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十七話 悪魔召喚


 目の前で起きた光景、男の人の首が宙を舞う姿を見てつい呆けてしまう。

 状況の把握に努めるボクの頭は一向に上手く情報の処理が出来てはいないが、それがある意味衝撃的な出来事であると証明していたようにも思った。


 ボトリと落ちた男の首をのけるように空から現れた少女は蹴った。

 その異様な光景にボクは未だ適切な判断を下せていなかったが、デリックが先に口を開いた。


「おい、あのままだとコイツに当たるところだったぞ」

「でも、当たらなかったでしょ」

「それは俺が助けたからで、間に合わなかったら……」

「でも間に合った。私だって、此処にいたのが他の人だったらあんなことしてないよ。此処にいたのが意外と強い貴方だったからやったんだよ。坊ちゃん」


 少女は何でもないようにそう言う。

 だが、デリックは口を開いた。


「そもそも、街中で人殺してんじゃねーよ。こんなとこで牢屋にでも入ってみろ、大精霊の討伐どころじゃないぞ」

「……ごめん」

「はぁ、さっさと、此処を離れるぞ」

 

 デリックはボクたちを伴って、バレないようにしながらその場を離れた。

 そして、暫く歩いて会話を聞いているうちに二人の関係性が見えて来た。


「もしかして、デリックはこの人と知り合い?」

「ああ、昔からのな。だが、セオドル、お前にとって全く関係ない相手と言うわけでもない」

「ボクに?」


 ボクは首を傾げた。

 少なくとも会った記憶はない。

 知り合いと言えるのは精々村の人くらい。


 それにこんな人()()()()()()()()()()()()


