでもやる気に満ちていた。

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