「お!じゃあクイズにしよーよ。じゃあ、ヒント1!……ヒント、えーっと」

「セオドル。この前、仲間を集めるために組織のやつらに協力を頼んだろ?それで来たのがこいつだ」

「組織っていうと……」


 ボクはエインセルと数人の男たちが小さな闘技場で戦っていたのを思い出した。

 この街に来る前のことだからよく覚えている。


「でも、あそこにいたのは男の人たちだけじゃ」

「あいつらも準備するって言っていただろ。大精霊に挑めるだけの力を──」

「あそこにいた人たちは下っ端だしあんまり強くないからね。それに凄ーい強いっていう剣聖なんかよりももっと強い大精霊を倒すんだから組織最強の私が呼ばれたってわけ」


 少女は割り込むようにしてそう言った。

 先ほどの男を殺した少女と思えないほど、平然としゃべる。

 いや、むしろ、殺しを普通のテンションで行えることが異常なのだろうか。


「あと、セオドル君だっけ、私、シエンナ・シエラ、よろしくね。あ、ちなみに、デリック坊ちゃんとは従妹なんだ」

「そうなんだ。従妹なんだね。よろしく」


 シエンナは手を差し出してきたのでボクは握った。

 従妹と言うがデリックは茶髪でシエンナは黒髪で印象は違って見える。

 そんなボクを横で見ていたデリックはなんだか微妙な顔をしていた。


「……どうしたのそんな顔して」

「いや、大精霊に挑むだけあってお前も大概だと思っただけだ」

「どういうこと?」


 ボクは意味が分からずに聞き返す、

 すると、シエンナが「それはね」と言ってデリックの代わりに口を開いた。


「大抵の人って、目の前で人を殺した私なんかと普通に話そうとしないからね。実際殺したのを見てなくたってその人が殺人鬼だと言われれば自然体で話すなんて不可能だよ」

「そんなものかな。なんだか助けてもらったって印象が強くて」


 そうは言われてもあまり実感はない。

 其れよりも助けてもらったと言う感覚が強かった。






「セオ~!会いたかったですぅ!」


 エインセルはボクの腰に抱き着いて嘆くようにそう言った。


「ボクもだよ」

「ねーねー。この二人って1か月ぶりの再会なの?」

「いや、2時間無いくらい」


 シエンナが小声でデリックに何かを聞くと、ボソッと答えた。

 エインセルの後ろからフェイスが顔を出したのが見えてボクは口を開いた。


「そう言えば二人は何かお店とか言ったの?」

「ええ、私たちは写真屋に行ってみました。取りあえずまたカメラを使えるようになりました」

「はい。これです」


 エインセルが説明し、フェイスがカメラを持ち上げ当て見せてくれる。


「それで、そっちの人は?」


 エインセルは、ボクの身体から顔を出して覗くようにシエンナを見てそう聞いた。


「私は大精霊討伐のために組織から派遣されたシエンナ・シエラ。貴方が、エインちゃんだっけ」

「そうです。よろしくお願いします」

「うん。よろしくね。それとフェイスちゃんも」

「よろしくお願いします」


 エインセルに続いて、フェイスは礼をする。


「なあ、俺の時はあんなに受け入れてくれなかったぞ」

「そりゃ、私は可愛い女の子だし」


 デリックとシエンナはやはり従妹と言うべきか仲がいいのだろうか。

 どことなく、ボクたちと話す時より軽い気がする。


「セオは用事は終わったんですか?」

「うん」

「では、一度戻りましょうか」

「そうだね」


 ボクはそう頷いて歩き出した。





「ねぇ、デリック。どうなの進捗は?」


 セオドル、エインセル、そして、それに付き従うように歩るきだしたフェイスを僅か後方から眺めて、シエンナは言った。

 話しかけた相手は同じく、少し離れた場所から3人を追うようにして歩くデリックである。


「何の話だよ?」

「なにって、そりゃあれよ」

「あれってなんだよ?」


 要領の得ない会話に微妙な顔をしてデリックは足を速めようとしたところでもう一度、今度は明確に彼女は聞いた。


「フェイスちゃんとの関係に決まってるでしょ」

「……はぁ!?」


 一瞬理解できなかったのかデリックは驚いたのか声を上げた。

 それは行動にまで影響が出て、速度を上げようとした足がつい止まったほどだ。

 暫く固まって、そのまま歩いていくシエンナとの間に距離が開き始めて駆け足で戻っていく。

 とは言ってもほんの少しの間の出来事で前を歩く三人は気付いてないようだった。

 

「好きなんでしょ。あの子のこと。私わかるんだから」


 何でもないように言うシエンナにデリックはうろたえた。

 子供のころから知っていてそう言うところは分かりやすいのかもしれない。


「で、どうなの?手ぐらいつないだ?」

「いや、まともに話したことすらない」

「え。マジ?」

「マジだよ。そもそも、俺嫌われてるまであるし。いや、嫌われているっていうか、興味すら持たれてないっていうか」


 前方を歩くフェイスを見た後、少し視線を移して、セオドルとエインセルを見た。


「でも、珍しいね。デリックってヘタレだけど、好きな子にはアピールするのに。坊ちゃんでもそこだけは見直してたのになー」

「まあ、今までだったらそうかもな。でも、分かるんだよな。俺が何しようと振り向いてはくれないって」

「ふーん」


 そんなもんか、とでも言いたそうな顔をしてシエンナはフェイスを見た。






 少し歩き先ほどの宿に着いたが、ディランさんはまだ帰ってきていなかったので、デリックが呼びに行くと言った。

 そして、挨拶も兼ねてシエンナもついて行ったため、この部屋には、ボク、エインセル、フェイスの三人だけが残されていた。

 

 その状況にボクはいい機会だと思い口を開いた。


「エインはさっきのに気付いた?」

「さっきのと言うと……シエンナさんの話でしょうか?」


 その言葉に、エインセルも気付いていたのだと確信する。

 いや、エインセルだからこそ気付くことが出来たとも言えるのか。


「うん。さっき会って思ったんだ。何か嫌な気配を纏ってるって。助けてもらったとはいえ、平気で人を殺すような人ではあるし」

「そうですね。恐らく、その嫌な気配と言うのは瘴気を感じたのでしょう」


 瘴気、そう聞いて思い出すのは魔物、そして、ラートの街にいた中精霊。

 どちらにもいい印象は持たない。


「でも、人間が瘴気を纏う事なんてあるの?」

「あるか、ないか、で言えばあるでしょうが。ですが、魔物を例に考えるなら、体に変異が起きても一世代越えさえすれば瘴気と言うのは纏うことなどありません。でも、彼女は纏っていた。であれば、答えは一つでしょう。彼女が生を受けて今日この日に至るまでの数十年間のどこかで悪魔と接触していると言う事です」


 その言葉にボクは衝撃を受ける。

 大昔、それもエインセルたち大精霊に呪いをかけたような存在がここ十数年のどこかには確実にいたとなると動揺をせざる負えない。


「でも、それって、大昔から生きながらえていたのがいたってこと?」


 昔からいる精霊が少なからずいるように悪魔もそうなのかと疑問を持つ。

 でも、それはエインセルの言葉によって否定される。


「いえ、それはないはずです。恐らく彼女が接触した方法は悪魔召喚の類でしょう」

「悪魔召喚?」

「はい。私はともかく、大精霊以外の小精霊や微精霊は普段姿を隠しています。これはセオもよく知っていますよね?」

「うん。それを可視化して魔法を使うわけだし」


 基礎の基礎。

 しかもずっと成功しなかったボクに限っては、他の人よりもそこについての実感が大きいだろう。

 そんなことを思いながら答える。


「では、何故、彼らは普段見えないかは知ってますか?」


 そう言われて考え込む。

 そんなこと考えたこともなかった。

 あるべきままを受け入れていたボクには到底分からない。

 ボクは首を横に振った。


「実を言うと、彼らの住む世界とこちらの世界は違うのです」


 おもむろに、彼女はそこにあった紙を取り出し三つに分けた。

 両側から折り目をつけて綺麗に手で切り分けた彼女にボクは器用だなと感想を抱く。

 そして、エインセルは一枚目に人間のような何か、そしてもう二枚目にトカゲの様に見える絵を描いた。

 三枚目に書かれた絵は、何と形容すればいいか分からなかった。

 トカゲは精霊を指していて、三枚目は悪魔だろう。

 そして、悪魔の紙は隅に置かれて、他の二枚をエインセルは手に取った。


「次元と言うのでしょうか。全く別の世界ですが、それはこの世界とほぼ同じ位置にいて重なっています」


 エインセルは二つの紙を重ねた。

 人間の絵が上になっているので、当然トカゲの絵は見えない。


「ですが、片方からは、見えるそれも、もう片方からは全くと言っていいほど見えない」


 彼女は二枚の紙を重ねたまま持ち上げて光に照らす。

 地面に接していた下の紙、つまりトカゲが描かれた精霊の世界からそれを除くとわずかに人間が透けて見えた。

 反対に、テーブルに再度置かれた状態では人間側からは全くと言っていいほど見えることはない。


「一見人間からは、そこに精霊がいるとは見えない。ですがこの二つの世界は魔力の干渉程度で境界線があやふやになってしまうほどに重なっている」


 彼女は水差しから、紙にほんの少し垂らすと、下の紙が透けて見えた。

 人間の絵とトカゲの絵が重なっている。


「そして、精霊の世界が人間の世界とは別に存在するように悪魔の世界もまた存在します」


 そう言って指を指すのは、隅に置かれた悪魔が描かれた紙であった。


「これは人間の世界と精霊の世界の様に近しい位置にあるわけではありません。そのためこちらの世界に呼ぼうとするのなら魔力での干渉などではなく、悪魔召喚と言う儀式が必要になるわけです」


 彼女は悪魔を切り取って強引に人間の紙の上に重ねた。


「それで、私もそこまで詳しくないのですが。悪魔召喚と言うのは──」

「エイン様。恐らく他の皆様が帰って来ました」


 エインセルの説明を遮るように、外の状況を見ていてくれたフェイスが声を上げた。

 流石に、シエンナの前で話す内容ではないと思っていたばかりに様子を伺ってもらっていたのだ。


「ありがとう、フェイス。セオ、これはまた次の機会としましょう」

「うん」


 




 と言う事で、ボクは悪魔の話について聞きそびれてしまったわけだけど、その話題をする機会は思ったより早く訪れたのだった。

 どういうことかと言うと……


「じゃあ、作戦会議の前に私のことを話させてもらうね。この瘴気についても」


 他ならぬシエンナ本人が皆の前で大々的に声を上げたためである。

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